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患者を餌食にする悪質なトンデモ・メンタルクリニックの見分け方

心が弱っている時、人間は判断力を失ってしまいがちなもの。世の中にはそんな人々を餌食にしようと待ち構える悪質な「トンデモ・メンタルクリニック」が多く存在していると言います。メルマガ「精神科医・西多昌規が明かすメンタルヘルスの深層」では、著者で精神科医の西多昌規さんが、自分や家族がメンタルクリニックを受診すると想定して、病院選びのポイントをわかりやすく解説。悪質な「トンデモ・メンタルクリニック」を見分けるためのコツを伝授してくれています。

精神科の「トンデモ」クリニックを見分けるコツ

「トンデモ」クリニックとは?

先日亡くなった小林麻央さんの治療を巡って、一時期、週刊誌やネット記事が騒がしかった。

治療経緯の実際はご家族に確認しなければわからないが、はっきりしている事実がひとつある。それは科学的根拠がまったくない個人の感想や経験だけに基づいた、しかも健康保険の適応外であり法外な金額を求められる治療が公然と放置されていることだ。

これらの医療は、インチキ、詐欺という意味で、「トンデモ」と呼ばれるようになってきた。聞いたことのある人は多いと思うし、耳にしたことがないという人は、よほど健康かあるいは医療に関しては情報弱者になっているといっていい。

トンデモ医療を放任している医療界、行政の責任はもちろんだが、これらを放任どころか宣伝役としてサポートしているマスメディア、出版社は、もっとも罪深いとわたしは考えている。

第一線で活躍されている腫瘍内科医であり、SNS発信も多い日本医科大学の勝俣範之教授は、ツイッターでトンデモクリニックを見分ける三つの点を挙げている。

「インチキクリニック代表。がんのインチキクリニックを見分けるコツ。1.保険が効かない自由診療。2.がんが消えた、治ったとのうたい文句。3.効果のあった患者さんの例が紹介されている。しっかりと当てはまる」

わかりやすい、明解な解答だ。これに怪しげな一般書や講演を頻繁に行っていれば、トンデモの可能性は限りなく高い。

ガンの場合は、抗がん剤の投与でかえって早死にしたなど、ネガティブな情報が根強い。しかも、そのような事例がゼロではないのも事実である。また進行してしまったガンには、近代医学は冷淡である。「トンデモ」にすがりたくなる患者の気持ちは理解できる。しかしその藁をもすがりたい気持ちが、トンデモ運営側にとってはいい金づるなのだ。善意が少しでもあれば、あのような法外な金額を提示できるはずがない。

では本テーマに帰って、精神科・心療内科の領域の「トンデモ」とは、どういった医療機関なのかを考えてみたい。「トンデモ・メンタルクリニックを見分けるコツは、はたしてあるのだろうか。

「トンデモ・メンタルクリニック」を見分けるコツ

厚生労働省による平成28年度の医療施設調査によれば、精神科を標榜する一般病院(いわゆる精神科病院以外)は、1724施設であった。そのほとんどは「メンタルクリニック」であり、1978年度に比べて2.5倍にも増えている。選択肢も増えてきているということは、有象無象も含まれているとことにもなろう。

自分が精神障害になった、あるいは自分の家族に精神障害が疑われ、クリニック選びをしなければならないと仮定し、「トンデモ」精神科医に出くわさないにはどうしたらいいかを、考えてみた。インターネットでも、精神科・心療内科の選び方は数え切れないくらいに載っている。肯けるものもあれば、「薬は絶対に飲んではいけない」など、反精神医学に凝り固まった偏った情報もある。ここで、わたしが患者ならば診てもらいたくない、あるいは家族を連れて行きたくない、いわゆる「トンデモ・メンタルクリニックの要素を挙げてみたい。

× 初診の診察時間が、30分以下である

初診は、患者の治療方針だけでなく、医師との治療関係を結ぶためにも、非常に重要な機会である。できれば、1時間はほしいところだが、患者が多いクリニックでは現実的に1時間割くことは難しい。

保険診療である以上、毎回長時間の診察時間は取れない。初診でしっかり情報を共有しておけば、2回目以降の診察は初診ほどの長さを要しない。そのためにも、初診の場合は予約がやはり望ましい初診を10分程度で終わらせる診察は論外である。

× 患者が多すぎる

すでに飽和しており、当然ながら、一人当たりの診察時間は短くなる。医師も多くの患者への診察で疲弊してしまい、患者にイライラをブツけるなど精神的平穏を保ちづらくなる。患者の症状の変動を薬剤の増量だけで対応している可能性もある。そういうクリニックは予約が取りづらく、なにかあったときのサポート体制が不十分なのは言うまでもないだろう。

