「EU崩壊?キリスト教が危機に?日本は?ド~なる、2017年の世界」、「トランプが仕掛ける米中冷戦で、日本が漁夫の利を得る可能性」と2回に渡り2017年の世界と日本を占ってきた無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で、世界情勢に詳しい北野幸伯さん。今回はオバマ大統領からトランプ大統領へと政権が移行した後のアメリカについてさらに一歩踏み込んで考えるとともに、日本が置かれる立場と進むべき方向について私見を記しています。
米中冷戦時代が始まる~日本は?
前号と前々号で、「2017年世界はどうなる?」という話をしました。「二つの時流があります」と。
一つ目は、「グローバリズムからナショナリズム」という時流。これで、「イギリスのEU離脱」「トランプ勝利」が起こった。もう一つは、「アメリカと中国は対決する」という時流。オバマさんが作った流れが、トランプでもっと強くなっていく。
今回の話、前号、前々号を読んでいないとわかりづらいと思います。まだの方は、まずこちらからご一読ください。
● EU崩壊?キリスト教が危機に?日本は?ド~なる、2017年の世界
● トランプが仕掛ける米中冷戦で、日本が漁夫の利を得る可能性
しょっちゅう書いていますが。1937年、日中戦争が始まりました。この時、中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた(初期は、ドイツからも支援を受けていた)。つまり、日本は、アメリカ、イギリス、ソ連、中国の4大国と戦っていたのです。こんなもん、勝てるはずがありません。
私は自虐史観の持ち主ではありませんが、米英ソ中を同時に敵にまわすのは、愚かだったと思います。普通はどうするのでしょうか?
イギリスは、なぜドイツに勝てたのか?
たとえばイギリスとドイツの関係を見てみましょう。イギリスが衰退したのは、「20世紀に入ってから」と思われがち。しかし、実をいうと、イギリスは1890年時点で、ドイツにあらゆる面で負けつつありました。
劣勢のイギリスはどうしたのでしょうか? 「三大国と和解すること」で挽回したのです。「三大国」とは、フランス、ロシア、アメリカのこと。
イギリスは当時、フランスと、アフリカ、インドシナで争っていた。そして、ロシアとは、ペルシャと中央アジアで争っていた。イギリスから独立したアメリカとは、当時全然「特別な関係」ではありませんでした。
1890年代~1900年代はじめ、イギリスは、ドイツに対抗するため、フランス、ロシアと和解し、アメリカとの関係を改善させていきます。結果、ドイツは1914年に始まった第1次大戦で大敗しました。
イギリスは、ロシアとアメリカを味方をつけたので勝つことができた。見事です。1890年からドイツを仮想敵と定め、フランス、ロシア、アメリカを味方につけた。その大局観、長期的視点、戦略性を、私たちも見倣うべきです。
今の日本にあてはめるなら、敵ドイツにあたるのは、明らかに中国でしょう。何といっても、「日本に、沖縄の領有権はない!」と宣言している。
イギリスがドイツと戦うために和解し、関係を強化しつづけたのは、アメリカ、ロシア、フランスでした。今の日本にあてはめれば、アメリカ、インド、ロシアでしょうか。日本はこれら大国との関係を、「一貫して」「長期にわたって」強化していかなければなりません。
問題が多い日ロ関係についても、少なくとも20年ぐらい先を考えるべきです。
アメリカは、なぜソ連に勝てたのか?
さて、イギリスは、第2次大戦でもドイツに勝利しました。今回も、アメリカとロシア(当時ソ連)を味方につけて勝った。面白いのは、アメリカとイギリスが、「資本主義打倒」「米英打倒」を「国是」とするソ連と和解してドイツと戦ったこと。米英は、「戦争に勝つためなら、なんでもする」ことを示しています。
さて、第2次大戦が終わると、アメリカとソ連の「冷戦時代」がはじまります。アメリカ、今度は2次大戦中敵だった、日本とドイツ(西ドイツ)を味方につけることにしました。また「敵」と組んだのです。
日本とは「日米安保」が結ばれた。「日米安保」には二つの目的がありました。まず第1に、ソ連の脅威から日本を守ること。第2に、日本が再びアメリカに逆らわないようにすること。
2番目の理由で、「アメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守らなくていい」という、「変な」軍事同盟になった。日本がアメリカを守るためには、相応の軍事力をもつ必要がある。日本に軍事力を持たせると、またアメリカに歯向かうかもしれない。
米ソ冷戦下で、空前の成長を遂げた日本経済
「冷戦」は、日本にとってどうだったのでしょうか?二つの側面があります。
まず、ソ連という巨大な脅威がいる。「核戦争で世界は破滅する」という恐怖が、いつでもありました。ゴルバチョフが登場した80年代半ばまで、そうだった。
一方で、日本は1950年から1990年まで、40年に渡って世界が驚く経済成長を果たしました。「日本に軍事力を持たせたくない」アメリカが、日本の安全を保証したので、日本は経済に専念できた。「属国」なのはその通りなのですが、実際日本は、「冷戦でもっとも恩恵を受けた国」だったのです。
冷戦は、1991年末、ソ連の崩壊で終わりました。日本経済の栄華も冷戦とほぼ同じ時期に終了。以後、「暗黒時代」に突入していきます。
トランプは、どう動く?
