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誰の味方? 参院・安保論戦、新聞各紙の扱いに大きな違い

28日に始まった参議院での安保法制審議。国家の未来に関わる問題である上に、26日に礒崎陽輔首相補佐官がこの法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と発言したことなどもあり注目されたこの審議を、新聞各紙はどう伝えたのでしょう。ジャーナリストの内田誠さんがメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で詳しく分析しています。

安保法制の問題がいかに巨大か

今朝の各紙、基本的には昨日から委員会審議が始まった参議院での安保法制審議に関連するニュースが1面に掲載されています。《朝日》《毎日》《東京》はそれぞれ角度が全く違う、特徴的な記事になっています。このバラけ方は、安保法制の問題がいかに巨大な問題であるかを物語っていると思います。ところが、《読売》は、1面のどこを探しても関連記事1つ載っていません。2面と4面には関係する小さな記事がありますが、《読売》の1面に一切記事が載らないということもまた、安保法制の問題がいかに巨大な問題であるかを示す象徴的な出来事なのだと思います(ちょっと皮肉が過ぎるかな…)。

以下、《朝日》《毎日》《東京》《読売》の順で1面、および安保法制関連記事の分析に入ります。

いずれ更迭せざるを得なくなるだろう

【朝日】の1面トップ、見出しは「首相補佐官『法的安定性』発言」「野党追及 首相釈明」。

総理が出席して始まった昨日の委員会質疑。安倍氏の釈明は「法的安定性を確保するのは当然のことだ。そこに疑念を持たれるような発言は慎まねばならないと考えている」というもの。その上で、安倍氏は安全保障環境の変化を強調し、法案の必要性を訴えた。菅官房長官はこの日の会見で、礒崎氏には電話で注意したとした。野党が求める更迭については否定

民主党の福山哲郎氏は、集団的自衛権の行使は憲法上認められないと過去の内閣法制局長官が答弁してきたこととの整合性を質し、「法的安定性を損なう」と指摘。横畠長官は「歴代政府、内閣法制局も含めて、限定的な集団的自衛権という観念は持ち合わせていなかった」と述べた。

関連記事は2面の、与野党の戦術についての大きな記事、4面の質疑対照表のような記事、5面の焦点採録、16面社説、38面には外国特派員協会で28日に行われたアイドルグループ「制服向上委員会」の会見の模様。隣には安保法案の速やかな廃案を求める憲法学者204人の声明と会見についての記事、と多彩。総てに「ウォッチ安保国会」の共通タグが付けられている。

uttiiの眼

礒崎氏は参議院自民党の突撃隊長のような役割をはたしてきた人だ。「法的安定性は関係ない」という発言はまさしく本心そのものだろう。くれぐれも、総理に勘違いをして頂きたくないのだが、「誤解を招いた」り「疑念を持たれた」のではない、礒崎氏と自民党の本性がばれてしまったのだ。安倍氏の釈明を見ても、到底本心で言っているとは思えない。憲法を軽視し、法秩序を蔑ろにするからこそ、あの自民党改憲草案ができあがったのではないか。昨年の閣議決定ができたのではないか。礒崎氏の思想は、むしろ自民党内の「公許の哲学」と言ってもよいほどではないだろうか。

「法的安定性」が重要だと言われてもピンと来る人はほとんどいないだろうと思われる状況の中で、それでも今朝の《朝日》が敢えて選んだこのテーマは、野党が礒崎氏の更迭を勝ち取るまで、執拗に追及され続ける必要があると思う。来夏の選挙はない人だが、それでも大分の選挙区周辺での批判運動が起こってしかるべきではない
か。

>>次ページ 毎日新聞のセンセーショナルな見出しとは?

PKOで戦闘に加わる可能性

【毎日】の1面トップは「駆けつけ警護 追加」「南スーダン 自衛隊PKO」「政府検討 安保法施行後」という見出し。見出し通りのことを、安保法施行後の来年3月に行う考えを、複数の政府関係者が明らかにしたという。3面の「クローズアップ2015」には違憲性を追及する野党中国の脅威を協調する政府の対比で論戦の模様が記事になっている。5面の社説は礒崎首相補佐官の発言問題を取り上げ、「これが政権の本音では」ないかと問いかける。

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この種のセンセーショナルな記事が《毎日》の紙面を時折飾る。残念ながら、検証のしようがないこと、仮にその通りにならなくても誰も困らないことなどを考えると、信用性はイマイチだ。寧ろ、現在継続中の自衛隊によるPKOは南スーダンのみなので、法案が成立後、その可能性を云々できるのはここのみということにもなる。だから、具体的な検討事実がなくても、記者の聞き方によっては、「政府関係者」たちが「まあ、そういうことになるよな」という答え方をする可能性はあるだろう。以上、推測を含めての感想であって他意はない。因みに、この記事には関連記事がない。

