五輪とFIFA、「ふたつの裏金」に絡む電通のキーマン

五輪とFIFA、「ふたつの裏金」に絡む電通のキーマン
 

さて問題は、招致委員会の照会に対し、ブラック・タイディングス社が確かな会社だとお墨付きを与えた電通である。WADAの独立調査委員会の報告書は、同組織のサイトからダウンロードできるが、電通とブラック・タイディングス社の関係について、以下のように記している。

電通の系列会社「電通スポーツ」は、スイスのルツェルンに「AMS」という会社をつくり、、国際陸上競技連盟(IAAF)から与えられた商業上の権利を販売していた。ブラック・タイディングス社のタン氏は、IAAF主催の世界選手権大会(2015年北京大会を含む)などについてAMSのコンサルタントをつとめていた。

これを読むと、どうやら電通の関連会社AMSは、わざわざIAAFの有力者と親しいタン氏を間にはさんで、IAAFメンバーになにごとかを働きかけていたようだ。

馳文科大臣によると、ブラック・タイディングス社から招致委員会に売り込みがあり、電通に照会した結果、実績があるコンサルタント会社だと確認できたので契約したという。それはそうだろう、電通とブ社はつながっているのだから。

一時はISLに資本参加し、この寡占化された狭い世界にどっぷりつかってきた電通が、マネーの動く裏側の事情を知らないはずはない。

ジェニングスによると、ISLはアディダスブランドを立ち上げたホルスト・ダスラーが創設。ISL、アディダス両社の売り上げを伸ばすため国際スポーツ連盟の幹部たちを買収し、サッカー、トラック競技、フィールド競技、オリンピックを支配していった。現在IOC会長を務めるトマス・バッハ(フェンシング金メダリスト)は、もとをただせばホルスト・ダスラーが自社の「国際関係」チームにリクルートした人材だという。

余談だが、東京五輪組織委員会の理事であり、電通顧問の肩書も持つ高橋治之は、「環太平洋のリゾート王」の異名をとったイ・アイ・イグループ総帥、高橋治則故人の兄である。

東京協和信組の理事長でもあった高橋治則が不正融資事件で東京地検特捜部に逮捕、起訴されたのは1995年のこと。それまで面倒をみてきた政治家が離れていくなか、彼が保釈後、最初に駆けつけたのが安倍晋三のもとだった。高橋は安倍晋太郎、晋三親子と親しい関係にあった。田中森一著「反転」によると、高橋の息子が日航の就職試験に落ちたとき、晋三に相談したら、たちまち日航への就職が内定したという。

兄の高橋治之が安倍晋三とどのような関係にあるかは知らない。だが、電通がテレビ局ににらみを利かせて安倍政権に肩入れしているのは、昨今のテレビ局の萎縮ぶりから見ても想像できる。

電通はこのさい、襟を正すべきではないか。裏工作の限りを尽くしてマスコミを支配し、政治を広告化して虚像をつくりあげ、その結果、この国の民主主義を歪めている。そのことをしっかり、自覚すべきであろう。

それにしても国際的なスポーツ大会の商業主義化は行き過ぎている。

その誘致をめぐり、ロビー活動と称して買収資金が動くのは、クロウト筋では常識だという。際限ないカネへの欲望から、スポーツ精神を解放する手だてはないものだろうか。

image by: Sergei Bachlakov / Shutterstock.com

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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