日本の美徳。暴走族をも激変させた「トイレ掃除」の不思議な効果

 

汚いトイレのなかでご飯を食べる生徒たち

トイレ掃除で問題校を劇的に改善した例もある。以下は広島県立安西(やすにし)高校に教頭として赴任した山廣(やまひろ)康子先生のレポートである。

私が教頭として赴任してきた平成13年4月当初の安西高校は、地元警察の協力を得なければとても手がつけられない危ない問題校でした。…

 

校内には至るところゴミが散乱し、ところかまわず平気でゴミを捨てていました。トイレのなかも想像を絶する汚さでした。驚いたことは、その汚いトイレになかで、ご飯を食べる、ジュースを飲む、という行為を生徒が平気でやっていたということです。初めて見たときは、本当に信じられない光景でした。

集団リンチ事件なども起こり、毎日警察に電話をしない日はなかった。広島北警察署に呼ばれて学校の現状を報告していた時のこと、ちょうど同席していた「広島掃除に学ぶ会」の井辻会長が「お手伝いをさせてください」と申し出た。そして、その年の12月に予定されていた「掃除に学ぶ会」の会場を安西高校にする事となった。

しかし、生徒が掃除に参加してくれるかどうか山廣先生は不安でならなかった。問題行動のあった生徒の顔を見かけるたびに「おいでね」「参加しようね」と声をかけた。それでも安心できずに、開催日が近づくと、夜な夜な生徒宅に電話勧誘までした。前日には「誰も来てくれないのではと悶々として眠れなかった

「変わったね」

ところが、当日の早朝、「先生、おはよう。イケメン隊登場だよ」と生徒たちがやってきてくれたときには、天にも昇る嬉しさでした。

 

当日の参加者は約280名にものぼり、大成功でした。参加した生徒は、最初は「ウァー」「キャー」といいながらも、トイレ掃除にどんどん熱中していきました。掃除終了後、生徒たちは清々しい笑顔を満面に浮かべていました。

こうしたトイレ掃除を半年に一度ほどのペースで続けた

掃除を続けてきた結果、校内が急速にきれいになっていきました。並行して、校風がガラリと変革していきました。もう、生徒が警察のお世話になることもなくなりました。服装の乱れも見かけなくなり、問題行動も激減してきました。近くの団地の人や県教育委員会、そして、いろんな関係機関の方から「変わったね」といわれるまでになりました。

その年には、7年ぶりに体育祭を復活できた。

とくに感動したのは、チームワークのとれたマスゲームでした。問題行動を起こしていたあの生徒たちがあれだけやれる――そう思うと、涙が止まりませんでした。

「マジでトイレを掃除するのかよ?」

広島掃除に学ぶ会」では、広島県警と協力して、トイレ掃除によって暴走族を更生させるという活動を展開している。その始まりは平成11年11月18日。県警の少年対策本部や教育委員会、市民有志など103名の関係者が、暴走族22人を連れて、広島市内の新天地公園に集まった。

参加した暴走族は、金髪、茶髪、ピアスといったファッションの少年少女ばかりです。それを見て、参加した大人たちも硬くなっており、緊張のあまりただ突っ立っている人たちも目立ちました。

 

少年少女を引率してきた警察署員の方々も、説得して集めるのにたいへんな苦労をされたようです。彼ら一人ひとりの自宅に車で迎えに行って、参加させた警察署員もおられました。なかには、やっと連れてきたにもかかわらず、「だましやがった!」と逃げ出した少年もいました。

 

また、「ウッソー、聞いてないよ!」と警察官に文句を言い出す少年。「マジでトイレを掃除するのかよ?」「長靴履くのダサいよー」と座ったまま動こうとしない少女。

print
いま読まれてます

  • 日本の美徳。暴走族をも激変させた「トイレ掃除」の不思議な効果
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け