安倍首相も小池氏も。政治家が選挙戦で「国益」を語らない理由

 

国益とは何か?

次、行きます。私は、19歳でモスクワ国際関係大学に入るまで、「国益」という言葉を聞いたことがありませんでした。これはSさんがおっしゃっているように、かつては「右翼用語」「事実上の禁句」だったからでしょう。

ところが、モスクワ国際関係大学では、毎日毎日「国益」(ロシア語で、ナツィオナリニー・インテレス)の話を聞かされました。そう、ロシア外務省付属の大学では、毎日毎日「国益とはなんぞや?」という話をするのです。

ところで「国益」ってなんでしょう? シンプルに、「国の利益」のことです。では、「国の利益」とはなんでしょうか? これは、いろいろな国によって違うでしょう。

しかし、外交にかかわってくるのは、大きく二つです。一つは、「安全保障」です。これは、「国民の命を守ること」。命を守るための安全保障は、金儲け=経済より重要です。なぜ?

皆さん、自分の命とお金どっちが大事ですか? もちろん、命ですね。銀行員も、「命の次に大事なお金を預からせていただいております」と言うでしょう???

次が、金儲け=経済です。たとえば、日本が外国に新幹線を売るのは国益です。儲かりますから。たとえば、日本企業がある国で活動しやすいよう、その国の投資環境を整えてもらうことは、国益です。あるいは、日本製品が外国で売れるよう、外国の関税率をひきさげてもらうのは、国益です。

国益は、他にもいろいろあります。しかし、外交に関わる主なものは、この二つ。「安全」と「金儲け」。

今の日本の国益とは?

これは、人によっていろいろ考えが違うでしょう。しかし、「日本は、今どんな問題を抱えているのか?」を考えてみることから始めます。

まず、日本の安全を脅かしているのは、北朝鮮です。だから、北朝鮮に核兵器を放棄させることが日本の国益です。しかし、日本一国があ~だこ~だいっても、北は聞かない。それで日本は、アメリカと共に、国連安保理を通し、制裁を強化することで、北に圧力をかけています。

長期的に日本の安全を脅かしているのは、中国です。この国は2012年11月、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」構築を提案しました。

ちなみに中国は、ロ韓に、「アメリカも反日統一共同戦線に入れよう!」と呼びかけている。つまり、中国の対日戦略は、「アメリカ、ロシア、韓国で日本を孤立させ、尖閣・沖縄を奪うこと」。

対する日本の戦略は、「アメリカロシア韓国と良好な関係を築き中国の戦略を無力化させること」でしょう。これが、今の日本の「国益」です。安倍総理は、まさに国益を追求する外交をしている。

しかし、長いスパンでみれば、もっと視野を拡大することが必要になってきます。

日本にとって最重要の国が二つあります。一国目は、いうまでもなく、現在の同盟国アメリカ。二国目は、将来、アメリカ、中国に並ぶ大国になることが確実な親日国インドです。アメリカは衰退が著しいので、日本は、インドとの関係を深めていく必要がある。

次に重要な国は、ロシアとEUでしょう。日中戦争が起こったとき、ロシアが中国側につけば日本に勝ち目は1%もありません。それで、日本は、ロシアとの関係を強化し、結果として中ロを分断させる必要がある。

EUは、「国際世論」と「経済」で重要です。「人権先進地域」のEUは、国際世論をリードする立場にある。日中間で何か起こったときEUがどちらにつくかは非常に重要です。そして、EUは、世界GDPの2割強を占めている。日中間で問題が起こったとき、EUが日本側に立って、たとえば中国に制裁を課してくれるかは、非常に重要です。(クリミア併合後、EUは、ロシアに制裁を課している)。

次に重要なのは、東南アジア諸国、オーストラリアなど、「中国は脅威である」という認識を共有している国々です。日本は、

  1. アメリカ、インド
  2. ロシア、欧州
  3. 東南アジア、オーストラリア

という優先順位で、せっせと関係を強化していく。そして、中国が動けないようにしておく。これが、今の日本の国益です。

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