「暴走族が素手で便器を洗っている」
このような雰囲気のなかで、いよいよトイレ掃除が始まりました。もしもの事態を考えて、警察署員の方々と私たちが少年少女をサンドイッチ状態にしてのトイレ掃除です。初めは反抗的だった少年少女も、いざ始まってしまうと、見る見るうちに順応し、一心不乱に便器と向き合うようになりました。
少女のなかには、感動して、「便器に手をつっこんでいるところを写真に撮ってや」とか、「私の便器のほうがきれいになっているよ」と素直に心を開いてくれる子もいました。
なかには、最後まで抵抗して、途中で逃げ帰った少年も数人はいたようだ。しかし、掃除が終わったあと、少年少女の中からはこんな感想が出た。
最初は抵抗があったが、やりだしたら夢中になった。楽しかった。今後も参加したい。こうした掃除をする大人がいることに驚いた。
こんな光景に、近隣の人たちも驚いた。スーパーの店長は「いつも店内をウロウロしていた、他のお客が怖がっていたあの少年が、トイレを素手で掃除している」。トイレ掃除をきっかけに心を入れ替え、暴走族を抜け出す青少年も現れていった。
「新宿から東京を変えよう」
この頃の広島市は暴走族の無法ぶりで全国的にも有名になっていたが、それまでの検挙至上主義から転換し、町ぐるみのトイレ掃除によって、暴走族青少年の更正に今までにない手応えを得た。
この取り組みを率先推進した広島県警本部長の竹花豊氏は、その実績を買われて、平成15年7月に東京都の治安担当副知事として招聘された。竹花副知事は犯罪の多発する新宿を安全、安心な町にして「新宿から東京を変えよう」と町ぐるみの掃除に取り組んだ。
月に一度の早朝掃除で、「日本を美しくする会」の人たちとともに、植え込みに投げ捨てられた空き缶、ホームレスの使い捨てた段ボール、道路にへばりついたガム、電柱に貼り付けられた広告用チラシ、酔っぱらいの小便跡などをきれいにしていった。
約1年も掃除を続け、街がきれいになるに従って、犯罪件数も減っていった。平成15年に比べて、翌年の犯罪件数は50%以上も減少した。客層も変わってきている、と地元の商店街の人は語っている。