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レシピを知るのは2人だけ。コカ・コーラ伝説が意味するブランド力

毎年発表されている世界ブランドランキングで、13年間トップの座に君臨し続けてきた「コカ・コーラ社」。そのブランド価値は、お金に換算すると792億ドルともいわれています。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では、著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、今まで同社が時間をかけて作り上げてきた「ブランドイメージ」の変遷について考察しています。

コカ・コーラの卓越したブランド戦略

佐藤昌司です。世界最大級のブランドコンサルティング会社のインターブランド社は、世界規模で事業展開を行うブランドを対象としたブランドランキングを毎年発表しています。

ブランドランキングでは、コカ・コーラ社は2013年にアップル社に1位を譲ったものの、ランキング開始から2012年までの13年間常に1位の座を守ってきました。2013年のコカ・コーラ社の推定ブランド価値は792億ドル(インターブランド社独自の評価方法で算出)としています。

アメリカの企業は日本と比べて、ブランド価値を重視する傾向があります。無形資産の中でも特にブランド価値を重要視しています。

例えば、消費者は「アップルだから買う」という人は少なくありません。もちろん、アップル製品を高機能だからという理由で買う人もいます。一方で、「アップルだから」「アップルはおしゃれだから」といった理由で買う人も少なくないでしょう。これは、「アップルブランドの価値の高さを示しているといえます。

ブランド価値は長期的に企業に利益をもたらします。しかし、そのことを頭で理解はしていても、長期的な利益よりも明日の利益に目を奪われがちになってしまいます。10年先のことよりも、明日のパンを求めてしまいます。

ブランド価値という目に見えないものに対しては消極的にならざるを得ないのかもしれません。そこで、アメリカではこれまで、ブランド価値という目に見えないものを具体的な数値で可視化しようという試みが行われてきました。インターブランド社のブランドランキングが最たる例といえます。

コカ・コーラ社はブランド価値の力で商品を販売しているといっても過言ではありません。単なる茶褐色の炭酸飲料水が、「コカ・コーラ」のブランド名を冠することで何倍もの価値になります。

コカ・コーラ社は、強力なブランド価値を構築するために、他の企業とは異なるブランド戦略を行ってきました。一般的な企業は、売りたい商品の機能や価格をメインに打ち出すことが多いでしょう。しかし、コカ・コーラ社は商品の価値や体験といった目に見えづらいものに焦点を当てて打ち出すことを重視しました。

動画「Happiness Machine」の成功

例えば、コカ・コーラ社が制作した「Happiness Machine」という、動画再生回数が770万回以上にもなるヒットCMがあります。このCMでは、商品そのものに焦点を当てるというよりも、商品を通じて「世界中に幸せを届けたい」「笑顔の輪を広げたい」といったメッセージを消費者に発信しているのが特徴的です。CMの内容は次の通りです。

大学の食堂で女子生徒がコカ・コーラを自動販売機で買うと、コーラが1本、2本、3本、そして次々とコーラが出てきます。周囲の人は、最初は何が起きたのかと戸惑いを見せていました。

とりあえず、女子生徒は出てきたコーラを周囲の人に渡していきます。それでもコーラが出てくるのが止まりません。なんだかそれが面白く感じるようになり、周囲の人もその光景とコーラを楽しむようになります。

次第に自動販売機から出てくる物はコーラにとどまらなくなります。最後に大きなサンドイッチが自動販売機から出てきて、食堂内が拍手喝采で包まれます。

このCMでは、商品の機能や味については殆ど触れられていません。あくまで、「世界中に幸せを届けたい」「笑顔の輪を広げたい」といったメッセージを発信することにより、コカ・コーラのブランド認知とブランド価値の向上を目指しています。短期的な売り上げの増加を目指すのではなく、長期的なブランド価値向上による持続的な売り上げの増加を目指しているのです。

コンテンツマーケティングで有益な情報を提供している

コカ・コーラ社は様々なマーケティグ手段でブランド価値を高めていきました。ユニークな動画の配信の他にも、「コンテンツマーケティング」を行うといったことでブランド価値を向上させていきました。

コンテンツマーケティングとは、消費者にとって有益なコンテンツ(情報)を提供・配信することにより、消費者とコミュニケーションを図り、見込み客に対して購買に結びつく行動を促し、ブランドロイヤルティを向上させるマーケティグ手法のことです。

多種多様な情報が氾濫している今日において、人々は中身のある有益な情報を求めるようになりました。消費者のメディア接触時間において、従来のマスメディアからネットメディア、特にソーシャルメディアへの比重が増しています。コンテンツ(中身)のない情報は淘汰され、コンテンツのある情報がクローズアップされやすい時代となっています。

そこでコカ・コーラ社は2011年に、コンテンツマーケティグを戦略の中核とするために「Content 2020」を発表しました。「Content 2020」の柱として、「Coca Cola Journey」というサイトを立ち上げています。

このサイトでは、コカ・コーラや飲料といった商品の紹介だけでなく、社会問題や環境問題、音楽、カルチャーなど幅広い話題を取り上げています。コカ・コーラ社とは関係のない話を含めて中身のある有益な情報を提供しています。

こうしたコンテンツマーケティングにより、消費者は継続的にコンテンツと接触するため、消費者の潜在意識に「コカ・コーラ」を植え付けることができます。ブランドイメージの維持と向上を図ることができます。ブランドイメージが向上することにより商品の価値は何倍にも高まります

