「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」という独特のフレーズでお茶の間の人気を博した映画解説者の淀川長治さんですが、氏の凄さはただ多くの映画を観ているだけ、知識があるだけ、というありきたりなところにはありませんでした。無料メルマガ『1日1粒!「幸せのタネ」』では、そんな淀長さんがチャップリンをもとりこにした「特殊能力」が紹介されています。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ
かつて日曜洋画劇場の解説者として絶大な人気と信頼を集めていた淀川長治さん。番組の終わりの「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」は今でも覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
淀川さんは、その89年の生涯で3万3,000本以上の映画を見たと言われていますが、ご本人曰く、どんな映画も最初から最後まで全部覚えている、とのことでした。
映像記憶の能力がとんでもないレベルだったのかもしれません。これはあながち嘘じゃないだろうと思うのは、淀川さんの文章を読むと、あらためてその映画を見ながら書いているというよりも、頭の中でその映画を再生しながら「このシーンでは、誰がこうして、こういうものが後ろから迫っていて、で、だれがこんな表情をしていて」と書いていると思えるものばかりだからです。
また、有名なエピソードで、チャップリンの目の前でチャップリンの真似をしたこともあります。
チャップリンが、おそらく新婚旅行だったと思いますが、船で世界中を回っている時に、日本に立ち寄ったことがあります。どうしてもチャップリンに会いたかった淀川さんは押しかけます。
チャップリンは人に会うのが嫌いだったので、まあ半ば仕事としてでしょう、「3分だけ会ってやる」と言うのです。最初は淀川さんも「あなたの映画はこれを見た、あれを見た」と話すのですが、まあ、そういうのは聞き飽きているのでしょう、チャップリンも「あ、そ」みたいなつれない態度。
本気であなたの映画が好きなんだ、真剣に見たんだよ、ということを示そうと、淀川さんは映画の冒頭のシーンをその場で事細かに真似したのです。それをじっと見ていたチャップリンも、さすがにこれは本物、本気で僕の映画が好きなんだと気づき、「ちょっとこっちおいでよ」と船室に招き入れてくれて、たっぷり語り合ったそうです。
淀川さんの映画への情熱と、常人離れした映像記憶の能力がもたらした出会いと言えるでしょう。