先日MAG2 NEWSに掲載した「トヨタの大罪。元国税調査官が暴く日本にデフレを招いた『真犯人』」で、日本を代表する大企業「トヨタ」こそが我が国の経済をどん底に叩き落とした張本人だと断罪した、元国税調査官の大村大次郎さん。この指摘は喧々諤々の議論を呼び、大村さんのもとにも反論が数多く届いたようですが、メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』最新号では、大村さんがこの反論に対する「再反論」を叩きつけています。
続・トヨタの大罪
先月号では、「トヨタの大罪」について書きましたところ、けっこう反響をいただきました。おおむね賛同していただいたようですが、反論する方もかなりおられたようです。反論される方の主な趣旨は
「資本主義社会なのだから株主を優先するのは当たり前」
「一民間企業であるトヨタに、日本経済の責任を押し付けるのは酷」
というもののようでした。これらの反論に、再反論したいと思います。
まず「資本主義社会なのだから株主を優先するのは当たり前」という論について。資本主義の定義は、人ぞれぞれいろんな考え方があるので、私はそれについては何も言いません。ただ、国際的な常識、慣例として、トヨタのやっていることはどうか、ということを論じたいと思います。
実は近年、賃金が上がっていないのは主要先進国の中では日本だけなのです。OECDのEconomic Outlook 2013年より、先進国の名目賃金の推移(1995年を100とした場合の2012年の賃金)を見てみると、次のようになります。
アメリカ 180.8
ユーロ圏 149.3
日本 87.0
これをみればわかるように、1995年以来、アメリカの賃金は約2倍、ユーロ圏は約1.5倍になっているにもかかわらず、日本だけがマイナスになっているのです。この十数年間というのは、先進諸国はどこもリーマンショックの影響を受けています。だから、日本だけが苦しかったわけではないのです。そして、アメリカもユーロ圏も、資本主義国家です。でも、ちゃんと賃金は上がっているのです。日本だけが賃金は上がっていないのです。
日本は、世界の常識的な資本主義国家ではなく、異常に株主を優遇し、従業員を虐げている国だといえます。前に述べましたように、この2~3年はアベノミクスで若干、賃金があがっているものの、消費税の増税分にさえ届いていないし、ましてや欧米の上昇率には遠く及ばないのです。バブル崩壊以降、日本経済はそれほど悪くなかったのです。GDP(名目)は増えているし、トヨタなど何度も史上最高収益を出している企業もあります。しかし賃金(名目)は13ポイント以上も下がっているのです。
賃金が下がればデフレになるのは当たり前
そして、この十数年、先進国の中では、日本だけがデフレで苦しんできました。これを見れば、「日本は低賃金によりデフレになった」というのは明白なはずです。実際、理屈から行っても、賃金が下がればデフレになるのです。
バブル崩壊後、トヨタをはじめとする日本の大企業というのは、「経済成長」「国際競争力」という旗印のもとで、企業業績ばかりが優先されてきました。
しかし、それは一時的な経済成長はもたらしますが、日本経済にとってしっかりとした地力をつけることには結びつかなかったのです。それは、よく考えれば当然の話です。
経済というのは、企業ばかりを優先していれば、やがて行き詰ります。当たり前のことですが、経済というのは企業の力だけがいくら強くても成り立ちません。企業の作ったもの(サービス)を買ってくれる「豊かな市場」があって、はじめて企業は存在できるのです。
企業が人件費を切り詰めれば、一時的に収益が上がります。だから、それで経済成長したように見えます。しかし、企業が人件費を切り詰めれば、国民の収入は下がり、購買力も低下します。企業は物が売れないから価格は下げざるを得ません。そのため、経済が縮小し、デフレになるわけです。
こういうことは、小学生でもわかる理屈ですし、データ的に見ても、その通りになっているわけです(多くの著名な経済学者の方々はこの簡単な理屈、明白な現実が見えていないようですが)。
トヨタは日本最大のリーディング企業
次に読者の方からのもう一つの反論「一民間企業であるトヨタに、日本経済の責任を押し付けるのは酷」について、私の意見を述べますね。確かに、一民間企業に日本経済の全責任を押し付けるのは、酷のようにも見えます。が、現実問題から見たときに、トヨタの責任はかなり大きいものがあるのは、間違いない事です。
しかし、ご存知のように、トヨタは日本最大の企業であり、日本最大のリーディング企業です。トヨタのやっていることは、日本中の企業が真似をすることになります。特に賃金に対するトヨタの影響力は非常に大きいものがあります。
トヨタの労使交渉は、労働界全体に大きな影響を与えることは、否めない事実です。そのトヨタが、「好景気のときにも賃金を下げ続けた」ということは、日本の賃金政策に大きな影響を与えたことは間違いないはずです。2000年代の好景気時期に、日本の賃金が下がり続けた大きな要因の一つに、トヨタは間違いなくあるはずでしょう。
しかも、トヨタは、自民党などに多額の政治献金を続けています。自民党にとって、最大のスポンサーはトヨタだといえます。トヨタが優遇された税制になっているのも、この政治献金と無関係ではないはずです。つまり、トヨタは政治をも動かしているのです。一民間企業といえども、自民党のスポンサーになっているのだから、日本の経済政策について、大きな責任があるはずです。トヨタが、低賃金政策をやめ、従業員や関連会社、下請け会社に、まっとうに収益を還元するようになれば、日本経済は大きな好影響を受けるはずです。それはトヨタ自身も潤すはずです。
日本国内での自動車販売は、1990年代からずっと下がり続けています。最盛期、トヨタは日本国内だけで216万台も自動車を販売していました。それが現在は、135万台前後にまで落ち込んでいます。これは、結局、自動車を買う余裕がなくなったということでしょう。
最近の若者は「自動車離れ」ということが言われます。しかし、これは若者が自動車に興味がないというわけではないと筆者は思うのです。今の若者の経済力では、都心で自動車を持つことなどは不可能です。自動車の購入費、駐車場代などの維持費は到底、賄えません。つまり、今の都会の若者には、自動車を持つという選択肢が最初からないのです。選択肢がないから、必然的に興味を失ってしまったということだと思われるのです。
それもこれも、煎じ詰めれば、若者に希望を失わせたトヨタの賃金政策に要因の一つがあると筆者は考えるのです。
image by: GongTo / Shutterstock.com
著者/大村大次郎
元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授する有料メルマガ。自営業、経営者にオススメ。
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