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ゴミ出しをしなくなったら要注意。認知症老人を孤立させない方法

高齢化が進む我が国において、避けて通れないのが認知症を巡る問題。特に一人暮らしの方が認知症となってしまった場合、事はより深刻になると捉えられていますが…、今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の著者でマンション管理士の廣田信子さんが紹介しているのは、そんなお年寄りを支えることで、とあるマンション内にコミュニティが生まれたという心温まるエピソードです。

認知症の方を支えることで生まれたコミュニティ

こんにちは! 廣田信子です。

長生き社会は認知症との共存社会、65歳以上の方の4人に1人は認知症かその予備軍ですから、認知症の問題は、誰にとっても「自分ごと」です。そのことは、だいぶ管理組合の皆さんにも浸透してきたように思います。実際、マンションの中にすでに50万人の認知症の方がいると言われます。でも、これは「大変だ」というマイナス面だけでなく、コミュニティへの恩恵でもある…、そう感じさせられた地域包括支援センターの方のお話がありました。

あるマンションに1人で暮らす60代の女性Aさんのことで、地域包括支援センターに遠方に住む妹さんから電話がありました。Aさんは夫と死別して、戸建てからマンションに移って一人暮らし。唯一の肉親である妹さんが電話をしても出ないので、マンションに行って安否を確認してもらえないか…と。

地域包括支援センターの方が、すぐマンションに行くのですが、Aさんはインターホンにも出てくれません。そこで、警察の力を借りて、「Aさん、交番の者です。お元気ですか?」と声掛けをしてもらったところ、ようやく玄関ドアが開きました。

自宅の中はゴミが散乱し、食べ物は腐り、生ごみにコバエがたかっていて、バルコニーにもゴミが溢れていました。どうやって生活していたんだろうという状態ですが、もともとオシャレな方で、身支度だけはきちんとされていたようです。

話はできる状態なのですが、明らかに認知症の症状が見られるので、専門家の診断を仰いだところ、若年性認知症と診断されました。65歳未満で発症したものを若年性認知症といい、進行が早いのが特徴です。

妹さんは、半年前ぐらいには会っていたようですが、はっきり認知症とは気づかなかったようで、急速に症状が進行したのだと思われます。人とうまく話せない自覚があるので、電話にもインターホンにも出なくなっていました。

ゴミ出しができないということに、まず信号が現われます。分別できなくなり、捨てる日が分からないため、ごみが捨てられず、家の中にたまって行くのです。認知症によるゴミ屋敷化は、地域包括支援センターの方によれば、よくあることで、何度も経験していると言います。

ゴミは、妹さんが来て、業者を使って処分し、今後のことを話し合いました。地域包括支援センターの方は、周りの人の話だけでなく、まず本人の気持ちを聞くところがさすがだと思いました。

Aさんは、以前の家は、犬の遠吠えが聞こえて、広い家に一人で暮らすのは怖かったけど、ここの暮らしは安心だ…と、マンションでの暮らしが気に入っているようでした。じゃあ、唯一の親族である妹さんはというと、何しろ、遠くにいるため、何かあっても駆けつけられないので早く施設に入ってもらいたいという意向でした。

で、マンションの理事長さんは、「実は、前々からバルコニーのゴミに対する苦情があって困っていたんです。しかし、Aさんは近所付き合いもなく、どうしたもんか…と思っていたところです。このままにしておいていいとは思わないけど、管理組合としてできることには限界がある…でも、理事会で話し合ってみます…」と。

地域包括支援センターの方の粘り強い働きかけで、まず、理事の方が認知症サポーター講座を受けることから始まりました。認知症を理解すると、Aさんが周りと付き合わないことも、ゴミを貯め込むことも、いろいろルールが守れないことも、みんなが迷惑だとか人付き合いが悪いと感じていたことが、認知症ゆえのことだったんだとわかり、Aさんは一緒にくらしてきた仲間なんだから、できることをしたいという気持ちが居住者の中に沸き上がって来て、自宅で暮らせる限界までAさんをサポートしようということになりました。今まで認知症に気づかずに、迷惑な人だと思っていたことに対するお詫びの気持ちもあったのではないかと思います。

まず、介護保険を利用して基本的な生活をサポートすることにして、管理組合、管理員さん、地域包括支援センター、ケアマネが一体になってAさんのマンションでの暮らしを支えることになりました。住民は、同じマンションの仲間としてできることはなんだろうと考え、Aさんとお茶を飲みながら話しましょうとお誘いしました。Aさんはとても喜んで参加するようになり、自分の話もするようになりました。

Aさんのためにと始めたことですが、これまであまり付き合いのないマンションで、住民同士が集まってお茶を飲みながら話をするという機会が定着しました。回覧板を回しながら声掛けをしたり、料理のおすそ分けをしたりということもごく普通に行われるようになりました。

その後、Aさんの症状が進み、24時間の見守りが必要になり、グループホームに入居することになりました。マンションの皆さんは、Aさんは、きっとマンションに帰りたいと言って、帰ってくるじゃないかと、ハラハラして様子を見ていましたが、そこはグループホームの方もよく心得ていて、上手に、「ちょっと泊まっていく? 泊まってもいいのよ」と言いながら、グループホームになじませてくれ、グループホームで落ち着いて生活されるようになりました

マンションの住民は、ホッとしたような、自分たちとの時間を忘れられるのがちょっと寂しいような、でも、Aさんのために何かをしたというより、Aさんのお蔭で、とても大切なご近所の結びつきをつくってもらったと感じていると言います。誰かのために役立ちたい、自分が必要とされていると思う時、人は、大きな一歩を踏み出せるものですから。

さて、余談ですが、Aさんは、かなりの預金を持っていたはずですが、ほとんど預金はなくなっていたと言います。その代わりに、押し入れの中には、使っていない貴金属や高価な洋服や着物が溢れていたようです。残念ながら、こういう高齢者の心に入り込みものを買わせるという営業もあるのでしょう。

Aさんは、もうそれを悔しいとも思わないでしょうが、遠くにいる親族が気づかず、近隣との付き合いがない一人暮らしの高齢者が認知症の始まりのころに、財産を狙われるというようなことは、当たり前のように起こるのだろうと思います。定期的にご近所の人と雑談する機会って、高齢者には絶対に必要ですね。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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