未だくすぶり続けている「北朝鮮問題」。そんな中で、「金正恩と会えれば光栄だ」と語ったトランプ大統領に一筋の光明を見た方も多いのではないでしょうか。しかし、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「北朝鮮は根深いアメリカへの不信感を持っており、問題解決にはほど遠い」との見方を示すとともに、「トランプ大統領にはほとんど権力がない」との驚くべき「事実」を記しています。
トランプが金正恩と直接会談したらどうなる???
トランプさん、「金正恩と会えれば光栄」と語ったそうです。
金正恩氏と会えれば「光栄」 トランプ米大統領
BBC News 5/2(火)10:58配信
ドナルド・トランプ米大統領は1日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と適切な状況の下で会うことができるなら「光栄だ」と語った。
トランプ氏は米通信社ブルームバーグとのインタビューで、「もし僕が彼と会うのが適切な場合は、会う。もちろんだ。そうできれば光栄だ」と述べた。
会ったら、何が変わるのでしょうか?
北朝鮮問題解決、「理論的」には「簡単」
トランプ、金正恩、2人には「絶対権力がある」と仮定して考えてみましょう。すると、「北朝鮮問題」解決、実は簡単であることに気がつきます。
金正恩が恐れているのは、「アメリカが攻めてきて、自分が殺されたり、権力を失うこと」です。イラクのフセインのような運命になりたくない。
一方、トランプが恐れているのは、北朝鮮が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、「アメリカ本土を核攻撃する能力」を得ること。
どうすれば、この問題を解決できるのか? 簡単ですね。
「北朝鮮の核兵器を破棄するかわりに、アメリカは、北朝鮮の体制に干渉しない。北朝鮮が、アメリカ、日本、韓国を先制攻撃しないかぎり、アメリカが北朝鮮を攻めることは絶対ない!!!」と金正恩と北朝鮮、そして世界にむけて約束すればいい。しっかり条約を締結するのも大事です。
これで、北朝鮮問題は解決です。日本、アメリカ、韓国は、「核の脅威」がなくなって幸せ。金正恩と北朝鮮は、アメリカから攻撃される心配がなくなって幸せ。経済制裁が解除されれば、北朝鮮経済は、大いに発展することでしょう。ところが…。
根深い不信
こんな簡単な話ですが、実現する可能性は、ほとんどないでしょう。なぜ?
まず、アメリカと北朝鮮は、相互に不信している。アメリカ政府は、「対話はしない。アメリカはこれまで何度もだまされてきた」と主張しています。
一方、北朝鮮もアメリカを信用していません。なぜ? たとえばリビアの例を見てみましょう。リビアのカダフィ大佐は03年、「核兵器開発計画」を停止し、欧米との和解に動きました。ところが2011年、米英仏はリビアを攻撃。カダフィは、殺されました。カダフィの「血まみれ映像」を覚えている方も多いでしょう。この件、知らなかった人のために、ウォール・ストリート・ジャーナルから引用しておきましょう。
核協議に応じぬ北朝鮮、リビアが反面教師に
By ALASTAIR GALE 2015年7月29日 19:00 JST
北朝鮮の外交官に、なぜイラン式の核協議に関心がないのかと問うてみれば、中東の別の国を理由に挙げるかもしれない。それはリビアだ。リビアでは2003年に当時のカダフィ大佐が大量殺りく兵器を廃棄することで合意した。だが8年後、この独裁者は生まれ故郷シルトで殺害され、悲惨な最期を遂げた。
こういう例をみれば、金正恩が、アメリカを信用しなくても仕方ありません。トランプ時代に約束が守られても、次の大統領が反故するかもしれない。
トランプに絶対権力はない
トランプ就任から「100日が過ぎた」と騒いでいました。この100日でわかったのは、「トランプには、ほとんど権力がない」ということ。なぜそのことがわかるのか?
選挙戦中、誰からも拘束されず自由だった彼は、非常に率直な発言をしていました。しかし、選挙戦中と大統領就任後では、「180度違う言動」をとるようになっています。たとえば?
●ロシア
- 選挙戦中=一貫してプーチン・ロシアとの和解を主張。2016年7月には、「クリミアをロシア領と認定する可能性」に言及。
- 選挙後=親ロシア的姿勢は変わらないが、「私はプーチンを知らない」などとし、トーン・ダウン。ヘイリー新国連大使は2月、「ロシア制裁は、クリミアをウクライナに返還するまで続く」と発言。
●ウクライナ問題
- 選挙戦中=ウクライナ問題は、「欧州の問題」とし、干渉しない意向だった。
- 選挙後=既述のように、ロシアがクリミアをウクライナに返すまで、制裁を継続する方針。
●シリア問題
- 選挙戦中=「アサドは悪いが、ISはもっと悪い」と発言。つまり、アサド攻撃はやめ、ISとの戦いに集中する方針だった。
- 選挙後=シリア軍(つまりアサド政権の)基地をミサイル攻撃し、世界を驚かせた。
●中国
- 選挙戦中=中国は、アメリカ最大の脅威と認識。選挙後の2016年12月、台湾の蔡総統と電話会談し、中国を驚愕させた。
- 選挙後=「私は、習近平が大好きだ!」と公言。台湾総統との電話会談は、もうしない方針。
これらの「変節」。一つは、「トランプには大統領としての十分な知識や戦略がない」ことを示している。
一方で、「彼がしたいことをさせてもらえない」ことも示しています。誰が邪魔しているのでしょうか? いわゆる「抵抗勢力」でしょう。誰が抵抗勢力?
- 野党民主党(オバマ、ヒラリーもバリバリ活躍中)
- 共和党内の反ロシア派(数が多い)
- マスコミ(特にトランプから「フェイクニュース」と名指しで批判されたCNN、ABC、ニューヨーク・タイムズなど)
- グローバリズムを推進する国際金融資本
- CIAなど諜報機関
トランプに絶対権力があり、好きにできるなら、彼は金正恩とWIN-WINのディールができるかもしれない。しかし、トランプ自身が自由に動けない状態で、どんなディールがありえるでしょうか?