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尖閣安保適用の恩人だった。フリン米大統領補佐官辞任が与える余波

先日掲載の記事「狂犬は中国に噛み付いた。米国防長官「尖閣を守る」発言の破壊力」で、マティス米国防長官の発言を引きトランプ政権の対中政策を絶賛した無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さん。しかし、親日家で日米関係の重要さをトランプ大統領に進言していたとされるフリン米大統領補佐官の辞任で、流れが変わる可能性が出てきました。ロシアと中国の動きも気になる中、日本は今後、どう立ち振る舞うべきなのでしょうか。

フリン米大統領補佐官辞任で泣く国、笑う国

アメリカで、とても大きな出来事が起こりました。マイケル・フリン大統領補佐官が辞任したのです。理由は、政権発足前に駐米ロシア大使と「対ロ制裁解除」について話し合っていたこと。その件で、ウソをついていたこと。

<米補佐官辞任>制裁解除、露と協議疑惑 フリン氏

毎日新聞 2/14(火)22:05配信

 

【ワシントン大前仁、三木幸治】米ホワイトハウスは13日、フリン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が辞任したと発表した。フリン氏はトランプ政権発足前、駐米ロシア大使と対露制裁解除について電話で協議し、その後、政権内で虚偽の説明をした疑惑が浮上。

「ロシアの希望」だったフリン氏

トランプさんが「親ロシア」「親プーチン」であることは、よく知られています。そして、政権内を見ると、「親ロシアの大物」が二人いた。

一人は、ティラーソン国務長官。エクソン・モービルのトップだったこの方は、「プーチンの親友」を呼ばれています。もう一人が、今回辞任したフリン大統領補佐官。フリンさんは、アフガン戦争、イラク戦争で戦った元陸軍中将。イスラム教嫌いで知られている。そして、「ISと戦うために、ロシアと組むべきだ!」というのが持論。

口で言うだけでなく、大統領補佐官になるずっと前から、ロシアとの関係構築に力を入れていました。2015年12月、モスクワで開かれた「ロシア・トゥデイ(RT)10周年記念」イベントで、プーチンの隣に座っていた写真は、ひろく拡散されました(たとえば、ニューズウィーク)。

ロシア政府、現在最大の課題は、「アメリカと和解して制裁を解除してもらうこと」です。トランプ政権内で「ロシア制裁解除」を目指していたのがフリンさん。彼がスピード辞任したことは、もちろんトランプ自身に打撃です。そして、ロシアにとっても大打撃なのです。

日本の恩人でもあるフリンさん

親ロシアのフリンさんですが、「親日」でもあります。トランプさんは、「日本がもっと金を出さなければ、米軍を撤退させる!」と主張していた。そんな彼に、「大統領、日米同盟は大事ですぞ!と説得していたのがフリンさんだった。

共同声明尽力のフリン氏辞任、「ショック」の声

読売新聞 2/14(火)20:04配信

 

トランプ米政権内で日米同盟の重要性を訴えてきたマイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任し、政府は対日政策への影響を注視している。

そして、先日の安倍・トランプ会談後の「共同声明」に「尖閣は日米安保の適用範囲」とあったのもフリンさんの尽力によるものだった。

10日の首脳会談後に発表した共同声明に尖閣諸島への日米安全保障条約5条適用が盛り込まれたのは、フリン氏の尽力もあった。
(同上)

とはいえ、トランプさん、マティス国防長官、ティラーソン国務長官が皆「日本の重要性」を語っている。それで、日本の打撃はロシアほど大きくなさそうです。

フリンさんは、「正しい戦略」構築に動いていた?

ここからは、私の推測です。

フリンさんは、親日で親ロシア。ティラーソン国務長官も親日で親ロシア。この組み合わせって、あまりないですね。思うにフリンさんは、「正しい戦略構築のために動いていたのではないでしょうか?

私がここで言う「正しい戦略」とは、ミアシャイマーさんやルトワックさんが主張している戦略です。簡単に書くと

 1.アメリカ最大のライバルは中国である。
 2.中国に勝つためには、ロシアを味方にしなければならない。

というもの。そして、日本重視です。ルトワックさんは、はっきりこう主張している。

 3.日本は、アメリカとロシアの仲介役になれる。

つまり、フリンさんもティラーソンさんも、こういう戦略観を共有しているので、親日、親ロなのではないでしょうか?

追いつめられるロシア、攻勢に出る中国

世界で起こっている動きを見ると、全般的に「ロシアが追いつめられ中国が攻勢に出ている」感じです。

まずロシアについて。ウクライナで、再び戦闘が始まっています。これは何でしょうか? ウクライナ・ポロシェンコ政権の悪夢は、「アメリカとロシアが和解して、ウクライナが捨てられること」なのです。それで、攻勢に出ている。そして、「ロシアがまたウクライナを攻撃している!!!」と宣伝している。実際、国連安保理では、「ロシアがまた小国ウクライナをいじめている!というムードになっています。

しかし、「制裁を解除してもらうことが最重要課題」のロシアが、「ウクライナで戦闘を始める」というのも、変な話です。そうなのですが、トランプも露骨にロシアを守れません。アメリカのヘイリー新国連大使は2月2日、「制裁解除はロシアがクリミアをウクライナに返すまでありえない!と断言しました。ロシアがウクライナにクリミアを返すはずはないですから、「永遠に制裁は解除しない!」という意味になります。

一方、アメリカにとって真のライバルである中国はどうでしょうか? こちらは、「さすがだ…」とナーバスになるほど、うまく反撃しています。

ナショナリスト・トランプは、国際金融資本に嫌われている。習近平はそのことを知っていて、1月のダボス会議で、「グローバリズム絶対支持宣言!」をした。それで国際金融資本は、「習近平は、トランプよりマシかもしれない」と思い始めている。

私たちには見えませんが、活発なロビー活動、裏工作が行われているのでしょう。

トランプさん、昨年12月には、「一つの中国の原則なんて、知ったこっちゃない!」という態度だった。それが、2月9日には、「一つの中国の原則を尊重する」に変わりました。大統領就任時と比べると、明らかに「ロシアに厳しく」「中国に優しくなっている

そんな中国の習近平は、「フリン辞任のニュースを聞いて大喜びしていることでしょう。というのは、トランプ政権内の「親ロシア派」が減れば、「反ロシア派」の影響力が強まる。すると、アメリカ政府の敵意が中国からロシアの方に向く。実際、中国に近いアメリカ民主党政治家やメディアも、「プーチンを悪魔化することで、中国批判を和らげよう」と必死で工作しているようにも見えます。

日本はどうすべきなのでしょうか? 今回の安倍・トランプ会談で、日米同盟は強固になりました。それで調子に乗って中国を挑発してはいけない。中国とは、アメリカが疑念をもつほど接近してはいけない(例、田中角栄や小沢一郎は、明らかに近すぎた)。しかし、関係を悪化させすぎてもいけない。

日本は、「米中関係」「米ロ関係」を、常に注視し、日米同盟を軸に対立をなるべく避けながら進んでいく必要があるのです。

 

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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