米国による「先制攻撃」が現実的にありえないシナリオである理由

 

「圧力」には表も裏もそのまた裏も……

第3に、「圧力」である。これには3次元があって、1つには、いま検討したように、軍事攻撃という解決策はありえないのだが、戦争にならないように気を付けながらその瀬戸際まで軍事的圧力を加えるという古典的な方策がある。

しかしこれはなかなか危険で、こちらとしては警告、抑止、威嚇のつもりでも相手がそう受け止めて同じレベルで駆け引きゲームに乗ってくるかどうかは確証がない。だから、トランプ政権が日本海に空母艦隊を徘徊させるのも、安倍政権がそれと共同訓練だとか言って海自艦艇をちょろちょろさせるのも、無思慮の極みなのである。安倍首相がやっていることは、「もし米軍が先制攻撃に出る時には日本自衛隊も助っ人に加わるのだぞ。お前ら、覚悟しろよ」と、米国の大きな背中に半分隠れながら相手に口先だけで悪態をついている弱虫男という風情で、結果的に相手は「おう、そうか。ならば在日米軍基地だけでなく自衛隊基地も攻撃目標に追加しようじゃないか」と思わせているだけなのだ。

2つには、オーソドックスな経済政策という圧力で、これは今までのようなやり方では効果がなく、そうかといって本当に効果が出るように絞り込むと北が暴発しかねず、ではその限界はどのあたりなのかと言っても誰も分からない。

そこでその裏には、3つ目として政治的恫喝という手があって、中国は北の政治指導部や軍幹部の中に親中派を培っていて、そのコネクションを通じて金正恩除去の宮廷クーデターを仕掛けるというシナリオがある。

金正恩除去という目的のためであれば、米空軍によるピンポイント爆撃による爆殺(イラクやリビアで試みて失敗)、米特殊部隊による突入・暗殺(在パキスタンのビンラーディンでは成功)という手もあるけれども、対北朝鮮では、仮に金暗殺に成功したとしても、予めプログラムされている死に物狂いの反撃・報復作戦が発動されるのを防ぐことが出来ない。従って、米国の手で金を取り除くのは無理で、中国が陰で糸を引いて北の内部で静かに首を掻く以外に方法がない。

もちろん金正恩はそのことを知っていて、だからこそ張成沢~金正男の親中派ラインを抹殺した。しかし中国はまだそのシナリオの改訂版を用意していると言われ、それは「俺にこんなことまでやらせるなよ」という金に対する習近平の脅迫的な政治的メッセージとなっている。

軍事的圧力も経済的圧力も、どこまでやれば効果があり、それ以上やれば危険だという測定がまことに難しく、やたらに強めればいいというものではない。それで、中国が「俺にこんなことまでやらせるなよ」と凄んで脅し上げるという奥の手がある。もちろん、それが迫力を持つには、本当にそれを成し遂げるだけのシナリオとその達成能力が用意されていなければならないが、私の推測では、中国にはそれだけの用意があり、それを習金平はトランプに説明し、だから米国が先制攻撃に出るといった愚挙を避けるべきだと説得したのだと思う。

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