「うちは過労死から程遠いよ」と自負する会社でも、社員の健康管理は欠かせません。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、厚労省が推進する「THP」という取り組みに着目。会社ぐるみで健康づくりのために取り組む方法について、現役社労士がレクチャーします。
THP健康づくり
秋ともなると、健康診断をする事業所も多いと思います。そこで、今回は、健康がらみのことで、勉強になったことを話題にします。
新米 「大塚トレーナー、昨日、『THP』って言葉に出会ったんですけど、なんかよくわからなくって、困っちゃいました。『THP』って何のことなんですか?」
大塚 「んー、そうよねぇ。『THP』の話はまだしたことなかったわね」
新米 「はい、是非、レクチャーお願いします」
深田GL「THPのこと? トータル・ヘルスプロモーション・プランの略で『心と体の健康づくり運動』のことだよ。厚生労働省では、働く人の健康の保持増進に資するため、昭和63年からこの愛称で、働く人の心とからだの健康づくりを推進しているんだ」
大塚 「社員が不健康にならないように、一次予防に重点をおいて会社がヘルスケアをおこなうものですね」
深田GL「正直、中小企業では、健康診断すら法未満の事業所もあるくらいだから、THPまでは行き届いていないよ。でも、社労士としては言葉くらいは知っておいてほしいな」
大塚 「そうね。まず言葉はおさえておこうね。健康診断では、異常が認められなくても、糖尿病や高血圧など生活習慣病の予備軍といえる人は結構いると思うわ」
深田GL「新米くんは、『未病』って言葉知ってる?」
新米 「『未病』? うーーん、知らないです」
深田GL「『未病』っていうのはね、半健康・半病気状態、つまり、健康と病気の中間の概念ってこと。病気ではないけど、健康でもない状態だ。『未病』は、発病には至らないものの軽い症状がある状態でもある。東洋医学では、五臓六腑がつながっているという考えが根本にあって、軽いうちに異常を見つけて病気を予防するという考え方があるんだ」
大塚 「五臓六腑ってそんなに密接なんですね」
深田GL「2,000年以上前の中国の書物『黄帝内経素問』(こうていだいけいそもん)の中にも『聖人は未病を治す』と書かれていて、予防の重要性が既に認識されていたことがわかっているそうだよ」
大塚 「病気になる前に予防ができれば、治療のために仕事を休むこともないし、健康であれば、仕事の効率もアップするでしょ。厚生労働省では、『事業場における労働者の健康保持増進のための指針』を示して、THPの増進を図っているのよ」
新米 「へー、『未病』って言葉、初めて知りました。で、THPって具体的には何をするんですか?」
深田GL「THPはね、『計画→推進体制を整える→健康測定→健康指導→実践→評価』というサイクルを繰り返して、実践していくんだ」
大塚 「実践メンバーは、6名必要なの」
新米 「6名って、やっぱり規模の大きなところでないと、難しそうですね」
大塚 「確かにね・・・。もっとも、THPスタッフが事業場内にいない場合は、労働者健康保持増進サービス機関や指導機関に委託して実施できるのよ」
新米 「委託できるんですね。で、その6名っていうのは…」
大塚 「一人目は、まずは産業医さんね」
深田GL「そうだ。THPをすすめる場合、まずは、研修を修了した産業医さんが健康測定を行うんだ。その健康測定の結果から従業員個人に合わせた指導内容・目標をつくり、4つの健康指導(運動指導、保健指導、メンタルヘルスケア、栄養指導)等をTHPのスタッフさんに担当してもらうことになる」
大塚 「これらを行うTHPスタッフを養成する研修は、中災防で実施されているわ」
新米 「中災防って…?」
大塚 「中災防っていうのはね、中央労働災害防止協会の略で、事業主の自主的な労働災害防止活動の促進を通じて、安全衛生の向上を図り、労働災害を絶滅することを目的に、労働災害防止団体法に基づき、労働大臣(現:厚生労働大臣)の認可によって設立された公益目的の法人のことよ」
新米 「中災防…。厚労省の関連団体ってたくさんあって、まだまだ知らない法人や団体がいっぱいありそうですね。中災防は覚えておかないといけない法人のようですね」
大塚 「そうね。何をしているところかは、知っておいてほしいわ」
深田GL「二人目は、運動指導担当者だ。従業員個人に合わせた運動プログラムをつくって、指導する人だ。三人目は、運動実践担当者。従業員に運動のやり方をアドバイスするんだ」
大塚 「四人目は、心理相談担当者。メンタルヘルスケアを行うとともに、職場の雰囲気づくりをするのよ」
深田GL「五人目は、産業栄養指導担当者。社員に食習慣についてアドバイスするんだ」
大塚 「最後の六人目は、産業保健指導担当者。仕事と生活に合わせた健康的な生活のためのアドバイスをするの」
深田GL「THPメンバーは、各々の役割に十分な知識がある人を選ぶ必要があるんだ」
大塚 「中災防には、専門の指導者を抱えていない企業のために企業外の専門サービス機関を国が認定・登録し、その機関が企業の健康づくりを支援する仕組みもあるし、事業場に専門スタッフを養成するための研修もあるわ」
深田GL「THPは、継続的で計画的にすすめることが大切だから、事業場に専門スタッフを養成することができれば、より効果的にTHPを展開することができるよ。もっとも、医師とか事前に資格が必要な部分までには切り込めないけどね」
大塚 「産業医さんや看護師さんなど専門スタッフは、やはり外部の方になりますね」
新米 「いずれにしても、どっちも中災防に行けばいいんですね」
深田GL「そうだね。健康づくり指導者養成研修の内容は、盛りだくさんだよ。総務や人事担当者には、勉強になる」
大塚 「それは、そうでしょうね。ちなみに研修内容、ここに書いてあります。読みあげてみますね。
- 心理相談担当者の役割
- ストレスに対する気づきの援助
- リラクセーションの指導
- 良好な職場の雰囲気づくり
- 産業栄養指導担当者の役割
- 食生活、食行動の評価と改善指導
- 産業医が行う健康測定の内容
- 問診、診察
- 生活状況調査(仕事の内容、運動歴等)
- 医学的検査(形態、循環機能、血液、尿、その他)
- 運動機能検査(全身持久性、筋力、 柔軟性、敏捷性、平衡性、筋持久性)
- 健康測定結果をもとに、運動等の指導票を作成します。
- 運動指導担当者の役割
- 運動プログラムの作成及び運動指導
- 運動実践担当者の役割
- 運動実践のための援助
- 産業保健・勤務状態や生活習慣に配慮した生活指導(睡眠、喫煙、飲酒口腔保健、その他)」
新米 「わぁ、やっぱり盛りだくさんですね」
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