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売上減少のヤクルト、ネット販売進出でヤクルトレディはどうなる?

企業や個人宅にヤクルトを販売するヤクルトレディ。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では、ここ最近ヤクルトレディの人数・売上ともに減少傾向にあるという「ヤクルト」がネット販売に乗り出した背景と、知られざるヤクルトレディの歴史を紹介しています。

ヤクルトがネット販売を開始。ネットとヤクルトレディがコラボ販売

ヤクルト本社は、インターネット上で商品を注文できるサービス「ヤクルト届けてネット」を首都圏近郊エリアで先行開始しました。ヤクルトレディが送料無料で届けます

ヤクルトレディは通常、曜日ごとに決まったルートを巡回する形で、1週間分の商品をまとめて週に1度宅配します。手渡しか保冷ボックスへ届けます。支払いはその都度、もしくは1カ月分をまとめて行います。

近年は電子商取引が拡大していることもあり、「ネットで注文したい」「クレジットカードで支払いたい」という顧客の要望が多くなっているといいます。届けてネットサービスを導入することで、そういった顧客の要望に応えたい考えです。

また、都市部では共働き世帯や単身世帯が増えたことで家に誰もいないケースが増え、オートロックマンションが普及したこともあり、訪問営業が難しくなっています。そうしたなか、届けてネットサービスを導入することで、これまでヤクルトの宅配を利用したことがない人との接点を増やしたい考えです。

ヤクルト本社の営業不振が背景にありそうです。国内の飲料・食品製造販売事業の売上高はここ数年2000億円付近で横ばいで推移し、頭打ち状態が続いています。海外市場の開拓などで全体の売上高は上昇傾向にあるものの、国内市場が足を引っ張っている形です。国内市場が限界に達している状況です。

ヤクルトレディが減っていることも影響していると考えられます。2002年3月末時点では国内に約5万1,000人いましたが、その後は減少していき、17年3月末には約3万6,600人にまで減っています。15年で約1万4,400人も減少しました。

ヤクルトレディによる販売力も低下しています。17年3月期の国内におけるヤクルトレディによる販売チャネル別の販売構成比は乳飲料(数量ベース)が53.1%で、15年前の02年3月期比で9ポイント以上低下しています。ジュース・清涼飲料(金額ベース)は38.3%で5ポイント以上の低下です。ヤクルトレディの人数が減ったことが影響していると考えられます。相対的に店頭と自販機による販売の割合が高まりました。

ヤクルトレディの人数と販売力は低下しています。そうしたなか、届けてネットサービスを導入することで販売のテコ入れを図りたい考えです。

ところで、ヤクルトレディとはどのような存在なのでしょうか。ヤクルトレディの原点は1954年に高松で始まった「婦人販売店システム」です。それまでは、販売や配達は男性に依存していました。そうしたなか、広島で販売を担っていた野田一博氏が高松で販売を行うことになった際に、自身が学生だったため年上の男性は扱いづらいことから主婦を採用するようにしました。

これが上手くいきました。ヤクルトが求めた「地道に、辛抱づよく、まじめに、几帳面に」という条件を満たす人が家庭の主婦だったためです。また、顧客の多くが主婦ということもあり、同じ立場でコミュニケーションができます。そのため、家事の手を止めて話を聞いてくれる人が増えたといいます。

63年に本社方針として婦人販売店システムが公式にスタートしました。開始時は1万人弱がヤクルトレディとして働いていました。当初は「ヤクルトおばさん」と呼ばれ、83年ごろからヤクルトレディと呼ばれ始め、94年ごろにほぼ統一されたといいます。

ヤクルトレディは多くが雇用関係ではありません。個人事業主として販売手数料を得る形で働いています。販売できなければ収入が得られないため、必死で働かざるを得ません。そして、頑張った分だけ収入が上がるためモチベーションは高いといいます。

57年に初めて開催された「ヤクルト大会」もヤクルトレディのモチベーション向上につながっています。当初はヤクルトの普及に功績を残した営業所を都道府県単位で表彰するものでしたが、次第にヤクルトレディの表彰がメインイベントとなる大会に変わっていきました。現在は隔年で実施しています。

こうした施策が功を奏し、ヤクルトレディのモチベーションと販売力は向上していきました。69年3月から6月にかけてヤクルト本社がヤクルトレディの実態調査を行ったところ、平均年齢は37歳で、「仕事にやりがいを感じ、社会的にも意義があると感じ、良い収入源になる」と考える人が7割近くにも上ったといいます。

ヤクルトはヤクルトレディを通じて社会貢献も行なっています。ヤクルトレディが商品を届けながら独り暮らしの高齢者の安否確認をしたり話し相手になる社会貢献活動愛の訪問活動」を72年から開始しました。

誰にも看取られずに亡くなった独り暮らしの高齢者の話に心を痛めたとあるヤクルトレディが、自発的に受け持ち地域の独り暮らしの高齢者に自費でヤクルトを手渡しながら安否確認を始めたことに端を発します。

地域によっては自治体や警察と連携し、高齢者の見守りに加え、防犯パトロールなども行なっています。ヤクルトレディが地域の安全・安心の一翼を担っているのです。

また、ヤクルトは70年代から各地区において企業内保育を始めました。「ヤクルト保育所」として、現在は全国約1,200カ所で設けています。国の認可基準である「認可外保育施設指導監督基準」と「保育所保育指針」に加え、独自のマニュアル「ヤクルト保育所基準」による整備を行うことで、保育水準の向上に努めているといいます。

小さな子供がいるヤクルトレディが安心して働けるよう費用の一部をヤクルトが負担するため、保育料は全国平均で月額6,000円程度と低額です。一般の保育所に預けるとなると月額2~3万円程度はかかります。

現在、日本ではいわゆる待機児童問題が深刻です。厚生労働省の発表によると、17年4月1日時点の全国の待機児童の数は前年より約2,500人多い2万6,081人です。増加は3年連続となっています。そういった状況のなか、ヤクルト保育所は待機児童問題の解消に一役買っているとも言えるでしょう。

ヤクルトはヤクルトレディが働きやすい環境を整備することで人員を確保し、販売力を強化してきました。しかし時代の進展で、競争の激化や労働力確保競争の激化、消費者の購買行動の変化などが起こり、ヤクルトレディのあり方が改めて問われています。ヤクルトとしては届けてネットサービスで突破口を開きたい考えです。

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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