米国による「先制攻撃」が現実的にありえないシナリオである理由

 

トランプは先制攻撃に出ない(はずだ)

第1に、トランプ大統領は、何をするか分からない人物ではあるけれども、北朝鮮にいきなり先制攻撃をかけることは99.9%しないだろう。シリアにはいきなり巡航ミサイルを撃ち込んだではないかと言うかもしれないが、シリアには米国やその同盟国に報復的な反撃に出る手段がない。北朝鮮が同じ目に遭った場合は、目の前に在韓・在日米軍という敵がいて日常からそれに照準を定めて訓練を怠っていないので、確実に韓国や日本を巻き込んだ大戦争となる。

クリントン政権の時には、ペンタゴンが北朝鮮を焦土と化すかの過激な作戦を立案し、当時の在韓米軍司令官が、そんなことをすれば「3カ月で死傷者が米軍5万人、韓国軍50万人、韓国民間人の死者100万人以上」という試算を提出して、米政府が断念した(本誌No.887「北朝鮮危機は回避されていた。犬猿の米中が分かり合えた複雑な事情」既報)。この試算には、北朝鮮軍民のおそらく数百万の死者も、日本のおそらく数十万(で済むのかどうか)の死者もカウントされていないし、それよりも何よりも、94年当時の北朝鮮は核もミサイルも持っていなかったのであって、今では桁違いの被害となるのは火を見るより明らかである。

そういう大惨事になるのは、コーエンが言うとおり、米国が予めすべての破壊すべき目標を把握出来ているかどうかは極めて疑わしいし、また仮に把握できていてもその全てを最初の攻撃で壊滅させることはまず不可能だからである。加えて、北のミサイルは移動式発射台を用いるようになっているので、ますます把握が難しい。従って、どれほど激しい先制攻撃をかけたとしても、何らかの程度の反撃能力が残ることは確実で、北はそのありったけを動員して韓国と日本(の主として米軍基地)に降り注ぐだろう。

そのため、米軍が先制攻撃をかけて北朝鮮の政治中枢、軍事機構、核関連施設を一挙全滅させるというのは、94年当時よりも今の方が遥かに難しく、現実には成り立たないシナリオなのである。

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