かつてのアメリカにとって極めて重要度の高かった中東ですが、「シェール革命」で一挙に原油・天然ガス生産量が世界第1位となって以降、かの地への興味を急速に失っていきました。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際政治に詳しい北野幸伯さんが、国際エネルギー機関(IEA)ビロル事務局長のインタビューを取り上げつつ、中東の今後を占います。
石油、天然ガス市場の近未来(勝つのは、あの国)
最近、「シェール革命、シェール革命」と騒がなくなりました。「当たり前」になったのでしょう。しかし、シェール革命は、「本当の革命」でした。それで、世界の構造が変わってしまったからです。
エネルギー市場の近未来
ブルームバーグ11月20日で、国際エネルギー機関(IEA)ビロル事務局長のインタビューを見ることができました。ビロル局長は何を語ったのでしょうか?
今後10年ほどの間に、アメリカの原油生産量は、日量1,700万バレルに到達します。そうなれば、アメリカと第2位の国との間に、大きな差が生まれるでしょう。
ほほ~。アメリカは、シェール革命のおかげで、原油生産量トップをばく進すると。サウジアラビアやロシアの追随を許さなくなると。
さらに、今後10年間を予想してみると世界的な原油生産の伸びの8割以上がアメリカとなります。
つまり、アメリカが原油増産を牽引するということですね。サウジやロシアの生産は、それほど増えない。そのことは、市場にどのようなインパクトを与えるのでしょうか?
つまり、市場に原油の供給量が増えることになりますので、物価には下落圧力がかかるでしょう。
供給量が多いので、原油価格は上がらない。エネルギー価格が安いので、生産コストも安くなり、物価は上がらない。天然ガスは、どうでしょうか?
天然ガスに関しても、同じようなことが言えます。アメリカにおけるシェールと天然ガスの生産量は、大幅に増大します。
アメリカでは、原油だけでなく、天然ガスの生産量も激増するのですね。
ここでも今後10年でアメリカとロシアの間に30%以上の違いが生じるでしょう。アメリカのガス生産量が、ロシアを3割上回るということです。
今まで、「天然ガス」といえばロシアでしたが、こちらもアメリカの時代です。
多くの液化天然ガスが輸出にまわり、世界の天然ガス市場は、オペレーションや価格の見直しを迫られることになります。米シェールブームで、石油・ガス市場は、大変動が引き起こされるでしょう。
出所はこちら。
● 米国が2025年までに石油業界のけん引役に:ビロルIEA事務局長
シェール革命が世界を変えた
シェール革命がどう世界を変えたのか、復習しておきましょう。オバマさんが大統領になったのは、「100年に1度の大不況」が最悪だった2009年。彼は当時、「グリーン・ニューディール」と言っていました。つまり、環境に優しいエネルギーを普及し、同時に経済も活性化させようと。これも確かに進みましたが、「革命」というほどではありませんでした。
しかし、ラッキーボーイのオバマさん時代、「シェール革命」が爆発的スピードで進展します。そして、アメリカ、今では原油生産量世界1位なのです。ちなみに2位はサウジアラビア、3位ロシア。アメリカは、天然ガス生産量でも世界一。2位はロシア、3位はイランです。アメリカは、オバマさんの時代に、「エネルギー超大国」になった。このことは、世界をどう変えたのでしょうか?
アメリカは、(資源がたっぷりある)中東への関心を失ったのです。ブッシュ(子)が大統領になった2001年。「アメリカの原油は、2016年までに枯渇する」と報告されていました。それで、アメリカがイラクを攻めたのは、「石油利権をゲットするため」と言われていた。これ、「トンデモ」でも「陰謀論」でもありません。FRBのグリーンスパンさんは、「誰でも知ってる事実」と断言しています。
ところがシェール革命で、「アメリカに石油・ガスが、山ほどある」ことになった。それで、オバマは、「もう中東は必要ない!」と考えた。結果、アメリカとサウジアラビア、イスラエルの関係は、とても悪くなりました。逆に、アメリカと(サウジ、イスラエルと敵対する)イランの関係は良くなり、「核合意」に至った。
現在のトランプさんは逆で、サウジアラビア、イスラエルと良好な関係にあります。しかし、それは、「トランプとネタニヤフ首相は個人的に親しい」とか、「娘イヴァンカの夫のクシュナーさんはユダヤ人」とか、「個人的感情」に基づいたもの。「中東の資源が絶対必要だから」という、かつての「国益」とは、レベルが全然違うのです。
今、中東は、とてもゴチャゴチャし、わけがわからなくなってきています。そして、アメリカがひいた隙に、ロシアが勢力を伸ばしている。ソ連は、崩壊後15の国に分裂しました。ユーゴスラビアも分裂した。強い権力が突然消えると、カオスが訪れます。今中東で起こっていることは、「アメリカがこの地域への関心を失ったこと」が理由なのです。
いずれにしても、アメリカで起こった「シェール革命」は、世界を変えました。おかげさまでエネルギー価格が安くなり、日本にはありがたい。一方、ロシア、サウジ、ベネズエラ、カザフスタンなど、資源輸出でもっている国々は、これからも苦しい時代が続くでしょう。
image by: Mariana Nananana / Shutterstock.com