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【書評】「パックマン」と「12星座ブラ」の意外な共通点とは?

1980年に発表されるや、国内はもとより海外でも大ヒットとなったパックマン。なぜこのゲームはここまで爆発的な人気を獲得できたのでしょうか。無料メルマガ『ビジネス発想源』ではパックマンの生みの親・岩谷徹氏の著作を紹介するとともに、ヒット商品開発のヒントを探ります。

キャラクター性を持ち込む

最近読んだ本の内容からの話。

昭和53(1978)年にタイトーからゲーム『スペースインベーダー』が発売されると、日本中のゲームセンターで大人気となった。他のゲームメーカーが第2の『スペースインベーダー』を狙ってエイリアンを撃ち殺すゲームを大量にリリースし、その殺伐とした雰囲気に、ゲームセンターは女性が入れない男の遊び場になっていった。

ピンボールを作りたくてナムコに入社していたゲームクリエイターの岩谷徹氏は、ゲームセンターをもっと和やかな雰囲気にしたくて、「女性やカップルでも楽しめるゲームを作れないか? 次は女性をターゲットにしたゲームを作ろう」と思い描いた。

女性ならば誰しも食べることに興味があるから、「食べる」をキーワードにアイデア探しを始めた。そしてある日、昼食で何の気なしに注文したピザを食べている時、一切れだけ食べた残りのピザの形が、口を開けているキャラクターに見えた。

これが、後に世界的大ヒットを巻き起こすことになる『パックマン』の誕生の瞬間だったが、この時に決まっていたのは、女性でも遊べるように四方向レバー1本という操作、そして「食べる」という部分だけだった。

次に、「食べる」に次ぐ重要なゲーム性、「追いかけっこ」の動きを加えるために、まずはモンスターを追加した。

担当プログラマーの舟木茂雄氏には、「モンスターがパックマンの後を数珠つなぎのように追いかけるのではなく、四方から取り囲むように追いかけてほしい」と抽象的なリクエストを出したところ、舟木氏は見事なアルゴリズムを完成させた。

1匹目は、パックマンの後をただ追いかける。2匹目は、パックマンのいる地点の少し前を目指して行動し、先回りさせるような動きをする。3匹目は、パックマンと点対称の位置を目指す。4匹目は、何も考えずに自由に行動する。この4匹のモンスターの異なる行動目標がうまく絡み合うことで追いかけっこのゲーム性が増し、緊張感のあるゲームとなった。

そして、このアルゴリズムの違いと共に、ビジュアル面でも女性ウケを狙ってモンスターに色分けをしたことで、それまでのゲームではほとんど無効性に近かった記号が性格を持ち始めて強い個性を持ったキャラクターに一新した。「しつこく追いかけるキャラ」の赤色のアカベイ、「待ち伏せキャラ」の桃色のピンキー、「気まぐれキャラ」の青色のアオスケ、「おとぼけキャラ」の橙色のグズタの誕生である。

岩谷氏は女性ウケを狙って、ステージの合間にデモアニメを挿入することを提案したが、当初はプログラマーからは「ゲームに関係ないプログラムはしたくない」と強く否定された。しかし、女性の長いゲームプレイの緊張感をほぐす役割と、キャラクターの世界観を広げるという映画的な発想を理解してもらい、作らせた。

『パックマン』のゲームができあがり、中村雅哉社長に対する社長プレゼンの時に、中村社長は何時間も熱くプレイをしてくれたが、「どれが敵やらわからない、敵モンスターは赤一色にしろ」と命じた。確固たる遊びの信念を持った創業者・中村社長の意見もゲーム性を考えれば一理あるが、岩谷氏は感性議論では結論が出ないと悟り、いったん持ち帰り、開発部内で、モンスターの色についてアンケートを行なった。

そして、アンケートの結果は、圧倒的に4色のカラフルモンスターが支持された。そのアンケート結果を持って再び社長面談を行うと、社長は「わかった」とOKを出してくれた。

