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読売だけ2面の怪、磯崎氏喚問を新聞各社はどう伝えた

 

安保関連法案をめぐり、「法的安定性は関係ない」と言い放った礒崎陽輔首相補佐官の参考人招致が行われました。礒崎氏は発言を撤回したものの、辞任は拒否。この件を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんがメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で取り上げています。

読売が飛ばした小さくないスクープ

今朝の各紙は、《朝日》《毎日》《東京》が礒崎陽輔首相補佐官の問題を取り上げているのに対し、《読売》は頑なにビットコインが1面トップ。昨日に続き、2日連続でビットコインという異様さ。安保法制を巡る議論で安倍政権に都合の悪い内容のものは極力目立たないようにするという方針が徹底しているように思う。

今朝はまず【基本的な報道内容】を簡単に整理し、その上で各紙の比較を行います。【見出しの比較】と【記事内容の検討】です。記事の検討は関連記事を含みます。《読売》については2面に小さめの記事が載っていますのでその記事が対象となります。

【基本的な報道内容】

安全保障関連法案の作成に政府側から関わった首相補佐官でありながら、「法的安定性は関係ない」と発言した礒崎陽輔氏は、3日の参院特別委員会に参考人として出席し、発言を取り消して陳謝した。しかし、辞任は拒否したため、野党は安倍総理の任命責任を追及する構え。

礒崎氏は「法的安定性は関係ないという表現を使ったことにより、大きな誤解を与えた。発言を取り消し、深くお詫び申し上げます」と述べた。「お詫び」を3回使い、頭を4回深々と下げ、陳謝した。自らの進退については「総理補佐官の職務に専念することで果たしていきたい」として辞任を拒否

首相からは電話で「誤解を生むような発言をすべきでないので注意を」と言われたという。総理から進退への言及はなかったという。

野党を代表して質問に立った民主党の福山哲郎議員は「政府は法的安定性を維持しながら集団的自衛連の限定容認をしたと強弁し続けてきたが、ちゃぶ台をひっくり返したも同然だ」と批判。

礒崎氏は法案を「9月中旬までに成立させたい」とも述べていたことについて鴻池委員長は、「衆院の拙速を戒め、できるだけ合意形成に近づけていくのが参院の役割だ。衆院の下部組織でも官邸の下請けでもない」と注意した。

公明幹部は「首相は礒崎氏を相当叱ったので、見守っていくしかない」と語っているが、自民内部からは「きちんと火消ししないといけない」と辞任を求める声もある。

【見出しの比較】

《朝日》「礒崎氏、平謝り」「「法的安定性」発言撤回 辞任は否定」
《毎日》「礒崎発言 追及やまず」「野党「首相の責任大」」
《東京》「公明、礒崎氏続投を容認」「立憲主義軽視 根底に」
《読売》「礒崎氏発言 火消し懸命」「「おわび」7回」「政府「平身低頭」求める」

《朝日》は無難な見出しだが、記事の文章をそのままなぞっただけで、この問題を《朝日》がどのように捉えているかが分からない。ハッキリ言えば、詰まらない

《毎日》はこれから起こることの方向性を読者に意識させることを主眼に置いたもの。「これで終わりだと思ったら間違いだぞ」ということ。記事の方向性はハッキリしている。

《東京》は、この参考人招致は、自民党が公明党に配慮して開いたという面がある。礒崎氏を放置すれば、公明党と創価学会の亀裂が決定的なものになりかねないからだろう。そもそも礒崎氏が「法的安定性は関係ない」と発言したのは、公明党に対する「面当て」だったのではないかと想像する。礒崎氏の地元大分の政治状況がどうなっているか、今ここでハッキリしたことを言う準備がないけれど、法的安定性を求める公明党に対して、自分たちは無用な譲歩を重ねてきたと考えていたからこそ、あの発言が出たのではないだろうか。だとすると、この見出しには重要な意味がある。もう1つの「立憲主義軽視 根底に」は、1面トップ記事の横に付けられた阪田元法制局長官のコメント内容に対応している。

《読売》は2面に記事を追いやったけれど、見出しは見事だと思う。内容についても興味深い独自内容がある。

>>次ページ 期せずして読売が飛ばしてしまったスクープとは?

