米国による「先制攻撃」が現実的にありえないシナリオである理由

 

金正恩が先制攻撃に出る可能性は?

第2に、金正恩が先制攻撃に出る可能性はあるだろうか。私の意見では99.9%ない

北朝鮮が飲まず食わずの状態に耐えて何としても核とミサイルの開発を最優先しているのは、気が狂っているのではなくて、そうしないと米国による核恫喝に抗して国家として生き残ることが出来ないと思い込んでいるからである。

ほとんどの日本人の皆様には信じられないことであるかもしれないのだが、北朝鮮は、朝鮮戦争最中の1951年、戦線膠着を打開するためマッカーサー司令官が中国軍の補給路を断つための戦術核兵器の使用を進言してトルーマン大統領と対立、解任された事件以来、「米国というのはイザとなれば平気で核兵器を使う国なんだ」「その米国と我が国は『休戦』しているだけで、いつまた戦闘が再開されるかもしれないのだ」という恐怖感に苛まれたまま、戦時態勢を解かずにこの3分の2世紀を生きてきたのである。

その米国の核攻撃を防ぐには、

  1. せめてソウルと在韓米軍基地を撃てる火砲数千門を並べ
  2. 東京と在日米軍基地、さらにグアム、ハワイに届く短・中距離ミサイルを備え
  3. 出来うるならば直接米本土を狙える大陸間弾道弾を開発して自ら保有するしかない

──と思い詰めてきた。だから、簡単な話、38度線の休戦協定が恒久的な平和協定に置き換わって、相互軍縮と信頼醸成のプロセスが始まって、それと並行して米朝国交正常化の交渉も始まり、やがて在韓・在日の米軍基地の縮小も始まるということになれば、北朝鮮がそれでもなお核・ミサイルを開発し続けなければならない理由が存在しなくなる。原因を取り除けば結果は自ずと消滅するというこれは極めてロジカルな話なのである。

余談ながら、イランに核開発の野望を捨てさせるは、米欧がイスラエルの核武装を解除すればいいのである。米国はイランの宗教的指導者や北朝鮮の独裁者が血に飢えた狂人であるかに言い立てるが、そうさせているのは直接間接に自分自身の力任せの政策であることを伏せているので、相手を狂人に仕立てないと話の辻褄が合わなくなるだけのことなのだ。

というわけで、北朝鮮の目標は、当たり前のことながら、金自身とその国家及び人民の生き残りなのであるから、何もない時に自分の方から韓国や日本に対して先制攻撃するという自殺行為に出る可能性は絶無である。

しかし、気を付けなければいけない2つのケースがあって、1つは、コーエンが言うように、経済制裁を逃げ道のないやり方で強化して締め上げるばかりだと、窮鼠猫を噛むことになって暴発する。中国はそこを慎重に量りながら、石油供給を減らすのか止めるのか、航空燃料だけ先に減らすのか──等々、考えているようである。

もう1つは、偶発的な接触から戦争になるケースで、例えば今のように日本海に米空母機動部隊が出張って行って、安倍政権が調子に乗って海自との共同訓練だなどとハシャギ回っているうちに、北の潜水艦が偵察のため接近してきたのを米側が誤解して撃ってしまい、北は戦争開始と判断してありったけのミサイルを米空母に撃ち込むといったことが、いくらでも起こりうる。米朝間には軍同士の緊急時の海空連絡メカニズムは築かれていないから、これに歯止めをかける方法がない。

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