1980年5月22日、ついに渋谷で『パックマン』が公開されると、岩谷氏の思惑通りに女性客がキャーキャー言いながらプレイに熱中した。

『スペースインベーダー』ブーム最中の日本では抜群の売り上げがあったわけではなかったが、海を越えアメリカに渡るや、北米だけでも日本の20倍もの基盤が出荷され、爆発的な大ヒットとなり世界中を席巻した。まだ今のようにコピー版の取り締まりがしっかりとされていない時代だったが、それでも売上ベースでこれまでに数百億円を稼ぐ大ヒット商品となった。

岩谷氏はその後もナムコで『リブルラブル』『源平討魔伝』『リッジレーサー』など、ヒット商品を次々にプロデュースしていき、やがて東京大学大学院の特任教授となって新たなクリエイターの育成に力を注いだ。

『パックマン』誕生から25周年を迎えた2005年、『パックマン』は「最も成功した業務用ゲーム機」として、そして岩谷徹氏自身もその開発者として、ギネスブックに認定された。

制作者の岩谷氏でさえも想像できない規模の『パックマン』の大フィーバーがアメリカで起こったのはなぜか。それは、複雑な攻撃パターンを持った『スペースインベーダー』が日本では新しい衝撃として大ヒットしたように、北米での『パックマン』は「キャラクター性を持ったはじめてのゲーム」としてアメリカ人の心をファーストインパクトで射止めからではないかと感じている、と、岩谷徹氏は述べている。

出典は、最近読んだこの本です。ギネス認定されたパックマンの生みの親・岩谷氏の著作。人を楽しませるヒットの法則がてんこ盛り。

パックマンのゲーム学入門
(岩谷徹 著/エンターブレイン)

12星座ブラ」が発売されることが話題になっています。黄道12星座をモチーフにしたランジェリーを身につけた女性のイラストがネットで話題となり、老舗下着メーカーのいずみが、そのブラのシリーズ化を実現したのです。

12種類のブラジャーを作っても、それはただのシリーズ群でしかありませんが、12星座というモチーフを当てはめることで、猪突猛進な性格のおひつじ座とか、二面性を強く持つ多才な人のふたご座とか、それぞれにキャラクター性がついたのです。

技術もデザインも新発明の限界に来ると、今度はキャラクター性が重要になります。キャラクター性があると、好きな性格を選んだり自分に似た性格を応援したくなったりします。日本の軍艦を擬人化した『艦これ』や名刀を擬人化した『刀剣乱舞』など、近年は「擬人化がヒットの要因の一つになっていますが、これもまた、キャラクター性の付与と言えるでしょう。

これまでは自分たちにとっては単なる似たような製品群でしかなかったものや、何かを表す記号でしかなかったものも、キャラクター性を一つずつにつけていくことで、それぞれが大きく独立した親近感を発し始めます。今は掃除機のジャンルも、ルンバの登場によってロボット型の掃除機が続々と増えていますが、恐らくこれからは「隅の方まで気付くしっかり者」「大雑把だがすごい吸引力」などというキャラクター性の勝負になるのではないでしょうか。

自社の商品やイベントに種類がいくつもある場合、「こういう性格の人はこの商品」「こんなタイプの人はこちらのイベント」というように、お客様の性格やタイプによって分けてみるのはどうでしょうか。そうすれば、その商品やイベントにも、その性格やタイプを反映したキャラクター性がイメージできるようになります。中身やクオリティが全く同じ施術であっても、例えば20分コースと60分コースと100分コースでは利用する人のタイプが分かれるでしょうから、一つ一つにその性質をつけてあげるのです。

自社の商品に、キャラクター性を持ち込むと、どんなタイプのラインナップができるでしょうか?

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)

image by: Maksym Darakchi / Shutterstock.com

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【著者】 弘中勝 【発行周期】 日刊

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