× 初回の診察で3種類以上の薬が処方される

2016年の改定で薬剤を多剤処方した場合の診療報酬が減算され、さすがに初回から多剤処方をする医者は減ったはずだが、未だにこういう医者も残存している。

× 医師の経歴

医学部卒業後5年以内で開業している医師は、知識や経験が少ない、あるいは誰にも相談できないので偏っている可能性が高い。精神科医療は治療だけでなく、社会・福祉的サポートの視点も重要なので、社会経験の乏しさは大きな援助開業していなくても、総合病院などを経験せずにクリニックを転々としている医師にも、わたしが患者ならば診てもらいたくない

× 初診で診断を断言する

精神科の診断は、慎重になされるものである。うつ病だと思われていたのが、最終的には躁うつ病や発達障害、統合失調症という診断に至ることもある。それだけ精神障害の診断は難しいにもかかわらず、「一見診断をウリにするベテランもいないわけではないが、わたしはそのような傲慢な医師は信用しない。診断の可能性や今後の見込みを控えめに話してくれる医師が、信頼できる医師である。

× 自説を押しつける

「論文でも評価されているこの薬がいい」

「薬は百害だらけで、精神分析が最適」

など、患者と相談して治療を進めていこうという意思ゼロ

× 日常生活への質問がまったくない

生活指導は精神科治療のイロハである。食事、睡眠、仕事については、最低限はチェックするものである。

× 最新機器だけで診断を下す・最新治療法をいきなりすすめてくる

ロクに問診もせず経過も追わず、光トポグラフィの結果だけで「うつ病ですね」などと診断する。状態評価もせずいきなり経頭蓋的磁気刺激法なども論外。

ネットで見かける悪評はあまり気にしない方がいいと思う。一人の執着的な患者が、悪評をあちこちにバラまいていることが多いからだ。医者の人格否定や個人攻撃は適度にスルーしていいが、「一度に5種類の薬が出された」「初診が5分で終わってしまった」などの事実記載は、参考にしたほうがいい。

よく、「目を見てくれず電子カルテばかり見ている」というクレームも多い。なぜなら、医者にはコミュニケーションに難のある自閉スペクトラム症傾向の人もそれなりにいて、アイコンタクトを取れない人が多いからだ。彼・彼女らに悪気はなく、よく勉強しており、融通は利かないが治療には熱心だ。しかし、相手の気持ちや考えを想像する能力に欠けているため、共感を交えた治療となると難しい。

精神科の場合に特徴的なのは、他の診療科以上に患者と医師との相性が重要なことだ。相性が悪い医者-患者関係では、治療はうまくいかない。処方する薬も、プラセボ効果とは逆のノセボ効果(副作用ばかり出る)が出やすくなる。診察がお互いにとって苦痛極まり、治療者としても、相性が合わない患者とつき合いたくないのが人情だ。

幸いわたしの場合は、あからさまに主治医交代を求められたのは、医師経験20年ほどだが3、4人レベルで済んでいる(内心では、違う医者がいいと思っていた患者はかなり多いだろうが)。良い「相性」を築くのが下手な医者もいて、それはその医者の能力不足ということになるだろう。同じように、医者と良い「相性」を築けず、ドクターショッピングばかりしている患者もいる。5人の医者と出会えば一人ぐらいはまずまずな相性の医師に出会えるのではないか。わたしの先輩医師が教えてくれたことだが、5人医者を代えても合う医者がいないと言われるときには、医者よりもその患者のほうに問題があるという。

ネット時代の現代では、昔と違って他者の評価を家にいながらにして知ることができる。しかし、アマゾンや食べログのレビューがしばしばヤラセや炎上などで問題となるように、ネットの情報は、玉石混淆である。まして医者との相性を数値化するのは、人工知能が発達した現在でも不可能だ。

わたしならば、やはり「口コミ」を重視する。情報源がなければ、かかりつけの内科医などに信頼できそうな精神科医を聞いてみる。あるいは、保健所に相談して、情報を得るのも策だろう。しかし医者のことは、医者がよく知っているものである。今日ご紹介した情報を参考にしてアナログに進めていくしかないのが現状だと思う。

image by: Shutterstock

西多昌規(精神科医)この著者の記事一覧

精神科医の西多昌規です。一般書やブログ、SNSには書きづらい精神科医療とメンタルヘルスの裏の実情を紹介します。医学研究や医学部教育の問題点にも切り込みます。

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