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水害現場の判断を狂わせるマスコミ報道が、日本国民の命を奪う

首都圏が洪水に襲われた場合、どのような事態になるのかシミュレーションした先日掲載の記事「もしも東京で大水害が起きたら…地下鉄から始まる『水没』の恐怖」。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんがその続編として、二人のスペシャリストがシンポジウムで語った「日本の水害救助の実態」の裏側を紹介しています。

水害から命を守るには指揮命令系統の見直しが急務

こんにちは! 廣田信子です。

地域マネジメント学会シンポジウム報告の続きです。

パネルディスカッションで山田正教授、土屋信行氏の話は続きます。


2015年9月の鬼怒川決壊のときのこと、常総市には、30回以上も早く避難指示を出さないと危ないと情報を伝えたが動いてくれなかった

救助もマスコミ報道の影響を受けた。たとえば、スーパーの屋上に避難している人たちの映像をマスコミが繰り返し流すので、優先的にヘリで助けざるを得なかった。しかし、スーパーは最高の避難所、鉄筋コンクリートの2階建て、2階は水も来ていない。売り場には水も食料もある。もっと先に救助しなければならない人がいたはず。マスコミ報道と、マスコミ報道のみに反応する人たちの声が現場の判断を狂わすようなことがあってはならない

水害対策は、2つの時間スケールで考える必要がある。長いスパンでは、将来のために水害に強い国土を造っていくことが欠かせない。ハードの整備はお金がかかるから、それをソフトで補おうというような傾向があるが根本的な問題解決にはならない。ソフト面では、地元のことをよく学ぶ防災教育が不可欠

短いスケールでは、非常時の指揮命令系統を作り直さなければダメ。戦後、軍隊的なことを否定したために、今の日本は、誰も権限を持って命令できない。海外では、危機宣言が発せられると大統領の権限は無限大になる。そうしないと、助けられる命も救えない。自然災害から生命を守るのは国防と同じ。そのことに長けた危機管理官が地方公共団体にも必要。役所の一般職員に緊急時の対応を必要以上に期待しても無理。熊本地震でも、物資の輸送は自衛隊、その物資を各地域への運ぶのは、地域を知りつくしたヤマト運輸佐川急便が担った。

東日本大震災時、危機管理官をしていた(土屋氏)。すぐ対策室を立ち上げ、現場は対応に追われたが、東京都も国も情報をくれ情報をくれと言ってくる。しかし、現場はそれどころじゃない。まず、報告より現場の対応が重要。情報にタイムラグが生じるのは当たり前。

災害の度に言われることだが、熊本地震でも受援体制ができていなかった。数千人がボランティアに入ったが受け入れ態勢ができていなかった。社会福祉協議会が仲立ちをすることになっていたが、助けを必要とする人の情報が集められていない。それによって、6日間現地にいても何もできなかったというボランティアもいる。

ボランティアの半分はやることがないのに、現場には助けてくださいと言う人がたくさんいるという状況。その状況をボランティアのグループが見かねて、社会福祉協議会にはやめてくれと言われたが、熊本駅に自らが仲立ちためのテーブルを出してボランティアをさばいていた。それぞれ得意不得意がある。得意な人に仕切りを任せることも必要

地球温暖化の原因については、二酸化炭素、太陽黒点等いろいろ言われるが、環境省が今情報をまとめている。しかし、気象データは過去140年分しかない。長いスパンの地球の歴史の中で140年しかデータがないということ。確かに、高度成長、バブルのころまでは自然災害が少なかった。最近、急に自然災害が増えたように感じるが、長いスパンで見ると、江戸時代以前にも大きな自然災害があった。

地球温暖化による雨量の増加については世界各国がすでに織り込み済み。国が動かないのは、日本だけ。すでに温暖化が急速に日本でも進んでいる

北アルプスから雪が消えている。

水防の担い手もどんどん減っている。洪水の心配があるときに、川の水位や堤防の状況を見ているのは誰か。利根川は両岸で600kmある。役所の人間だけでできるはずがない。これを担っているのは、地元の中小建設会社、測量会社の作業員。その会社が減り、作業員も減っている。防災をちゃんとしようと思ったら安定的な土木作業員と重機が必要。一旦なくしてしまうともう戻ってこない。また、消防団は総務省の管轄で退職金が出るが、水防団は国交省の管轄で退職金も出ないので、なり手がいない。

現場の最前線で動ける人がどんどん減っている。現在、地方公共団体の半分以上は事務官しかいない土木も電気も専門家がいない。アウトソーシングするしかない状況で非常時に対応できない。自治体連合会という形で必要な人材を確保するしかない。


地震対策に比べればあまり目に見えにくい水害対策ですが、シンポジウムでのやり取りは、たいへん勉強になりました。まとまっていませんが、忘れないように記録しておきたいと思います。

気象変動のスピードを思うと、いつ起こっても不思議ではないという危険度は地震と変わらないと感じました。20年後、30年後、私たちは、どんな日本を見ているのでしょうか…。

 

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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