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年金の受取額が倍になることも。知らないと大損な「特例」とは?

以前掲載の「年金を前倒しで受給するのは損なのか?『16年8ヶ月』の分かれ道」では、年金繰り上げ受給をする人が多いものの、受け取れる額がかなり低くなるということをお伝えしましたが、「ある条件」を満たすと65歳前から年金が大幅アップするそうです。無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんが、その条件をわかりやすく解説しています。

この条件を満たすと年金額が倍くらいになる事がある(長期加入者特例)

65歳以前の年金は今は支給開始年齢が引き上げられてる最中ですが、65歳未満の老齢の年金というのは支給されても結構低いからビックリされる方も多いです。なんか増やす方法無いか? と言われると無いわけではないですが、限定的。

しかし今回のような条件を満たすと年金額が倍くらいに増える場合もあります。厚生年金期間または共済組合期間単独で528ヶ月以上に到達すると65歳前から厚生年金が非常に増えるんですね。厚生年金期間と共済組合期間合わせて528ヶ月以上というのは不可。

今回はこの528ヶ月特例に関してです(44年特例ともいますが、正式名は長期加入者特例という)。まあ…すごーく長く働いてる人へのボーナスのようなものというかですね(^_^;)。というわけで事例。金額は平成29年度価額です。

1.昭和37年11月26日生まれの女性(今55歳)

この女性の厚生年金支給開始年齢は63歳。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

高校を卒業した月の翌月である昭和56(1981)年4月から、63歳到達年である平成37(2025)年10月(退職を誕生日到達日の11月25日とすると10月まで月数に含む)までの535ヶ月厚生年金期間。

昭和56(1981)年4月から平成15(2003)年3月までの264ヶ月間の平均給与(平均標準報酬月額)は300,000円とします。賞与も年金額に反映するようになった平成15年4月から平成37年10月までの271ヶ月間の、全給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)を足して平均した額(平均標準報酬額)を430,000円とします。厚生年金の計算は賞与が年金額に反映しない平成15年3月以前と、賞与も年金額に影響する平成15年4月以降で分けないといけない。

63歳になる平成37年11月25日(誕生日の前日に歳を取るから25日)をもって退職する。そして、普通ならまず老齢厚生年金が受給出来る63歳に達したので、請求により平成37年12月分から老齢厚生年金の「報酬比例部分のみ」の支給が始まる。初回支払いは請求から大体3ヶ月はかかるから、平成38年3月15日(12月、1月分の2ヶ月分)が初回支払いになると考えていた方がいいです。

まず、老齢厚生年金(報酬比例部分)を算出。

本来ならこの年金だけ。しかし、この女性は長期加入者特例の条件である「528ヶ月以上、「退職により厚生年金の資格を失っている」ので、自動的に年金に定額部分という年金がオマケで付いて増額する。厚生年金に加入してる間はダメ。

また、この11月25日時点で生計維持している65歳未満の夫が居れば(夫は20年以上の厚生年金や共済からの厚生年金を貰えないという事で話を進めます)、配偶者加給年金389,800円が更に加算。以下、配偶者加給年金が付くものとします。

※注意

配偶者加給年金を付ける場合は63歳到達時時点の戸籍謄本、世帯全員の住民票、夫の所得証明が必要。普通は65歳時点にしか配偶者加給年金は付かないが、長期加入者特例により定額部分がオマケで付くと定額部分発生時の63歳から配偶者加給年金が付く

よって、平成37年12月分から年金は老齢厚生年金(報酬比例部分1,203,001円+定額部分780,000円)+配偶者加給年金389,800円=2,372,801円(月額197,733円)となる。

528ヶ月無ければ、定額部分は元々付かない生年月日の人だし、配偶者加給年金が付くとすればこの女性が65歳にならなければ付かなかったのが、63歳から前倒しでオマケで付いて年金額が大幅アップしたんですね~。ただし、途中また再就職などしてさっきも言ったように厚生年金に加入すると定額部分も配偶者加給年金も全額停止になる。