コカ・コーラにまつわる逸話や都市前説

コカ・コーラのブランド価値の高さを象徴する逸話や都市伝説的な話は枚挙にいとまがありません。コカ・コーラのレシピにまつわる話は有名でしょう。

コカ・コーラのレシピは、1886年に薬剤師のジョン・パンバートン氏によって考案されたと言われています。コカ・コーラが多くの人々に飲まれる理由やコカ・コーラがどのようにして出来上がるのかを多くの企業や人が知りたいと思うようになりました。しかし、コカ・コーラ社はレシピの公開を拒み続けてきました

コカ・コーラのレシピはアメリカ国内の銀行の金庫で厳重なセキュリティのもと管理されていました。現在は、コカ・コーラ博物館(ワールド・オブ・コカ・コーラ)の保管庫で保管されています。

自称「トレジャーハンター」がたまたま小道具の小箱の底にコカ・コーラのレシピを見つけたという話があります。そのレシピはオークションに出品され、入札価格は5億円から始まり、15億円で落札されたとのことです(実際の支払いはされていません)。

この件についてコカ・コーラ社は、「コカ・コーラの本物のレシピはワールド・オブ・コカ・コーラで厳重に保管されている」とのコメントを発表し、オークションに出品されたレシピは本物ではないとしました。

レシピは最高幹部の二人だけしか知らず、どちらかが不慮の事故に遭遇しても、もう一人が存続することでレシピを守ることができるため、二人は同じ飛行機には搭乗しないという都市伝説的な話もあります。

コカ・コーラ社はインドに進出していました。しかし、1977年に当時の政権にコカ・コーラのレシピの伝授を要求されました。コカ・コーラ社はそれを拒否し、インド市場から撤退しています。16年後に再びインドに進出しましたが、その間の収益を放棄してでもレシピの秘密を守り続けてきました。

これらの話が象徴するように、コカ・コーラ社はコカ・コーラの神秘性という、ある種の虚構をつくり上げることで、コカ・コーラのブランド価値を高めていきました。

ブランド価値は実体のないものです。しかし、その実体のないものが人々を魅了し、人々の心を躍らせ、人々の共感を得てきたのです。コカ・コーラ社はコカ・コーラのレシピを公開することなく今日に至っています

ブランドは人の脳をも支配する

2004年の学術誌『Neuron』に掲載された、ベイラー大学のマクルーア博士とモンタギュー博士が発表した論文に面白い実験があります。その実験では、コカ・コーラブランドを提示して被験者にコーラを摂取させた場合と、ペプシブランドを提示して被験者にコーラを摂取させた場合での脳の活動の違いを測定しました。

実験の結果、コカ・コーラを提示した時にだけ反応し、ペプシでは反応しなかった脳の部位があることが分かりました。それは背外側前頭前皮質という脳の部位です。脳深部の海馬という記憶を司る部位と連携し、物事の判断を司っています。

実験では、コカ・コーラを提示してコーラを飲んだ時だけ背外側前頭前皮質が顕著に反応したのです。このことから、被験者は「コカ・コーラは美味しい」という判断を無意識に行っていたことが分かりました。これはコカ・コーラのブランドの力でしょう。味そのものというよりも、「コカ・コーラ」というブランドがコーラを美味しくしていたのです。

独自の製造・流通システムで世界を支配している

コカ・コーラ社のビジネスモデルは「飲料の製造販売フランチャイズチェーン」です。「コカ・コーラシステム」とよばれる生産・流通システムを採用し、コカ・コーラ社とフランチャイズ契約しているボトラー社に製品製造と販売を担ってもらい、コカ・コーラ社は原液の製造と販売商品開発やマーケティング戦略の策定などに特化しています。

ボトラー社は、コカ・コーラ社が経営権を持たない独立資本の企業がほとんどです。ボトラー社に製造や流通、販売を担ってもらうことで、コカ・コーラ社は設備投資や流通網構築にかかる資金と時間を抑制することができます。また、ブランド構築やマーケティングに力を入れることができます。

日本では、日本コカ・コーラがコカ・コーラシステムを展開しています。ボトラー社や関連会社に原液を供給しています。日本市場のマーケットニーズの分析や製品開発、マーケティング戦略の策定も行っています。

日本はコカ・コーラ社にとって世界戦略における重要市場の一つと捉えられています。日本コカ・コーラは茶やコーヒーといった非炭酸飲料の販売比率が高く、コカ・コーラ社はその成功事例を他の国でも行うようにしています。

日本コカ・コーラが、コカ・コーラ以外の飲料でも成功を収めることができたのは、同社が持つ高度なマーケティング手法を活かした商品開発を行っていることが大きいといえます。

もちろん、商品開発やマーケティング戦略を策定する上で、ボトラー社との協力なしに成功を収めることはできなかったでしょう。ボトラー社との協力の上で、日本コカ・コーラの持つ高度なマーケティング力により、マーケットニーズに合った商品開発を行ってきました。結果として、コカ・コーラのみならず、多くの飲料で成功を収めることができたのです。

日本コカ・コーラは、ジョージアや爽健美茶、アクエリアス、綾鷹、紅茶花伝といった数々のヒット商品を生み出していきました。日本コカ・コーラが商品開発とマーケティング戦略に集中できるビジネスモデルを構築できたことが功を奏したといえます。

日本コカ・コーラをはじめとしたコカ・コーラのビジネスモデルは、世界中の多くの企業の参考事例となっています。企業がブランド力を高める上でのベンチマーク指標)となっています。コカ・コーラは卓越したブランド戦略を行っている企業といえそうです。

image by: Lukas Gojda

 

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著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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