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もし離婚したら年金はどうなる? 「半分もらえる」の大間違い

3組に1組が離婚しているとも言われる日本。平成19年に設立された「年金分割制度」を離婚時に利用する人も増えているようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、非常に複雑でわかりにくい年金分割制度について、事例をあげながらわかりやすく解説しています。

元配偶者から年金分割されても思った以上に年金が増えなかったり、逆に不利益を被る事もある

離婚が増えて、平成19年4月に年金分割制度が設立され、せめて配偶者からの年金を分けてもらう離婚時年金分割がだんだん盛んになりましたけど、まあ…そんな期待したほど増えない事が多いんですよね。あくまで、分けてくれる配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分(過去の給与や賞与に比例する部分)ってところだけを分けるから。

計算自体は毎度複雑ですし、書くと普通に毛嫌いされる所ですから簡潔に書きます^^;。ちなみに国民年金から支給される老齢基礎年金は分割不可。基礎年金は個人単位で与えられた、最低限の保障だから。

というわけで事例。

ア.昭和21年4月25日生まれの夫(今71歳)

受給している老齢厚生年金(報酬比例部分)960,000円(月額80,000円)、老齢基礎年金680,000円。年金総額は1,640,000円

厚生年金期間は昭和51(1976)年4月から平成18(2006)年3月までの30年間。この30年で老齢厚生年金960,000円を算出しているものとします。

今の妻と結婚したのは、昭和58(1983)年4月から現在に至るが、平成29年12月に離婚する事になった。よって、昭和58(1983)年4月から平成18(2006)年3月までの23年間の厚生年金期間が分割対象。この23年間で夫の老齢厚生年金を算出すると840,000円(月額70,000円)とする。

婚姻期間前の厚生年金期間(昭和51年4月~昭和58年3月)で計算した老齢厚生年金は120,000円(月額10,000円)。つまり婚姻期間前120,000円+婚姻後の840,000円=960,000円が本来の老齢厚生年金

イ.昭和22年10月5日生まれの妻(今70歳)

受給している老齢厚生年金(報酬比例部分)は360,000円(月額30,000円)と老齢基礎年金500,000円と、65歳時に夫の配偶者加給年金から振替えられた振替加算98,692円(振替加算額はこの妻の生年月日による)。

加給年金額と振替加算額(日本年金機構)

年金総額は老齢厚生年金360,000円+老齢基礎年金500,000円+振替加算98,692円=958,692円。妻の厚生年金期間は15年分で計算しています。とりあえず昭和61(1986)年4月から平成13(2001)年3月までの15年間とします。

さて、昭和58年4月から平成18年3月までの23年間を分割しますが、分割はもちろん年金が多いほうから少ないほうに分ける。だから夫から妻に分ける。分ける場合は妻の老齢厚生年金月額30,000円から夫の老齢厚生年金70,000円の間で分ける。

ちなみに分割下限を数値で表すと、妻の老齢厚生年金30,000円を夫婦の婚姻期間中で計算した老齢厚生年金総額(30,000円+70,000円)で割る。30,000円÷100,000円=0.3になる。そうすると、下限は0.3になるのでこれを下限に上限50%(0.5)までの間で決めて分ける。妻の年金額を下回ってはいけないって事で下限を決めている。つまり、0.3<分ける割合(按分割合)≦0.5って事。ほとんどの人は0.5の半分で分けてます。分ける場合は50%を超えてはならない。元配偶者の生活保障もあるから、いくらでも分捕る事は出来ないって事です。

で、夫の23年分を半分こする場合は、夫の老齢厚生年金70,000円+妻の老齢厚生年金30,000円=100,000円(月額)を分ける。半分こだから100,000円×0.5=50,000円となる。

だから、夫は婚姻期間中の厚生年金期間で計算した70,000円から50,000円に下がり、夫の全体の厚生年金期間の老齢厚生年金額は婚姻前の期間で計算した老齢厚生年金月額10,000円と50,000円を合わせると60,000円(年額960,000円から720,000円に減る)になる。よって離婚分割後の夫の年金総額は老齢厚生年金720,000円+老齢基礎年金680,000円=1,400,000円まで減ってしまった。24万円減

一方、妻は老齢厚生年金月額30,000円から50,000円にアップした事により、老齢厚生年金年額は360,000円から600,000円にアップ! よって妻の離婚分割後の年金総額は老齢厚生年金600,000円+老齢基礎年金500,000円=1,100,000円となりました。離婚分割前より年額141,308円アップ(←1,100,000円-958,692円)。

あれ? 振替加算98,692円は? 振替加算は…消えました(笑)。

(または妻)から20年以上の厚生年金期間分、または自分の婚姻前の厚生年金期間と分けてもらった厚生年金期間分の年金が20年以上になると振替加算は消えてしまうのでこの辺は注意!

なお、夫から23年分の厚生年金期間が分けられてますが、妻の年金期間が増えたりはしないのでご注意ください。あくまで、婚姻期間中の厚生年金記録(給与額とか賞与額に関する保険料納付記録の部分)が分割対象となる。

ちなみに、離婚分割は原則としては離婚日の翌日から2年以内にやる必要があり、また、既に年金受給者の場合は離婚分割請求の翌月から分割後の年金額に変更。離婚調停や審判の申し立てにより、決定が長引いて2年を超えてしまっても、決定から1ヶ月以内なら離婚分割請求ができる

また、離婚分割後の年金がいくらかは手計算ではなかなかわからないので(膨大な過去の年金記録から算出するから)、年金事務所にて離婚分割の情報提供をまず請求しましょう^_^。情報提供は離婚前でもできる。50歳以上で既に年金受給資格期間10年以上を満たしている人には、見込み額を記載してもらう事もできます。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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