「仮想通貨は危険だ」というなら、紙幣が安全な根拠はどこにある?

 

本当に「危険」なのはデジタルコインか金融市場か──「1BTC=1,000万円」への壁

残念なことに、社会はデジタルコインの投機性を強調する人の声の方が届きやすい。コインの存在を煙たがり、通貨とそれに準ずる既得権を温存したいメンバーが各国の運営に深く携わっているからだ。

しかし、時価総額20兆円規模(9月2日)にまで成長した市場を暗に投機の場、犯罪の温床と印象付けるには大きな無理がある。日本を含む世界中のメジャーな銀行が、独自または共同コインの開発に躍起になっているのも、投機商品を市場に送り出したいからでないことは明らかだ。

中央権威の不在を理由にしたコインの犯罪利用も取り沙汰されるが、それは紙幣の犯罪利用に比べれば極めて稀なケースである。古今東西、詐欺のほとんどはカネを巡ってのことであり、それは強大な権威の存在と、厳格な法規制の下で起こっている。

一方で、政界や裏社会における紙幣の犯罪利用は一向になくならない。当局がその根絶を目指す様子もない。コインは「危険、犯罪の温床」とする論者もまた、「紙幣は安全」だとする理論を示していない。

同じく、中央集権的な権威当局が目を光らせているはずの証券市場においても、その真意を問いたくなる上場(金集め)が数多く存在する。

例えば、投資銀行や取引所が「広く一般に資金調達を行うに値する企業」と、一定のお墨付きを与えているにもかかわらず、長期に渡って公募価格を下回って推移する銘柄が数多く存在する。上場初年度や翌年に突如、赤字転落する企業さえ出現している。無配や「微配」で何年もやり過ごす上場企業が無数にある。そして世界中で、ナショナルブランド、トップ企業までもが株主や社会を欺く不正行為に手を染め、株価暴落を招くという信じられない事件が相次いでいる──。

コインの上場(ICO)では、企業は目論見書に似た役割のホワイトペーパーによって、自社コインの特徴や技術論文上場の目的や意義などを投資家向けに公開している。新通貨の流通開始と、新興企業の資金調達を併せ持ったような機能を持つICOはまさにフィンテックの真髄である。

フィアットマネーが国家に特化した通貨であるのに対し、国境知らずのコインは分野に特化した通貨であると見ることもできる。ビットコインなどの初期のコインは、フィアットマネーの不便さと理不尽さを補おうと出現したが、直近ではそうしたことに加え、様々な分野やテクノロジーに特化したコインが増えている。多くのコインに共通していることは「ディ・セントラライズド」であり、メンテチームはいても、コインの価値を調整したり、利子を課す権威を持たないことである。

もちろん、こうしたことだけでコインへの投資が安全、公正と言うわけではないが、投資家は初期の段階(コイン価が低位にある段階)で資金を投入できるため、ある意味、株式より「安全」との見方も成立する。上場後、数年のうちに、コイン価が数倍~数十倍へと上昇するケースも数多くある。それだけでも、現在の株式投資以上にリスクを取る価値があると言えるかもしれない(但し、ICOに参加せず、上場直後に飛び乗るはタブー)。

投資マネーが向かう先には、あらゆる形で弱者搾取が存在する。今後とも上場ブームに乗じた怪しいコインや一部の取扱い業者の行き過ぎた振る舞いには十分注意が必要なのは事実である。また、コインが一つの資産クラスとして社会に浸透するまでは、高ボラティリティな環境も避けられそうにない。

しかし、だからと言って、それを「中央権威不在ゆえ」といった議論にすり替えるべきではない。真に投資家保護を目的とした規制は理に適うが、それを中央集権組織に任せる必要はない。世界中、どの市場においても、価格操作またはそれに準じた行為は存在するし、また詐欺、犯罪利用は社会問題であって、通貨の権威不在や中央統制の有無が問題なのではない──。

2017年に入り、ビットコインの価格は1トロイオンスの金価を超え、5月にはその2倍に達し、現在も3倍を超える価格で取引されている。「資産」として捉えれる面もあり、デジタル・ゴールドとも呼ばれるビットコインの可能性を考えれば、「1BTC=1,000千万円」も夢物語ではない。

しかし、過去の投稿でも述べたように、そこへの到達には、主要国のフィアット通貨や証券市場への挑戦という高い壁が立ちはだかっている。言わずとも、通貨発行権は地上最大の権威である。よって、権威の影響力が及ばないタイプのコインが、その洗礼を受け続けることはこの先避けられそうにない。イノベーションや新ビジネスへの適応には柔軟な米国さえも、こと金融に至っては他国同様、またはそれ以上に非常に厳格な姿勢を貫いている。

世界に先駆けて一早くビットコインを貨幣認定したことで知られる日本もまた、その背景には、やはり先回りして、通貨としての規制や監視体制、課税等の基盤固めなど、国家権威を保全したい狙いがありそうである。

冒頭で述べたように、各国の金融・証券当局はコインの規制に本腰を入れ始めている。この先も「投資家保護」と称する様々な規制が敷かれていくことは間違いない。しかし、人々には選択肢があってしかるべきである。フィアットマネーに限った経済活動を全うするのか、コインとの併用か、またコインだけを利用するのかは本来、個々の判断に委ねられるべきである。

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