【記事内容の検討】

「法案が法的安定性を欠くのは明らか」と断言

【朝日】は2面になると少し本気を出すようなところがある。解説記事「時時刻刻」の見出しは「安保キーマン 火種」と分かりやすい。

首相補佐官の参考人招致に応じるというのは安倍政権にとって異例のカードだったこと。早期の幕引きが必要だったということ。法的安定性の問題で公明党が苦言を呈し、安倍氏が謝るということがあったことなどが記されている。2日投開票の仙台市議選の結果、公明党は前回よりも得票が減っていて、危機感が募っていたという。今後、自公の選挙協力に影を落とす可能性もあるというが、どうだろうか。

自民党内にも辞任論がくすぶっている。「沖縄2紙を潰すべきだ」とか「批判的な報道を懲らしめるべきだ」というような圧力を公言した先日の勉強会でも、萩生田光一総裁特別補佐や加藤勝信官房副長官など、首相側近の不祥事が相次いだ。新国立問題で野党の追及を受ける下村文科大臣もその1人。安倍氏は総裁選後に内閣改造を行う構えだが、それまでの間、火種を抱え続けることにもなる。野党は逆に攻めやすくなったとも言えるだろう。

14面社説は「首相の任命責任を問う」とさらに分かりやすい。末尾には「法案が法的安定性を欠くのは明らかである。その責めは、首相自身と、公明党を含む政権全体が負うべきものだ。礒崎氏の招致で済む話ではない」という。《朝日》もやっとこういうことが言えるようになったのかという気分だ。

公明党は「確信犯」なのでは?

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ2015」で、「続投 与党の溝深まる」「首相、ドミノ辞任警戒」との見出し。公明党に気を遣った書き方になっている。確かに、自民党と公明党の間の「溝」は深まったようにも思うけれど、「法的安定性」を守ってもらわなければ困るという公明党の言い分は、そうでなければ支持母体の創価学会との亀裂が決定的になるというSOSだろう。いささか都合が良すぎるとは思わないのだろうか。《朝日》が社説で書いたように「法案は法的安定性を欠く」とバッサリやらなければ、繰り返し「平和の党」の名を裏切ってきた公明党の問題が見えてこない。

大方の憲法学者が違憲と談ずる安保法制については、自公並んで、法的安定性を維持した法案だと強弁しているに過ぎない。それがただの大嘘であることは公明党にしたって、先刻承知だろう。公明党は自民党に欺されたわけではない。憲法違反であることを分かった上で、与党の一員として法案を提出したのだから「共犯」と呼ぶのが相応しい。

安保法案作成の中心人物である礒崎氏が辞任するのは政府にとっては辛い。しかし、野党は辞任を拒否したことで、礒崎氏の再招致を要求し始めている。「憲法改正を一度味わって頂く」というような「過去の膨大な暴言」を取り上げることになるという。材料はいくらでもありそうだ。

立憲主義の軽視

【東京】は、その公明党が礒崎氏続投を容認したと見出しで論難している。加えて、もう1つの見出し「立憲主義軽視 根底に」に対応して、阪田元法制局長官へのインタビューが載っている。この内容が凄い。阪田氏は礒崎氏の発言撤回は「本意でないだろう」と言う。「なぜなら、安全保障政策を重視する外務省を中心とした官僚、政治家、学者らは『憲法より安全保障が大事だ』と常に言い続けてきているからだ」という。しかもそれは安全保障の観点ではなく、国連安保理の常任理事国入りに必要だという、外交的国際的地位の問題だとする。だからこそ、今回も、安倍氏はなぜ「集団的自衛権」を行使しなければ国民を守れないのか、全く説明できていないという。

各紙、安倍氏の任命責任云々について書くけれど、その中身がなんなのかについては書かれていない。立憲主義を軽んじる外務官僚とその上に乗って憲法の改変を目指す安倍氏およびその周辺の問題を、「立憲主義の軽視」という次元で整理する《東京》の伝え方は重要だと思われる。

小さくないスクープを飛ばしていた!

【読売】のこの問題についての記事は、2面に1,000字に満たない短い記事があるのみ。

だが、重要な事実が書かれている。事態の早期沈静化を図りたい政府・自民党は「平身低頭」に徹するよう、礒崎氏に求めたという件(くだり)だ。実際、礒崎氏は、まさしく平身低頭してお詫びと謝罪を7回も繰り返した、しかも、政府側が想定問答を作り、事前に練習するよう求めていたという。そうでもしなければ辞任論は他の閣僚にも飛び火するとの危機感があったのだろう。

この記事を1面トップに載せれば、随分大きな影響があったのではないかと考えると、残念だ。

image by: 首相官邸

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/8/4号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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