低価格でおしゃれな家具のテーマパーク「IKEA」は何が違うのか?

 

伝説のデザイナーが語る「イケアの掟」

去年オープンした「イケア・ミュージアム」。創業から74年、イケアの歴史を彩ってきた家具の数々が展示されている。そこに掲げられていたのは、創業者イングヴァル・カンプラード氏の写真。91歳の今も健在だ。

カンプラード氏は1926年、エルムフルト近郊の貧しい農村に生まれ、小さな頃から働いていたという。商才に長け17歳でイケアを創業。一代で世界最大の家具チェーンを築き上げた。イケアを世界企業に押し上げた原動力はカンプラードが打ち出した理念だ。

「作業デスクを作るのに300マルクかけていいなら、どんなデザイナーでもできる」

「200マルクでデザインしろと言われたら相当な知恵と経験が必要だ」

洗練されたデザインと低価格の両立この理念の徹底こそイケアが世界に躍進した秘密だ。

それを象徴する商品がある。発売から40年を超えて売れ続ける「ポエング」という名前のイスだ。特徴は、身体のラインに沿って曲げられた弾力性のあるフレーム。実際に座ってみると、ユラユラ揺れてリラックスできる。いろいろなタイプがあるが、最も手頃なものは6990円で買える。

世界で累計3000万脚以上を売った大ヒット商品だが、実はこのポエングの生みの親は日本人デザイナーだった。伝説のイスをデザインしたのは、札幌の郊外で暮らしている中村曻さん(79)。今も現役のデザイナーで、イケアには1973年から5年間勤めた。

スウェーデンへは家具の勉強のため、31歳で渡った。そこでイケアからスカウトされる。入社した中村さんは、創業者のカンプラード氏にイケアの掟を叩き込まれたと言う。

「どの価格体系が上限かという設定がある。その価格を超えたらイケアの商品じゃないという上限設定があるんです」(中村さん)

実は大ヒットしたポエングも、価格設定で「ダメ出し」を受けていた。しかし中村さんは諦めなかった。材料を開発する部署に協力してもらいコストダウンを実現。「ポエング」の商品化にこぎつけたのだ。

創業者が掲げた「すぐれたデザインと低価格の両立」。その理念が今も世界中で客の心を掴み続けている。

99%が正社員~イケアの働き方改革

ベッド売り場を受け持つ岸谷美穂(31)は、マットレスの寝心地を体感してもらう接客をしていた。お客があちこちで気兼ねなく寝転べるのも、岸谷がうまく誘導しているからだ。

岸谷は4年前に働き始めた時はパートタイマーだったが、3年前、正社員に登用された。

「正社員だから責任のある仕事をどんどん与えてもらえ、すごくやりがいがあると思います」(岸谷)

イケアは2014年からパートタイマーやアルバイトが希望すれば正社員として採用する制度を導入。現在はなんと99%が正社員だ。正社員は2種類。フルタイムで働く正社員労働時間を自分の都合で選べる短時間正社員。社会保険や福利厚生などは同じように受けられる。岸谷は短時間正社員を選んだ。

さらに羨ましいことが。午後3時、岸谷が向かった先はバックヤードにある社員食堂だ。基本はビュッフェ・スタイル。トマトとアボカドのサラダにホタテのクリーム煮、サンマの甘酢あんかけ……と、美味しそうな料理が目白押し。これらが370円で取り放題だ。だが岸谷はスペシャルメニューを注文。ボリューム満点のチキンステーキ。こちらはマッシュポテトもたっぷりで500円。

こうした正社員化や福利厚生の充実によって、イケアはキャリアを積んできた子育てママを職場に定着させた。

午後8時。仕事が終わった岸谷は屋上へ。待っていたのは一人息子の勇輝君。そこはイケアの従業員なら誰でも利用できる社員用の託児所だった。

「イケアで育児と仕事の両立ができるのは託児所があるから。勤務を終えてすぐに迎えに行けますから」と、岸谷。だから子育てママも思いきり働けるというわけだ。

そんな働き方を含めて、「今、北欧流の価値観が世界の主流になりつつあるのではないか」と問う村上龍に、スタジオでヘレンはこう答えている。

「そうかもしれません。世界中の若者たちが今、人生の価値観を探しています。『人生は何のためにあるのか?』『どういう人生を送ればいいのか?』。イケアもそんな問いから生まれました。イケアの真の目的は普通の人たちの暮らしを豊かにすることです。そこに共感する人が増えているんだと思います」

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