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元「お天気お姉さん」が嘆く、真の「健康」とは程遠い日本の現実

突然ですが、あなたは「健康の定義」をご存知ですか? 実はあのWHO(世界保健機構)が定めた「健康とは何か」という定義があるんです。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で、元「ニュースステーション」の気象予報士にして現在は健康社会学者の河合薫さんが、この「健康の定義」について話題となったツイッターの投稿について持論を展開。健康社会学者という立場から、「健康とは個人の問題ではない」と語り、「健康の定義」とかけ離れた日本社会の現実を嘆いています。あなたは「健康だ」と胸を張って言える自信はありますか?

世界の壁はあまりにも高い!?

先日、こんなニュースがネットで話題になっていました。

WHO(世界保健機構)の定める「健康の定義」に衝撃を受ける人多数

世界の壁は、あまりにも高かった。
Twitterユーザー・森 薫(@mori_irom)さんが、とある調剤薬局で撮影した、
WHO(世界保健機構)が定める健康の基準が、現代の日本において、
あまりにも厳しすぎるとTwitter上で話題になっている。

このことについて15日に出演した「モーニングCROSS」(MXテレビ)で取り上げたので、そこで伝え切れなかったこと、及び、そのときのスタジオの反応を交えてお話しします。

まず、最初にこのニュースを見た時の私の第一声は「あの。だから私は“健康社会学者”なんだってば! 健康は…別に体のことだけじゃないっつーの」です(笑)。だから「働き方」だの「生き方」だの「人間関係」だの「職場環境」だのアレコレ書いたり、話したりしてるわけです。

では、WHO(世界保健機構)の定義とは何か?

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。

この定義は第二次世界大戦後の1946年に宣言されました。

精神的・社会的とは具体的には……

・孤立や対立がない
・居場所がある
・サポートが得られる
・役割がある

そして、これらに満足しているってこと。

この定義には理想的すぎるという批判もありましたが、精神的・社会的という文言を加えたのは、「健康は個人の問題じゃなく、社会の問題。人権であり、個人を尊重すること。それを追求する義務がアナタたちにあるんですよ」と戦争でたくさんの人たちの命が失われた反省もこめ、WHOが世界各国に呼びかけるためのものでした。

さらに、1970年代に入ってから、上記の定義に「スピリチュアル」な側面を加えるモデルが提唱されています。

スピリチュアルっていうと、日本ではあまりいいイメージはありませんよね。

モーニングCOSSでも「霊的な感じ?」とMCの堀潤さんから聞かれました。

でも、実はそれもちょっと違うのです。

ここでいうスピリチュアルとは「人生に意味や方向付けを与えるもの」。

欧米では宗教がその役割を担っていますが、日本では五木寛之さんの著書に仏教の教えのようなものが書かれていて、読み終えたあとに人生の光りを得た気持ちになる。これがスピリチュアルです(五木さん以外の書籍などにも同様の役割を担うものがあります)。

スピリチュアルを入れたモデルが考えられた背景には、「心と身体は密接に関わっている。健康とは生きるってことなんでよ」というメッセージを強める意味あいがあります。

生きてれば大変なこともあるし、自分ではどうしようもない病に襲われることもある。そんなときに「人生に意味を与えてくれるもの」に出会うと、それだけでホッとします。ちょっとだけ元気が出ます。この状態が健康なのです。

奇しくも15日の番組では、同じくコメンテーターで出演していた矢野経済研究所の水越孝さんが、「アニメ業界のアニメーターたちの低賃金と重労働」の実態を話してくださいました。

日本では映画を作る際に「制作委員会システム」なるものがあり、そこがほとんどの権利を持っているので、映画の売り上げだけじゃなく、グッズなどの売り上げもドンドンと入ります。

一方、アニメーターの人たちは一枚書いたら終わり。しかもその価格はとても安い。朝から晩まで身を粉にして働いても、平均賃金以下しか稼ぐことができない。そうです。グローバル化の影響で、労働のダンピングが起きているのです。

これってちっとも公平じゃないですよね。

「こんなに働いているのに、なんで自分はこれだけしかもらえないんだ。あの人はあんなにもらっているのに」という労働環境は健康的とはいえません。

つまり、健康とは「社会の窓」を通じて、そこで暮すひとりひとりを見つめ、社会の仕組みや構造を作っていくこと。

格差社会の否定と受け止めることもできます。

それが今の日本にできているか? というと、できていません。

一部の人たちだけが潤い、末端の労働者はどんどんと厳しい状況に追い込まれる。

これが日本の現実です。GDPがあがっただのさがったのと、一喜一憂しても誰も健康になりません。もっと足下を見つめ、「人」を中心に考える社会を作っていかないと。高すぎる壁を超えることなど、到底できません。

なぁんて話をすると、ものすごい壮大かつ切ない話になってしまうのですが、翻って自分の半径3メートルで「健康」を考えみると、私たちにもできることがある。

私はコメンテーターという役割で番組に出演します。そのときの共演者やスタッフが「私の意見」に耳を傾け、受け止めてくれるだけで元気がでます。

違う意見をぶつけてくる場合でも、正面から向き合ってくれると、「そっか。そういう考え方もあるよね」と、ちょっとだけ成長することができます。

たったひとりでもいいから「ありがとう」と感謝してくれる、しんどくなった時に「踏ん張れ!」と声をかけてくれたり、となりにソッと立ち止まってくれる心の距離感の近い人がいる。

こういった質のいい人間関係に身を置くことも、WHOが唱える「健康」なのです。

真の健康というのは、「前を向いて歩いて行こう!と思える心と社会を作ること。私はそう解釈しています。

image by: Shutterstock.com

 

メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』

著者/河合 薫
米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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