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史上最高の“蜜月アピール”に隠された、トランプの「損得勘定」

アジアを歴訪したトランプ大統領が最初に日本を訪れたことで、国内メディアは「日米関係は史上最高の親密度」と、お祭り騒ぎと言ってもいいほどの熱量で報道しました。しかし、米メディアは「ロシアゲート事件」の話題で持ちきり。この温度差について、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんは、「日米の蜜月関係を強調することは両首脳にとってメリットがあり、どちらにもそれぞれの思惑がある」と見ているようです。

ロシア疑惑渦中のトランプ大統領を迎えた安倍首相の奇妙なはしゃぎよう

トランプ大統領の来日は、安倍首相によると「歴史的」なことなのだそうである。たぶん、日米首脳が史上最高の親密度に達していると、誇っているのだろう。

トランプ大統領は東京で、安倍首相とゴルフや食事をともにし、お互いを賞賛し合ったあと、次のアジア歴訪国、韓国へ向かった。日本のテレビは二人が食べたハンバーガーや鉄板焼きの話題で盛り上がった。

一方、大統領がフェイクニュースと毛嫌いするCNNなど米メディアでは、連日、ロシアゲート事件でもちきりだ。

昨年の大統領選でトランプ陣営がロシアとつるんでクリントン陣営に不利な情報操作をしていた疑惑。トランプ側近たちが次々に訴追された。トランプ陣営の外交顧問だったパパドプロス氏、選挙対策本部の幹部をつとめたマナフォート氏、そのビジネスパートナー、ゲーツ氏ら3人だ。

かりに、トランプ大統領がロシアの不正な支援で誕生したとなれば世紀の大スキャンダルである。米国内の騒然とした空気は当然だろう。東京・渋谷でも日本在住のアメリカ人らが反トランプ集会を開いた。

トランプ大統領を、追いつめているのはモラー特別検察官のチームだ。

もともとトランプ氏に疑いの目を向けていた米情報機関は、今年1月、ロシアがプーチン大統領の指示で、クリントン陣営にサイバー攻撃などを仕掛け、選挙妨害活動をしていたと断定した。トランプ大統領の長男、ジュニア氏が昨年6月、クリントン氏に関するネガティブ情報の提供を受けるためロシア人の弁護士と面会していたことも発覚した。

この疑惑を捜査していたFBIのコミー長官が今年5月、トランプ大統領に突然解任されたのは記憶に新しい。捜査対象だったフリン前大統領補佐官への捜査をやめるようにというトランプ大統領からの要請を受け入れなかったのが解任の真の理由であろう。

しかしトランプ氏の横暴な姿勢に屈することなく、司法省は独立性を守った。

特別検察官にモラー元FBI長官を任命して、捜査に乗り出したのだ。

大統領選でトランプ陣営の主要メンバーだったセッションズ司法長官はこの事件に一切タッチしないと言明。ローゼンスタイン司法省副長官がモラー氏を特別検察官に指名した。特別検察官をトランプ大統領が解任することはできない

なんだかんだ言っても、アメリカは権力の分立がしっかりしている。

日本の“モラー”は現れないものだろうか。安倍首相のモリ・カケ疑惑に検察は本気で取り組もうとしない。村木冤罪事件や陸山会事件以来、特捜検察の信用は地に堕ち、甘利明氏の口利きなど数々の疑惑に目をつぶったまま信頼回復の道を自ら閉ざしている。

渦中のトランプ氏は米メディアの喧騒をよそに、世界の指導者のなかで最高のヨイショをしてくれる安倍首相が待ち受ける日本にやってきた。

就任から9カ月。トランプ大統領の支持率は36.9%。9カ月終了時点の支持率としては歴代大統領の中で最低だという。

心配性のわれわれ日本人としては、そんな窮地に陥っている大統領が、北朝鮮との戦争によって支持率回復を狙ってこないかと、不安で仕方がない。

現に、横田基地に降り立った直後、兵士たちに向けたトランプ氏のスピーチは金正恩を挑発する中身だった。

「どんな独裁者も政権も国家も、米国の決意を甘く見るべきではない。過去にときおり彼らは米国を過小評価した。それは彼らにとって愉快なことにならなかった」

最近、東南アジア諸国首脳らとの電話会談でこうも話したという。「自国の上空をミサイルが通過しているのに、なぜ撃ち落とさないのか。武士の国なのに理解できない」

これらの発言だけで判断すると、まるで日朝双方をけしかけているようだ。

「対話より圧力」のカギを握る中国への注文もトランプ流を崩さない。AFP電によると、トランプ大統領は米FOXニュースのインタビューでこう語った。

「日本は武士の国だ。私は中国にも、それ以外に聞いている皆にも言っておく。

北朝鮮とこのような事態が続くのを放置していると、日本との間で大問題を抱えることになる」

中国が原油の輸出制限にとどまらず、完全禁輸など北朝鮮がネをあげる策をとらなければ日本が武力を使うとでも言いたげだ。

ともあれ、安倍・トランプ会談は、北朝鮮に対し最大限の圧力をかけることで合意した。「最大限の圧力」とは何か。北朝鮮が我慢できなくなるスレスレの圧力だとしたら、きわめて危険度は高くなる。

