日本の地方都市にある商店街は、跡継ぎがいない、街の過疎化、不動産などが主な収入源になり商売を辞める店が増えるなど、様々な事情によってシャッター通りになりつつあるのが現状です。メルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』の著者で中部大学教授・武田邦彦先生は、自身のメルマガで廃れた商店街を活性化させるための画期的な試みで成功している企業を紹介しています。
廃れた商店街の電器屋が活気を取り戻した理由
かつて日本の社会というのは、都会では「民家と商店街」でできていました。地方でも基本的には同じで、「民家と商店街」の外に田畑が広く拡がっていました。
しかし、郊外に大きな量販店やスーパーができ、家には大型冷蔵庫が備えられるようになって、みんなが車で買いに行くようになり、その時代の変化について行けずに駐車場も作れなかった家の近くの商店街は寂れ、いわゆるシャッター通りとなってしまい、あんなに活気があって明るい街だったのに、それが暗いところに変貌してしまったのです。
このような流れはもう変わらないと考えられていました。家にある冷蔵庫はさらに大きくなり、400リットル、500リットルは普通になり、冷凍庫の容積も大きくなりました。ほとんどの家が車を持ち、誰もが免許証をとって、車を運転できるようになっています。今さら付近の商店街に買いに行く社会には戻らないし、第一、値段は高い、品物は少ないのですから、一度、大型スーパーや量販店の味を知った日本人が商店街に戻ることはないと考えられていました。
ところが、人間の知恵とは素晴らしいものです。それが根本的にひっくり返る可能性が出てきたのです。
具体的な会社の名前を出すのもあれとは思いますが、まだその会社しか本格的にビジネスをやっていないので、抽象的に書くより具体名の方が良いと思い、コスモスベリーズという社名を出した上で、この画期的な試みをご説明します。
長く松下電器(ナショナル、今ではパナソニック)の営業の責任者をやっていた方が、かつて自分が松下電器で活躍していた頃、街の電気屋さんが次々と潰れていくのを見るに見かねて、なんとかできないかと考え、量販店のヤマダ電機の経営者と相談をしました。
そして、画期的な方法で合意したのです。街の電器屋さんが電化製品を売るときに、値段をヤマダ電機と同じに設定して電器屋さんに卸すのです。
お客さんにしてみれば買値がヤマダ電機を同じで、近くの電器屋さんで買える。しかも、取り付け、サービス、故障の修理をしてくれるのですから万々歳です。
つまり、松下電器を定年退職した人は昔のご恩を返すことができ、ヤマダ電機は店舗が増えたことになり、街の電器屋さんは潰れることが無くなり、さらにお客さんは近くの便利な電器屋さんを利用できるという四方満足ということになったのです。
お年寄りだけでなく、若者にとっても便利になる街の電器屋さん
人間の知恵とはすごいものですね。シャッター通りを前にして考えても、「もう昔のようには戻らないだろう。お年寄りで車を持っていない人はどうなるのだろう?」と悲観的な事ばかりを考えてしまいますが、実にそれを覆すスーパーアイデアがあったのです。
実際に、コスモスベリーズに入っている個人の電器屋さんと話したり、私もエアコンを買ったりしてお世話になっているのですが、実にかゆいところに手が届くと言うか、量販店の店頭に行っても分からないところや、ましてスマホで注文するよりズッと良いものが買えるのです。
私は男性で物理が専門ですから電気のことは詳しいので、ある程度の商品を選ぶことができますが、ご年配で、お金もそれほど持っていない、余計なものは買いたくないという方にはとても良いそうです。何しろ近くの電気屋さんですから、「あそこはダメだ」という評判が立ったら終わりです。本当に親身になって相談に乗ってくれるようですし、ご年配の方が冷蔵庫などを買われるときには必ず「これが最後の冷蔵庫ね」と言われるそうです。そういうときに雑談をして励ましたり、昔話を聞いたりするそうで、本当に立派です。
また、一口に家電製品といっても、昔の掃除機や扇風機、トースターなどとは進化してまったく違うものが売られています。でも、ご年配の方は昔あったものしか思い浮かばないのですが、そこを電器店の人が「最近はこんなものがありますよ」と説明するそうです。
それこそ「お客さんのためのご商売」という感じがします。
街の電器屋さんが復活して、ご年配の人だけが助かるかというと、そうでもありません。最近は、若い人でも電気や機械が分らなかったり、女性で一人で住んでいる人が多く、取り付けやちょっとした不具合でも困ります。そんな時、正式な修理を依頼するのもと思いますが、街の電器屋さんならちょっと帰りがけによって話をすれば、場合によっては自分で直せますし、すぐ来てもらうこともできます。
まだ、この画期的システムは電化製品やリフォームに限られていますが、そのうち洋服、靴などからさらに生鮮食料品まで増えるでしょう。つまり量販店やモールなどが全盛の時代ですが、まもなくまた街の商店街に回帰する時代が来ると思います。
これまで日本の発展は歪んでいて、発展するほど不便になるという傾向がありましたが、これからは歪みがなくなって「発展して楽しい街」に変わっていくでしょう。