9月17日にニューヨークで発生した爆破テロ事件、犯人としてアフガニスタン出身の男が身柄を拘束されました。米国の邦字紙「WEEKLY Biz」CEO 兼発行人でメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者である髙橋克明さんは、今回の事件直後に、日本の知人から送られた「まだまだNYは怖いですね」というメッセージを紹介。16年前の9.11同時多発テロを例に出して、日本人のイメージだけで「NYは危険な街」と決めつけて敬遠する傾向に疑問を投げかけています。
NY爆破報道を見られた日本の人たちに、この街に住んでいる僕が伝えたいこと
朝、目が覚めてから、つまりは事件が発生してから12時間くらい経ってから、知りました。
ベッドで、友人、知人、家族からのSNSやLINE等で、ガンガンメッセージが入ってきて。 (そっちの方が驚いたw )
日本で報道され、ニュースを見た方々からのご心配メッセージでした。
「米ニューヨーク・マンハッタン南西部のチェルシー地区の路上で17日午後8時半(日本時間18日午前9時半)頃、爆発が起き、1人が重傷を負うなど計29人がけがをした。 なおニューヨークの日本総領事館は「日本人が被害に遭ったとの情報はない」とする一方、在留邦人や旅行者らに注意を呼びかけている」
これを書いてる時点で、まだ詳しいことはわかっていないため、テロと断定するわけにはいかないけれど、なんらかの人為的爆発であることは疑いないようです。って、ことは、「有名テロ組織」が関わっているかどうかは別として、犯人が一般人だとしても「テロ行為」であることは間違いありません。
場所は、自宅から直線距離で3キロ。 従来の街の感覚で言えば、かなり近い距離、と言えるかもしれません。これが東京だと3キロなら「同じ新宿内」であり「同じ渋谷内」なので、もっとシリアスになれたかもしれません。
そういった意味では、このニューヨークのマンハッタンという街は、世界でも異例かと思います。 麻痺しやすい。 日本の方が思うよりあまりに狭く、距離感にしては麻痺しがちになる。 3キロの中には、有名機関、有名企業の本社ビル、数えきれないほどの各国大使館があるので、自宅近くの【国連】や【ユダヤ人学校】【オプスデイ教会】が「狙われたわけじゃない」と「間違った安心感」を得やすいかもしれません。
ともあれ、たくさんのご心配メッセージありがとうございました。 とても嬉しく感じました。
でも、メッセージの中には「やっぱりニューヨーク怖いですね。 春の旅行、キャンセルしようと思ってます」と書かれている方もいらっしゃいました。
すべてのメッセージに返信できる時間がなかったにも関わらず、その男性にだけは慌てて返信しました「キャンセルはしないでください。 大丈夫なので!」と。
大丈夫!と言い切れる根拠はありません。 なので、キャンセルをキャンセルさせるのが正しいのか100%はわからない。
でも、ぼくたちニューヨークに住んでいる人間がいちばん怖いのは「むやみに怖がって、この街を敬遠されること」なんです。
同時多発テロのとき、世界中の多くの人が観光を避けました。それによる経済効果への打撃も記憶に残っています。
ここから先は、語弊があるので、ブログに書きづらいことですが、例えば、15年前の【同時多発テロ】の日。朝、航空機が突っ込んだ日。 僕は、ミッドタウンで、映画館に行きました。 映画館も従来通り営業をしていて、平日の日中くらいの客入りでもありました。
どうして、そんな日に、呑気に映画鑑賞なんてしたのか、もう15年前なので、記憶も定かではないのですが、そこまで深刻に考えてなかったのか。 あるいは、その時点で、ここまでの人類史に残る、歴史的事件になると想像つかなかったのか。 少なくとも、まだ経営者ではなかったので、経済的な危機の感覚は今よりずっと希薄だったと思います。
当時の日本の報道は、間違ってはなかったけれど、見た人の中には「マンハッタン自体が戦場」になっているような想像をされた方も少なくなかったようです。 なんなら街中を戦車が走ってる、、くらいの。
直接的な被害エリアは、実はマンハッタンの中のロウワーサイドだけという、誤解を恐れず言うと、非常に狭い範囲でした。
本当の意味での被害は、死傷者の数であり、政治的な脅威であり、経済的な打撃であったはずです。その被害に関しては、ここで記述する必要のないほどのダメージであり、世界的に見ても戦後最大です。
あの日、ミッドタウンで、日本人観光客がガイドブックを開き、五番街のショッピングの予定をキャッキャ話している光景も目撃しました。 テロから数時間後の、距離にして4キロくらいの場所でした。
それがいいのか、悪いのか。 そういう話ではなく。
ただ、僕が話したいことは、あの同時多発テロから、NYにもっとも旅行者が戻ってくるのが遅かった国が日本だったということ。
【危ない】というイメージで、日本からの旅行者が激減しました。もちろん、直後はどこの国の人も旅行先にNYを避けたかもしれません。
でも、あの同時多発テロの直後、防衛的にも実は世界でいちばん安全な街になっていた。 それどろこか街中、警官だらけになり、防犯的にも安全な街に激変した。
当時、スターバックスで隣に座ったオーストラリア人の女性がガイドブック片手に「今、ニューヨーク行きの飛行機チケットが安いのよ~」と嬉しそうに話しかけてきたことを思い出します。
もちろん、当時も、そして今だって「NYは安全な街か」と正面から聞かれれば、「安全ですッ!」と胸を張れるわけではありません。間違いなく島根県よりはテロリストに狙われる可能性は高いし、山梨県よりは犯罪率も絶対、高い。
今回頂いたメッセージの中には、悪気はゼロで、「まだまだニューヨークって怖い街ですねー」と心配してくださった方もいます。
でも、それは間違いなんです。「まだまだ~」じゃないんです。「これからもずっと~」なんです。
政治的にも、経済的にも世界の中心である限り、テロに狙われる可能性はゼロには絶対ならない。 ラジカルに言っちゃうと可能性は「世界一高い」街のままです。 これからも。
でも、地震や津波の可能性はそう高くないかもしれない。 犯罪率という数字で表せば、NYより高い数字の街は全米でいくらでもある。
結局、いまの時代、絶対的に安全な街は存在しない。開き直って言うわけではなく、海外に旅行で出かけるということはニューヨークに限らず、危機管理は絶対的に必要です。
報道を見て、で、シッカリとした危機意識を持つ。その上で、実際の被害範囲を調べる。 報道のその先を見る。それ以外に方法はありません。
どんなに危険だと報道しても、今日も世界中から観光客はやってくる。
どんなに安全だと主張しても、そりゃ、ニッポンよりは全然危険です。
実際に被害に遭われた方もいる事件を、教訓にするのは不謹慎かもしれません。
でも、今回の報道で、危険な街というイメージを持ってもらいシッカリと危機管理を意識し、そして、来てください。 この街に。
image by: Supapun Narknimitrung / Shutterstock.com
『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』 より一部抜粋
著者/高橋克明
全米No.1邦字紙「WEEKLY Biz」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ400人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる