「仮想通貨は危険だ」というなら、紙幣が安全な根拠はどこにある?

 

見逃せない一つのドル安要因

わずか数ヵ月ほど前まで、メディアは人民元安を報じていた。資本流出が止まらず、手持ちの米ドル、外貨準備を取り崩し、人民元を買い支えていると──。

しかし為替を見れば、事実はその反対であったことが確認できる。人民元は年初から対ドルで買い上げられていて、加えて最近になって中国による米債買い、米ドル買いが続いていたことも報じられている。手持ちの米ドルを取り崩すどころか、米ドルを買い支えていたことが伺える。それでもなお、年初からドル安が進行している背景には、中国ではない「誰かドルを大量に売っていたのでなくては辻褄が合わない。

その誰かの一人は、やはり今年に入って時価総額を10倍以上に膨らませているコイン市場である可能性が高い。人民元からコイン市場への資本移動は昨年から言われていたとおりであり、そのトレンドが世界でコイン投資を呼び起こし、中でも世界中に拡散している米ドルが一番大きな誘発を受けた可能性がある。そしてドルに限らず、円やウォン、ユーロ等、世界のフィアットマネーからの資本移動も起こっている。

そこで出てくる疑問は、そうした資本移動のトレンドが加速することはないのかということである。過去にそうしたことを何よりも恐れた通貨の権威は、米市民の金所有を禁じ(極少量は可)、紙幣から金への資本移動を食い止めようとした経緯がある。

しかし、グローバル化が進む現代、無数に存在する様々なタイプのコインを全面廃止することなど、もはや誰にもできない。多くのコインアダプターの目線の先にあるものは、フィアットマネーの信用失墜であり、度を超えた増発による通貨価値の低下=購買力低下に歯止めがかからず、いずれそれが加速度的に進行してしまうことを案じている。

現在の金融・不動産等の伝統的なマーケットは、主要国中銀が増発するマネーと、全世界の通貨発行量の数十倍とされる膨大なレバレッジドマネーによって支えられている。これは先の金融危機時、いわゆるレンダー・オブ・ラスト・リゾートが「禁じ手」に乗り出して以降、世界のメジャーな資産市場は、概ね「中銀が支える」という秩序に置き換わってしまったためだ。

集権組織が恣意に介入し、資本構造を支配してしまう今のマーケットの持続性に、いつの日か疑念の目が向けられれば、「取付け騒ぎ」が起こらないとも限らない。また、新規制で恐らく完全管理に向かうことが考えられる、コインを介したチャイナマネーの国外還流停止が、バブル状態にある世界のメジャーな資産市場に与える影響は軽微に留まるだろうか。

2年前、中銀を束ねる一組織、IMFが、SDRに人民元を取り込んだのは、市場の持続性を維持することが目的であったはずである。フィアットマネー経済の最終章」を引き延ばし、その間にイノベーションを伴う景気浮揚を目指すはずが、政治的な理由、既得権の主張等で加盟国間の強調が一向に進まず、またSDRの利用範囲にも広がりが見られず、目指した機能を担えていないかに映る。

もし水面下で事が順調に運んでいるなら、それほど悲観視する必要はないかもしれない。しかし、準備が整わない状態で仮に次の危機が訪れれば、それは至上最悪の事態へと陥りかねない。ラストリゾートは「ラスト」であり、次に下支えする媒体がないからである。

市場参加者の間では、相場の暴落を「ナイアガラの滝」に大量の水が落ち込む様子に例えることがあるが、ラストリゾートの分裂フィアットの信用失墜で向かう先はナイアガラの滝壺ではなく、メガリス(メガ・リソスフェア)の崩壊である──。

image by: Shutterstock.com

『グローバル時代、こんな見方も...』

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グローバル時代、必要なのは広く正しい世界観。そんな視点に立って私なりに見た今の日本の問題点を、日本らしさの復活を願い、滞在先の豪州より発していきたいと思います。

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