しかし同時に、そのようなリアリティが確実に存在することも確かだ。法律が成立、施行されれば、南スーダンで今も反乱勢力として活動する組織に他国軍が襲われたときには、自衛隊は「駆けつけ警護」に従事する、分かりやすくいえば戦闘に加わることになるのは理の当然だ。当然、死者が出る可能性も高く、また相手を殺す可能性も高いだろう。安保法案はそのような法律群であり、しかも、自衛隊員が海外での戦闘に参加する可能性は、このPKOのケースがもっとも高いのではないかと思われる。そのことに警鐘を鳴らしてくれる記事ではある。

主権者の声を聞け

【東京】の1面トップ、見出しは「『安保法案』参院審議」「『反対』広がり多彩」。

様々な分野で、様々な方法によって「反対」の声を上げてきた人たちが、どれだけ増えてきたか、視覚的な効果も考えて作られた記事。学生のグループ「SEALDs」のツイッターのフォロワーは5月に6,000から7,000だったのが、今は3万6,000に。法案に反対する学者の会に賛同する研究者の数は、呼びかけ人61人に対して、現在1万2,000人以上など。(怒りの火の玉に見立てた?)赤い玉が膨張したように描かれている。掲載されている写真は、28日に日比谷野外音楽堂に集まった、安保法案に反対する人々の映像。「うねり」という題が付けられている。

関連記事は2面に「質問時間 延ばす与党」との見出しで、参院で質問時間を野党に譲る余裕を失った安倍政権についての記事。その隣には「首相、補佐官更迭を拒否」という太字の強い見出し。3面には「柳沢協二氏の安保国会ウォッチ」が5段拡大版であり、「補佐官発言は政権の本音」と、《毎日》の社説と同様の見方。6面に質疑の詳報。

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以前にも書いたが、《東京》の特徴は、問題の当事者、主人公は誰なのかという問いかけを常に用意している点だ。安保法案がどうなるかという問題は、確かに、国会内の勢力分布によって決まってくることだろう。だが、その中で少数の野党に出来ることの範囲は、国会外で国民=有権者がどれだけ声を上げるかにも大きく依存している。そもそも、主権者の声を聞くべきだということでは、与党議員も、どれだけ反対が多く強いかについて真剣に考え、自らの議員としての行動に反映させるべきだ。その意味で、委員会審議が始まった翌日の1面トップに、法案反対の声がどこにどのように広がっているかを記事にしたことには、大きな意味があると思う。

>>次ページ 読売新聞が表現してくれた政権の本音とは?

これを「無の境地」とは言わないが…

【読売】の1面トップは「医薬品保護 米が譲歩」「TPP『7~8年』で調整」との見出し。

安保法制に関する記事は、2面に「安保法制整備 抑止力に」「首相『揺るぎない同盟示す』」との見出しで、見出しばかりが目立つ450字ほどの短い記事。その関連の形で、やはりその程度の分量で、礒崎補佐官に関する記事が4面に。さらに11面に質疑詳報。

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TPPに関するこの記事以外で1面に出ているのは、来夏の参院選から2合区となる公選法改正の記事、新国立競技場について開閉屋根を断念するという話、中日ドラゴンズの谷繁監督兼捕手が最多試合出場を達成した写真入り記事、それに「欧州の今」と題する連載、あとは天気図と天気予報。どこにも安保法案関連記事がない。もしかしたら「編集手帳」くらいは…と思って見たが、参議院は衆議院のカーボンコピーではないかというような話。結局、なかった。

《読売》が1面に載せなかったのは、安保法制の議論に気が付かなかったからではないだろう。むしろ、その中に秘められた、安倍政権にとっての様々な危険性を察知し、話題になることを避けるために、敢えて1面の紙面から排除したのではないか。代わりにトップに持ってきたのがTPPで、しかもこれが日本に不利といわれる著作権問題ではなく、医薬品問題で日本政府がアメリカの僅かな譲歩を勝ち取ったという、なけなしの「手柄話」というのが笑える。どこまでも現政権に忠誠を誓わなければならないらしい。気の毒に。

1つ、興味深い記述を見つけた。4面、礒崎首相補佐官の「法的安定性」を軽視した発言関連の記事中、野党の追及に対して反発する自民党内部の声が紹介されている。

「一方、自民党内では『礒崎氏の発言は法案の必要性を訴えたに過ぎない。批判は、野党による「言葉狩り」だ』(ベテラン議員)と反発する声も出ている」。

これは重大な発言だ。おそらく、発言の主は高村氏ではないかと想像する。《毎日》は社説で、《東京》は柳沢協二氏の口を借りて、「礒崎発言は政権の本音」という指摘を行ったが、《読売》は《読売》のやり方で、やはり「礒崎発言は間違っていない」という政権の本音を表現してくれた。証人喚問が必要なのではないか。

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image by: 首相官邸

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/7/29号より一部抜粋

一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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