こういう歴史を振り返ると、戦略国家アメリカは、
- 仮想敵を定める
- 仮想敵以外の国々と和解する
という、極めて普通のことを、極めて普通にやっていることがわかります。オバマさんはこれを、8年の任期中6年間やっていませんでした。というか、「敵」を「見誤った」のです。GDP世界2位の中国ではなく、GDP世界12位(2015年)ロシアを「敵ナンバー1」と思ってしまった。それで、ウクライナ、シリアでロシアと「代理戦争」をしてた。
米ロが戦っているうちに、中国はどんどん強力になってしまいました。しかし、いつも書いているように2015年3月の「AIIB事件」以降、アメリカは変わりました。ようやく中国を「最大の敵」と定め、動きはじめた。
トランプはどう動くのでしょうか? 「常識的な動き」をするに違いありません。つまり、
- 中国を敵と定め
- その他の国々との関係を改善していく
その他の国々の中で、最重要なのが日本です。何といっても日本は、GDP世界3位。そして、親米国家でほとんど唯一「AIIB」参加を見送った。安倍総理の「希望の同盟演説」は、「AIIB事件」で落ち込んでいたアメリカに力を与えました。
そして、二番目に重要なのがロシアです。トランプが、「プーチン、プーチン」「ロシア、ロシア」と繰り返している。「プーチンが、アメリカ大統領選の結果を操作した」と言われても、「別に、俺が勝ったからどっちでもいい」という感じ。これは、トランプが「戦略的」に考えているから、そういう態度になるのです。
そして、トランプは、インド、ベトナム、フィリピンなどとの関係を、より強固にしていくことでしょう。オバマさんが嫌悪しているフィリピン・ドゥテルテ大統領についても、「彼のやり方は正しい」と言って、喜ばせています。
米ソ冷戦時代と米中冷戦時代の違い
トランプ新大統領で、米中冷戦時代が始まる。それで、アメリカは日本との関係をさらに改善せざるを得ない。だから、日米関係は良好になり、日本は楽になる。こういう構図は米ソ冷戦時代と同じ。
しかし、米ソ冷戦時代と米中冷戦時代では、違うこともあります。まず、経済。米ソ冷戦時代、日本経済は、大繁栄しました。しかし、米中冷戦時代に日本経済が、「大繁栄」することはなさそうです。というのも、日本はすでに十分豊かな「成熟期国家」である。「高度成長」するはずがありません。
もう一つは、ソ連と違って、中国は世界経済に統合されている。ですから、今後ますます悪くなっていく中国経済の悪影響は、日本にも及ぶことでしょう。そして、欧州経済にも暗雲が漂っているので、これも日本に影響します。
さらに、日本にとって、米ソ冷戦時代より米中冷戦時代の方が、「戦争の可能性」が大きい。もちろん、「尖閣」のことです。オバマさんは、ほとんどの期間「親中」でした。しかし、2010年「尖閣中国漁船衝突事件」以降、一貫して「尖閣は日米安保の適用範囲」と断言し、日本を守りました。しかし、トランプは、どうリアクションするか発言していない。ですから、中国は、「トランプがどう動くか見てみよう!」と考え、挑発を激化させることでしょう。「うまくいけば、尖閣を取ってしまおう」と考えながら。
そして、最後に、「アメリカの変化」があります。つまり、米ソ冷戦時代のアメリカと今のアメリカを比べると、明らかに今のアメリカの方が弱くなっている。トランプさんが、「日本、韓国、NATO加盟国、サウジアラビアにもっと金を払わせる!」と言うと、支持率が上がるような国になっている。
日本は、こういう変化をしっかり認識し、日米安保をより「双務的」なものにしていく必要があります。それをすることにより、日本はアメリカのお墨つきを得て、軍備を増強できる。そして、「アメリカをもっと助ける」という名目で、「軍事的自立」に近づいていけるのです。
米中冷戦時代が始まる。日本にとって、中国の脅威は変わりません。しかし、2015年3月までずっと「親中」だったオバマ時代より、ずいぶん楽になることでしょう。
もちろん、一瞬たりとも油断は禁物ですが…。
image by: a katz / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>