低価格でおしゃれな家具のテーマパーク「IKEA」は何が違うのか?

 

世界最大の家具チェーン~世界遺産にも家具納入?

安さの秘密の一端は売り場にあると言う。平原美保さんは新店舗開業のために買い出しにきた。「施工会社さんに『作ると高くなる。イケアで買えば安くすみますよ』と言われて」と言う。

例えばタオル・ハンガー。施工会社にお任せで付けてもらうと3万円かかると言われた。しかしイケアで買って自分で付ければ2999円と10分の1で済む。

額縁のコーナーではスマートフォンで値札の下の「列が8、棚が43」という番号を撮影。番号を確認したところで次に向かうのはセルフサービスエリアだ。家具類はここでピックアップし、レジまで自分で運ぶ。平原さんは「8列の43棚」でお目当ての額縁をゲットした。セルフサービスは世界共通人件費を抑え低価格の実現に一役買っている。

東京都中央区にある平原さんのペットサロン「ヒップスター☆ドッグ」。店内にはイケアの椅子やテーブルが。今回、家具や雑貨など90点をイケアで購入。総額は22万円で済んだという。

財布にも優しい家具のテーマパーク、イケア。 今や世界28カ国に進出し年間売り上げは4兆円に達する世界最大の家具チェーンなのだ。国内に展開するのは8店舗だけだが、その年商は767億円。1店舗あたりの売上は驚異的な額になる。

イケア・ジャパンの本社は、船橋の店舗の屋上にある。アメリカ、スペイン……外資系企業だけに外国人社員も多い。近くのデスクにいたのがスウェーデン出身のイケア・ジャパン社長ヘレン・フォン・ライスだ。「普段から他のスタッフと一緒にいた方が、いざと言う時、重要なことも早く決められるし効率よく動けるんです。部屋が必要なら会議室を取ればいいでしょ?」と言う。

ヘレンがイケア・ジャパンの社長に就任したのは去年8月。それから新たなビジネスも展開しているという。

そのひとつが京都にある世界遺産の醍醐寺で行われていた。イケアのスタッフは家具を組み立て境内の建物に運び込んだ。そこは普段、長椅子が並べられただけの休憩室だが、今回、カフェに変身させるべく醍醐寺がイケアに依頼してきたのだ。イケアに頼んだ理由は、その理念に共感したからだと言う。

「デザインもシンプルで飽きがこないということもありますが、価値をしっかり継続して使っていくということは、まさしくお寺がずっとやってきたことと同じ。そういう価値観を理解していただける会社だと思いました」(醍醐寺の仲田順英さん)

イケアは今、家具を販売するだけでなく、こうした丸ごとコーディネートするビジネスにも力を入れている。設営は1日がかりで完了。カフェのオープン当日、長椅子しかなかった部屋は居心地の良さそうな空間に変わっていた。ゆったりした椅子でくつろぎ、しだれ桜を満喫する姿が見られた。

bnr_720-140_161104

イケアの総本山に潜入!~低価格の秘密とは?

低価格を武器に日本で熱烈ファンを獲得したイケア。しかし、過去には挫折も経験していた。

1974年、イケアは日本の家具販売会社と業務提携。81年には千葉の南船橋に巨大店舗をオープンさせた。広い売り場でセルフサービス。すでに今のスタイルだったが、この時は売り上げ目標を達成することができずじまい。わずか5年で日本からの撤退を余儀なくされていた。

再上陸を果たしたのは、20年後の2006年。人工スキー場「ザウス」の跡地に日本1号店をオープン。今度はイケアの直営店。独自の運営を徹底した。

「日本の人たちは、美しくて快適な家に住むことを求めています。私たちはそんなニーズを掴むところから始めたんです」(ヘレン)

お客のニーズを掴もうと始めたのは、足を使ったリサーチ。一般家庭での聞き取り調査だ。現在も年間200軒以上の家を回り、具体的な問題やニーズをリサーチし、結果を販売に生かしている。

スウェーデンの首都ストックホルムから電車でおよそ3時間。そこにイケアの故郷エルムフルトがある。人口1万6000人。町のいたるところにイケアの関連施設がある。 

その一つが「イケア・インダストリー」。イケア最大のこの工場に今回、初めてカメラが入ることを許された。

工場の内部は音がするばかりで人影もない。奥に進むと巨大なアームが現れた。板に溝を彫っているのだ。板は次のラインへ。すると白くペンキが塗られ、溝の部分にはガラスがはまっていた。これは食器棚の扉のパーツだった。ここでは1時間に600枚の扉を作っているという。

イケアは世界各国に向け、同じ商品を大量に製造している。このスケールメリットこそ低価格を実現する要だ。

最後に梱包。ここにも安さの秘密があった。フラットパックという薄い箱詰めにすることで、大量の商品を一度に運ぶことができる。これには商品管理でもメリットが。物流センターを覗いてみると、とんでもない長さの倉庫にフラットパックの商品がギッシリ。フラットパックが物流面でコストダウンの大きな武器となっているのだ。

print
いま読まれてます

  • 低価格でおしゃれな家具のテーマパーク「IKEA」は何が違うのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け