あと、63歳到達時の11月に退職してるから、ハローワークから支給される失業手当(正式名は基本手当という)の話も出てきますよね。ハローワークで失業手当を申請(求職の申込みという)すると、申請の翌月から年金が全額停止になり、失業手当を貰い切るか、原則離職日の翌日から1年を超えるかしないと年金の支給が再開しません。だから、ハローワークで求職の申し込みをする前に、年金事務所やハローワークで年金額や失業手当の試算をしてもらって有利なほうを選択しましょう。

ザックリと失業手当の金額を出すと、退職前6ヶ月の給与平均が410,000円だったら日額に直すと、13,666円だから失業手当日額は13,666円×45%=6,149円(1円未満切り捨て)。失業手当を年額に直すと、6,149円×365日=2,244,385円になる。という事はこの女性の年金額は2,372,801円だから、年金額の方が有利ですね(大体失業手当のほうが高いんですけどね)。だからこの人の場合ならハローワークで求職の申し込みしないほうがいいかも。ただ、老齢の年金は65歳未満の人は年金年額108万円以上(65歳以上は158万円以上)だと課税対象になるので税金の面も考えていたほうがいいです。失業手当は非課税だから。

ついでにこの女性の老齢厚生年金から源泉徴収される所得税を算出。

年金にかかる源泉徴収税額(日本年金機構)
扶養親族等申告書Q&A(日本年金機構)

年金額2,372,801円を6で割って2ヶ月分に直すと、395,466円(年金は原則として偶数月に前2ヶ月分払うから6回で割ってます)。

課税対象者に送られてくる扶養親族等申告書をちゃんと提出した場合で計算。まず基礎控除→395,466円×25%+65,000円×2ヶ月分=228,866円。基礎控除は月額最低90,000円(2ヶ月で180,000円)ありますが、228,866円が多いからこちらを基礎控除として用いる。70歳未満の控除対象配偶者(見込み所得38万円以下)が居るとすれば、更に配偶者控除32,500円×2ヶ月=65,000円の控除。

偶数月の年金額395,466円-基礎控除228,866円-配偶者控除65,000円=101,600円(課税所得)。よって、毎回偶数月に源泉徴収される所得税は、101,600円×5.105%=5,186円。

年間源泉徴収額は5,186円×6回=31,116円。だから所得税だけで言えば、年金2,372,801円-所得税31,116円=2,341,685円>失業手当2,244,385円だから、年金のほうが有利ですね。住民税や国民健康保険料みたいなのを加味すると失業手当のほうがいいかもしれない(この記事では省略)。

ちなみに、他に所得控除になりそうなもの(社会保険料控除とか生命保険料控除みたいなの)があれば、源泉徴収された年の翌年1月1日から5年間の間にいつでも還付申告する事が出来ます(確定申告時期しかできないわけじゃない)。ただ、年金の源泉徴収票は1月下旬から順次送付されてくるから、還付申告は早くやりたくてもその後ですね^^;。

なお、確定申告については公的年金収入(基礎年金、厚年、共済、基金、確定拠出年金、確定給付年金等の公的年金全て合わせて)が400万円以下かつ他の所得が20万円以下なら確定申告する必要はない。ただし、住民税の申告はする必要が出てきたりするので必ず市役所に確認してください。まあ…老齢の年金だけ貰ってるなら、日本年金機構や共済組合から市役所に支払い報告書が行くから申告しなくても住民税や国民健康保険料とかは市役所が計算して税金や社会保険料の支払額を送ってくる。

※追記

65歳以降の年金額を算出してみます。65歳以降は定額部分が消滅して、代わりに国民年金から老齢基礎年金が支給されます。

定額部分780,000円から老齢基礎年金779,300円に替わりますが差額の700円は差額加算(本来は経過的加算と呼ばれる)という年金で差額を補って、65歳前より年金額が減らないように調整する。差額加算は老齢厚生年金の部類。よって65歳以降の年金総額は、老齢厚生年金(報酬比例部分1,203,001円+差額加算700円)+老齢基礎年金779,300円+配偶者加給年金389,800円=2,372,801円(月額197,733円)。

なお、配偶者加給年金389,800円は夫が65歳を迎えると消滅して、年金総額は2,372,801円-389,800円=1,983,001円(月額165,250円)になる。65歳以上で158万円以上の年金がもらえる人は課税対象になるので、その点も注意。なお、障害年金や遺族年金は非課税

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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