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怒れるトランプ大統領が、北朝鮮に強く当たれない5つの理由

いよいよ11月5日から始まるトランプ大統領のアジア歴訪。その大きな目的のひとつに、北朝鮮問題解決に向けての各国首脳との「最終意思確認」があるとされています。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者のアメリカ在住で政治分野に精通する作家の冷泉彰彦さんが、巷間囁かれる軍事攻撃の可能性は極めて低いとしその5つの理由を上げるとともに、「外交的解決」の具体的な方法について記しています。

北朝鮮核問題の外交的解決シナリオを検討する

11月5日に始まるトランプ大統領のアジア歴訪(日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピン)が迫ってきました。最大の目的は北朝鮮危機への対処ということは間違いない中で、トランプ政権は何らかの「落とし所」を持っているのでしょうか?

この点に関しては、この欄でも「お金で解決」ということ、つまりは外交的解決というのが唯一の落とし所」だということを申し上げて来ました。勿論、一筋縄では行かない相手ですし、そもそも相手の方は核攻撃が可能だと称して軍事的威嚇を仕掛けているわけですから、甘い姿勢を取っては失敗する危険があります。ですから、色々な格好で「圧力をかけることはテクニカルにも必要です。関係国の全てが「外交的解決」を前面に押し出してしまっては、相手の術中にハマってしまいます。

ですが、そろそろ「外交的解決」というオプションを話題にしてもいいのではないか、そのような時期が来ているのも事実と思います。

実は、先週、極めて短期間だけ一時帰国しており、大阪の朝日放送さんの土曜日の情報番組「正義のミカタ」というのに出演して、「トランプ来日」について喋ったのですが、その際に「経済的解決説」を唱えたところ、藤井聡、高橋洋一、林久美子(世耕弘成夫人)などのかなり保守色のある顔ぶれからも賛意が飛び出したわけで、そろそろタイミング的には議論の必要が出て来たということだと思います。

ここで、改めて、アメリカの政局、そして現在の東アジア情勢を前提にしながら再検討をしてみようと思います。強硬策の可能性は極めて低く、何らかの外交的解決が依然として「落とし所」として模索されていると考えられる理由についての検討です。

1点目としては、大統領の支持率が再び低迷している中、外交上の失敗は許されない状況があります。ティラーソン国務長官との確執なども報じられる中で、今回の東アジア歴訪が失敗するようでは、政権は窮地に陥るからです。

その成功失敗というのはどういう意味かと言うと、今回歴訪において、日米、韓米、米中の3セットの首脳会談において、特に北朝鮮政策についての結論が「一致するか?」あるいは「齟齬が浮き彫りになるか?」と言う点に注目したいと思います。

特に、日米韓で合意された方向性について、中国で習近平から「ちゃぶ台返し」を食らうようでは、アメリカの威信は地に落ちてしまいます。反対に、今回の歴訪の順番としては「コミュニケーションの近い順」に並べてあるわけですが、日米で合意されたことが、米韓でも基本的に踏襲され、米中の声明でもそこに矛盾がないということになれば、「米国主導の調整が機能したことの証明になります。

2点目として、その中国への訪問が「党大会での新体制発足の直後というタイミングに設定されているということがあります。どうして、このタイミングなのかと言うと、勿論、権力基盤を固めた習近平体制への祝賀のためではありません。まず、大きな問題に関する新しい合意を行うのであれば、「新体制」が発足した後の中国との合意でなければ、合意の意味がないと言うことがあります。

また、新体制直後というタイミングを考えると「トラブルを避けたいという中国側の政権事情も計算しているはずです。また、そうであるならば、「落とし所」とは習近平「新体制」の呑める、しかも中国の言う「新時代」に動揺を与えない種類のチョイスになるはずです。このタイミングから考えると、強硬策というのは余りに非現実的と思います。

3点目としては、アフガン戦争とイラク戦争の結果、米国世論には強い厭戦意識があるわけです。トランプ大統領には言動を通じて好戦的なイメージもあるわけですが、実はこの2つの戦争を批判し、孤立主義のセンチメントをバネに登場した大統領でもあります。「外交的解決」を志向したからといって、「強気のトランプが弱気に転じた」として「コアの支持層が離反する可能性はないでしょう。

4点目ですが、現在の東アジアというのは米国経済の生命線です。多くのハイテク企業が、東アジアに生産拠点もしくは生産のパートナーを有していますし、同時にこの地域はその主要市場でもあるわけです。特に米国の基幹産業と言っていい、スマホのビジネスに関してはそうです。ですから、この地域の戦火は、米経済、とりわけ株価に大きな影響を与えます。壊滅的なダメージになると言っても過言ではないでしょう。そして、株と景気の暗転はそのまま政権基盤の崩壊を意味します。

5点目としては、選挙公約としてトランプが「北朝鮮問題」について何を言って来たかという問題です。この点に関して彼は「中国の習近平をうまく利用してディールを成立させる」と何度も言い続けて来たわけです。そう考えると、やはり強硬策ではなく、中国を巻き込んだ「外交的解決」というのは、公約そのものの成就になるということが指摘できます。

ではその「外交的解決」として具体的には、何が考えられるのでしょうか?

具体的には経済援助となるわけですが、金正恩のメンツを潰さないようまず「制裁解除」、そして「技術援助を含む経済特区設置」であるとか「エネルギーと食糧の包括的な供給パッケージ」などと言った名目が考えられます。引き換えに核放棄を迫る以上、硬軟両面からの大胆なアプローチとなるのではないでしょうか。

勿論、90年代のKEDO合意、つまり核放棄の代わりに軽水炉技術を供与という枠組みも、2000年代の合意もどちらも破綻しているわけで、交渉は簡単ではないし、仮に合意ができたとして実行し、維持し続けるのには困難が伴うでしょう。

ですが、いくら鎖国をしているとはいえ、90年代、2000年代とは比べ物にならないレベルで、西側の情報、そして繁栄する中国の情報は北朝鮮社会に浸透していると思われます。そう考えると、経済的な「制裁解除+支援」というものがなければ、政権は早晩行き詰まるわけで、考えてみれば、その内部崩壊の危険を「ゴマかす」ために「核開発で国威発揚」などというバカなことが行われているわけです。外交的あるいは経済的解決というのは、そんな中で、十分に効果的であると考えることが可能と思われます。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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