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なぜロシア地下鉄テロは起きたのか。現地在住邦人が内情レポート

世界各国で連日のように発生しているテロ事件。つい先日も、ロシアのサンクトペテルブルクで地下鉄爆破テロが起こり、14名の尊い命が奪われました。このような卑劣な犯行を、「宗教的な問題」ということで片付けて良いものなのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、ロシアで目の当たりにした差別を例に挙げながら、「移民たちの怒り」とテロの関係について論じています。

テロはなぜ起こる?

皆さんご存知と思いますが、ロシア・サンクトペテルブルグの地下鉄で4日テロが起こり、14人が亡くなりました。犯人は、中央アジア・キルギス生まれのウズベキスタン人、アクバルジョン・ジャリロフだそうです。イスラム国ISとの関係が指摘されています。

この事件を深堀りはしません。「なぜテロは起こるのか?」について考えます。日本も「他人事」ではないからです。

テロの動機は、差別への怒り

ニューズウィーク日本語版4月5日から引用します。

容疑者ジャリロフはキルギス生まれのウズベク人。民族衝突で家を追われてロシアに移り、サンクトペテルブルクの寿司バーで働いていた。ジャリロフのようにロシアで働く中央アジア出身者は、ISISなどの過激派グループにとって格好のリクルートの場だ。

ロシアでは現在、何十万人もの中央アジア人が暮らしている。職を求めて移住してきた人々だ。彼らの多くは、建設現場など、低賃金で劣悪な条件の労働環境で働いている。

ジャリロフがなぜ自爆テロを行ったのかはまだわからないが、出稼ぎ労働や経済的な極限状態が中央アジア人の過激化の大きな原因になっているのは確かだ。

私はこの文を読んで、「そのとおりだ!」と思いました。実際、私が一歩家から外に出れば、道路の清掃をしている人、雪かきをしている人、工事現場で働いている人などは、中央アジア系の人ばかりです。

私は(同じアジア系の)日本人ですから、近所の中央アジア人と普通に話せます。ほとんどの人は、いい人です。しかし、ニューズウィークで書かれているような理由で、「怒りを胸に秘めている人たちも、やはりいるのです。

麻薬を売ってリッチになることを夢見るタジク人

私がいつも行く洗車場では、中央アジア・タジキスタンの人がたくさん働いています。私は、ある男性に、「モスクワでの生活どう?」と聞いてみました。すると、「タジキスタンには仕事がないからモスクワにきたけど、全然楽じゃないね。洗車場で安月給長時間労働でこき使われて…」(それでも、彼は、マジメに洗車してくれます。モスクワにももちろん「自動洗車」はありますが、車の中まできれいにしたいときは、「人力」の洗車に行きます)。

その後、彼は非常に興味深いことをいいました。

麻薬の売買しているタジク人はみんなリッチに暮らしているよ。俺もよく誘われるんだけど、アラーの教えに反していると思うから断ってんだ」

ロシアで流通している麻薬は、アフガニスタンから中央アジアを経由して入ってくるそうです。私は、「誘惑に負ける人もいるだろうな~」と思いました。

過酷、低賃金、長時間労働に嫌気がさし、一部の男性は、麻薬の売買に走る。一部の女性は、売春に走る。これは、どこの国でも同じです。日本だって、外国人を入れてこき使っていたら、そうなります。

サッカー敗戦の「うさばらしサンドバック」にされるキルギス人

テロがらみで思い出したことがもう一つあります。もうだいぶ前になりますが、テレビを見ていたら、キルギスの駐ロシア大使が出ていました。

なんでも、サッカーの試合で自分の応援するチームが負けた。すると、一部のサッカーファンは、道路の清掃をしているキルギス人を殴ったり蹴ったりして、「うさばらし」をするというのです。その場には、ロシアのサッカー協会のお偉いさんもいたのですが、そういう現象があることを認めました。

皆さん、こういう状況をイメージしてみてください。家族を養うために外国に来て、スタジアムのまわりの清掃をしていた。そしたらアグレッシブなサッカーファンが複数やってきて理由なく暴行を加えられる。しかも、何度も何度も、同じことが繰り返される。彼ら犯人が捕まることはない。このキルギス人の憤りは、いかばかりでしょうか? この彼が、ISから、「一緒に復讐しよう!と勧誘されたら入りたくならないでしょうか?

誤解のないように書きますが、ほとんどのロシア人はいい人です。そして、ほとんどの中央アジア人もいい人です。しかし、ごく一部の人の対立が、やがて「民族間の対立」に発展していく。そういうことなのです。

日本も要注意

もう一度、ニューズウィークを引用してみましょう。

ロシアでは現在、何十万人もの中央アジア人が暮らしている。職を求めて移住してきた人々だ。彼らの多くは、建設現場など、低賃金で劣悪な条件の労働環境で働いている。

ジャリロフがなぜ自爆テロを行ったのかはまだわからないが、出稼ぎ労働や経済的な極限状態が中央アジア人の過激化の大きな原因になっているのは確かだ。

日本政府は今、「日本国民が嫌がる仕事は、外国人にやらせればいいや!」という「差別的な動機で3K外国人労働者をどんどん入れています。そして、彼らの多くは、低賃金長時間労働。まさに、ニューズウィークのいう「劣悪な条件の労働環境」で働いている。まだ欧米に比べ数が少ないので顕在化していませんが、もっと数が増えれば、必ず問題が起こってくるでしょう。

欧米やロシアは、「移民政策が間違っていたこと」をようやく認識し、変わりつつあります。イギリスは、「移民、難民受け入れを強制されたくない」とEU脱退を決めました。アメリカでは、「移民大量受け入れ反対派」のトランプが大統領になりました。

そう、日本がマネしている欧米の政策は、「完全失敗した政策」なのです。それをわざわざマネる政治家は、亡国の意図があるか、よほどの勉強不足に違いありません。日本が、欧米、ロシアの過ちを繰り返さないことを、強く願っています。

image by: ccmakarov / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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