稲作に不向きな日本を、世界の「コメどころ」に変えた先人たち

 

雑草取りの苦行

東南アジアの天水田と、日本の灌漑田では稲の品種も異なる。天水田では主にインディカ米が作られている。これは場合によっては2メートルもの背丈を持ち、深い湿地帯や沼でも容易に育つ。

日本で作られているのは、丈の短いジャポニカ米である。人工の灌漑田ではそれほど深くできないので、背の低い方が適している。

インディカ米は丈が高いので、周囲に雑草が生えても、陽光が遮られて、生育が邪魔されるということはない。ジャポニカ米は丈が短いので、雑草に太陽を遮られて衰弱枯死してしまう。そのために、人間による雑草取りが欠かせない

伊勢神宮には毎朝毎夕、神様にお供えするコメを昔ながらの自然農法で育てている約3ヘクタール(3町)ほどの神田(しんでん)がある。新田の管理責任者・森普(すすむ)氏によれば、育てたばかりの苗を田植えした際には、ちょっとした雑草でも弱々しい稲の栄養を奪ってしまうので、怠りなく草取りをしなくれはならない、という。森氏は言う。

苗が30センチくらいになるまでに、一枚の田圃(たんぼ)で3回は草取りをせんといかんわけですが、田圃の中を這いながら草取りをしていると、苗が目にささって痛いんですよ。昔は、この時期になると、よく目医者が流行ったものです。まさに汗と涙の結晶でした。
(同上)

10月に入って、収穫が終わると、田を深く掘り超して、稲を育む土に新鮮な空気と陽光を吸収させるが、これが同時に雑草を除くことにもなる。この耕耘(こううん)という作業を4、5回繰り返す。我々の先祖は、こういう作業を数千年、続けてきたのである。

知恵をしぼって手間をかければそれだけ収穫が上がる

耕耘の際には、土に栄養となる肥料を施す。今は化学肥料だが、戦前までは鰊粕(にしんかす)や大豆粕(だいずかす)が使われていた。

ジャポニカ米は、肥料を施すことで、一株の稲の茎の数がいちじるしく増え、コメの増収につながる。しかしインディカ米の方は背丈だけが高く伸びて倒れてしまう。インディカ米は肥料をやらない方が、むしろ収量が安定する。

田植えにしても、ジャポニカ米は一定間隔を置いて稲を植えると適度に栄養を吸収して収穫量が上がるが、インディカ米にはそういう性質がない。

伊勢神宮の別宮である伊雑宮(いぞうぐう)の作長(さくちょう)である別所保氏は、こう語る。

コメ作りというのは、知恵をしぼって手間をかければそれだけ収穫が上がり、手を抜けばその分だけ収穫量が減る。台風のような天災は別として、人間の努力にたいして正直な結果で報いてくれる。
(同上)

これはジャポニカ米について言えることで、インディカ米では適当に種をまいて、後は自然天然にまかせて収穫を待つ、という形となる。

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