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ソフトバンクは嘘つきだ。日本通信が仕掛けた「ケンカ交渉」の真相

日本通信がソフトバンク回線を利用したMVNOサービス(無線通信回線設備を開設・運用せずに、自社ブランドで携帯電話などの移動体通信サービスを行うこと)の提供を目指して交渉を持ちかけていましたが、どうやらケンカ別れに終わりそうです。日本通信は「接続を拒否された」「嘘つき」とソフトバンクを痛烈に非難する一方で、ソフトバンクは「協議中の段階と認識している」と回答し、双方の主張は平行線のまま。今回のニュースについて、ケータイ/スマホ・ジャーナリストの石川温さんも自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、ソフトバンクが簡単にMVNOサービスに回線利用を提供しない理由を明かし、日本通信側のあまりにも攻撃的な態度は自身の首を絞めるだけではないかと予測しています。

「嘘つき」呼ばわりでソフトバンクをつるし上げた日本通信に勝ち目はあるか

9月29日、日本通信が「ソフトバンクに接続を拒否された」として、総務省に対して、接続協定に関する命令申請書を提出したという。これに対してソフトバンクは「協議中の段階と認識している」として、双方の主張にズレが生じていることが浮き彫りとなった。

日本通信は一部メディアに対して、電話会見というかたちで現状説明を行ったようだ。残念ながら筆者には声がけされなかったので、一部報道を引用すると「NTTドコモと同じような接続を求めている」(福田尚久社長)という。

NTTドコモの回線を利用したMVNOであれば、SIMロック解除をしなくてもNTTドコモの端末を流用できる。それと同じ状況をソフトバンクに求めているようだ。

しかし、ソフトバンクとしても、虎の子であるiPhoneユーザーをそう簡単に手放すわけにはいかない

iPhone7発売セレモニーで宮内謙社長が「我々はiPhoneを最初に発売していることもあり、たくさん使われるユーザーが多い」と語っていた。iPhoneを積極的に使うユーザーとなれば、ソフトバンクとの契約年数も長く、9月からは「ギガモンスター」も契約してくれる優良顧客といえる。ソフトバンクが、そう簡単にiPhoneユーザーが流出するような施策を快諾するとは思えない。

また、背後にはSIMカードの問題もありそうだ。ソフトバンクの場合、端末によってSIMカードが異なることが多い。iPhoneとAndroidでも違いがあるだけでなく、Android向けのnano USIMカードでも6種類存在している(同社、ウェブサイトを参照)。

仮にSIMロック解除のガイドラインが有効となった以前の端末でも使えるようにするには、それぞれの端末にあったUSIMカードをソフトバンク側が発行しなくてはならず、オペレーション的にとても現実的とは言えない

この「SIMカードの違い」という厄介な問題は、10月1日からau回線を使ったサービスを開始したIIJmioにも降りかかっているようだ。

auではMVNO向けのVoLTE SIMカードを提供しているため、auの端末であってもSIMロック解除が必要な場合がある。特にIIJmioではVoLTE対応SIMカードのみを提供しているようで、最近の端末しか利用できない

しかも、au回線ではテザリングが非対応となっているという(NTTドコモ回線なら可能)。IIJmioでは「SIMロック解除をするのであれば、よほどの理由が無い限り、NTTドコモ回線を使ったサービスを選択した方が良い」とブログでアナウンスしている。

IIJmioのTwitterを見る限り、au回線のサービスを始めたものの、端末やネットワークの利用に制限が多いところに困惑している様子がうかがえる。

IIJmioの場合、こうした課題には技術的に解決しようと、検証作業を強化したりして、地道に戦っていく。

一方で日本通信は総務省に駆け込み、相手と喧嘩するという荒技を発動する。

しかも日本通信はこのタイミングを相当、狙ってきたと思われる。日本通信が狙いを定めているのが、10月13日から総務省で行われる「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」だ。

このなかで、「MVNOの競争環境の動向」がテーマとなっている。日本通信とすれば、このタイミングで一騒ぎすれば、総務省としても無視することはできず、議題として取り上げる可能性が高い。もちろん、事業者として日本通信がヒアリングを受ける機会があれば、ソフトバンクへの不満をぶちまけるのだろう。

日本通信としては、世間の関心を集めることで、ソフトバンクへの突破口を開きたいはずだ。

ただ、過去を振り返ってみても、日本通信はけんか腰でNTTドコモと交渉してきたこともあり、とにかくNTTドコモ関係者から煙たがられている。日本通信は、HLR/HSS接続をして、モバイル・ソリューション・イネイブラーとして業態転換していきたいようだが、NTTドコモ側が難色を示していてもおかしくない。

ソフトバンクに対しても、総務省を後ろ盾にしてけんか腰で攻めるとなると、将来的に2社の関係がぎくしゃくしていくこともあるだろう。すでに三田社長はソフトバンクを嘘つき呼ばわりしており、今後、交渉が上手くいくとは思えない。SIMロック解除のガイドラインが出る前の機種の話をしており、そもそも日本通信にとって不利な状況にあることは間違いない。

仮に日本通信がソフトバンクと接続が実現できたとしても、将来的には自分の首を絞めることになったりしないか心配だ。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

石川温の「スマホ業界新聞」』 より一部抜粋

著者/石川 温(ケータイ/スマートフォンジャーナリスト)
日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。
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