戦略的忍耐の時期は終わった」とトランプ大統領。「日米は100%共にある」と安倍首相。軍事行動をやるなら、ついていきますよ。まさか、そういう意味ではないと思いたい。

米国は北朝鮮や中国の脅威を利用して日本に兵器を売り込んできた。今回の首脳会談後の共同会見でも、トランプ大統領は「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と本音を率直に語った。

北朝鮮の壊滅は米軍需産業にとってマイナス材料となるが、核ミサイルが米本土にまで達する恐れが出てきた現在、状況は一変している。

実際、今回の首脳会談で、トランプ氏は巨額の商取引に成功したようだ。11月6日にトランプ氏は「安倍首相との親密な関係はアメリカに大きな利益をもたらすだろう。軍備増強、エネルギーなどで」とツイートしている。

だが真に恐れるべきはトランプ氏より安倍晋三氏の底意かもしれない。安倍氏は金王朝を潰すためには軍事衝突もやむなしと考えているフシがある。トランプ氏は安倍氏の本性を見抜いているのではないだろうか。

安倍首相は巨大化してゆく中国に圧迫され、北朝鮮に核ミサイルまで持たれて、悔しくて仕方がないだろう。アジア諸国に対する大日本帝国の誇りと支配の記憶をその血脈に受け継いでいる気なのかもしれない。

中国や北朝鮮に立ち向かうために、安倍首相は憲法の解釈を恣意的に変更し、集団的自衛権の行使ができるようにしてまで、アメリカにすり寄った。経済的利益を優先し中国に注意を向けがちの米国に日米同盟の重要性をアピールするためだ。そこに登場した米国の新大統領がトランプ氏だった。

トランプ、イバンカ。この父娘を籠絡するには、彼らの自尊心を最大限、満たしてやればよいと安倍首相は高をくくっている。一方、トランプ氏も、「日米関係は今が最高だと言ってやれば安倍首相はカネを出すと、なめてかかっている面があるだろう。それが「蜜月」の実相ではないか。

トランプ氏に先んじてイバンカ氏が来訪すると、安倍首相は1日に2度も会い、高級ホテルで夕食をともにするなど、異例の厚遇ぶりをみせた。メディアは騒ぎ、「イバンカさんはきれい」と無邪気に話す街の声を拾った。米国内の雰囲気とまるで違う人々の物見高さに、ワシントン・ポストは「日本の奇妙なイバンカ・トランプへの熱狂」と記事に皮肉をこめた。

朝日新聞に、安倍・トランプの蜜月に関する以下のような記事が載った。

米政府関係者はいう。「大統領は、側近にも言わないことを安倍首相に相談
することもある」(中略)トランプ氏の就任後、日米首脳会談は4回、電話協
議は公表されているだけで16回と異例の多さだ。北朝鮮が核やミサイル開発
で挑発を行った後には、決まって連絡を取り合っている。(中略)首相周辺に
よると、9月下旬の日米首脳会談でトランプ氏は、フィリピンのドゥテルテ大
統領とも会うべきかと質問。首相が「会談した方がいい」と促すと、「わかっ
た。シンゾーがそう言うんだったら会談しよう」と応じたという。

首相周辺が言うことだから、眉に唾をつけていたほうがいいとは思う。だが、ほんとうにこういう間柄なら、安倍首相は責任重大だ。元外務事務次官で北朝鮮交渉も担当したことのある藪中三十二氏はTBSサンデーモーニングで次のような趣旨の発言をした。

「ホワイトハウスに北朝鮮の専門チームがなく、トランプ大統領が判断している。何をするかわからないだけに怖い」。だとすれば、安倍首相の対応次第ではトランプ大統領の暴走を誘いかねない

いずれにせよ、今回のアジア歴訪でいくら成果を強調しようとも、トランプ大統領への支持率が急上昇するとは考えられない。この政権がいつまでもつか、はなはだ疑問である。国内で政治的な成果をあげられず、言動に批判が高まり、さらには選対の幹部がロシア疑惑で訴追されたのである。捜査の進展しだいでは、議会で大統領の弾劾が始まるだろう。

あまり蜜月を強調しすぎると世界各国首脳の安倍首相に向ける眼差しもさらに複雑になっていくのではないだろうか。

image by: 首相官邸HP

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