こういう話を具体的にしていくと、納得した様子でうなずいてくれる人のほうが多いのですが、なかには思いがけない人から、びっくりするような問いかけが行われることがあるのです。
このときの講演会では、最前列は官房副長官や駐米大使、中央省庁の事務次官のOBと現職官僚など高位高官で占められていたのですが、あらかたの聴衆が退出した段階で、そのうちの一人から「日本人はやるときにはやれるのでしょう?」と問いかけられたのです。
その方の顔には、日本人として悔しいという思いがにじみ出ていました。しかし、頭から否定するしかありませんでした。
「自衛隊の適正規模ひとつ国民に問いかけて整備したことのない日本人です。それは精神論に過ぎません。陸上自衛隊の適正規模は25万人ですが、現状では実員で13万人台でしかないのですよ。それを放置しておいて、やるときはやるなどと言えないでしょう」
返事はありませんでしたが、その方の穏やかな顔には悲しみが浮かんでいたのを忘れることはできません。
百戦錬磨のはずの官僚トップたちにして、このようにリアリズムとは遠いところにいるのが日本の現状だとしたら、真の意味での日本の自立など夢のまた夢かもしれませんね。(小川和久)
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