2020年より現行のセンター試験に代わって「大学入学共通テスト」が導入されます。それについてはこちらでも詳しく紹介していますが、2020年を境に日本の受験戦争はどう変わっていくのでしょうか。メルマガ『他では聞けない教育・受験業界のナイショ話』の著者・尾崎塾長は、大学全入時代になる一方、難関大学や医療系の学部への入学に受験者が集中する可能性を説いた上で、加計学園問題で説明できるという巨大利権が複雑に絡む衝撃的な事実を明かしています。
2020年に日本の「受験戦争」はどうなる?
2020年というと、今の大学入試センター試験に代わる共通テストがスタートする年度ですね。
国語や数学で記述式の問題が出題されるということで、「大きな変化」と見る人もいます。
また、英語では4技能(読む・聞く・書く・話す)を測定するために、民間試験の活用を検討しています。
これらのことから、大学入試に大きな変化があるのでしょうか。
また、世界的に見ると大学入試が非常に激化している国もあるようです。
かつての日本の「受験戦争」と呼ばれるような状態なのでしょう。
一方の日本では「受験戦争」という言葉が使われなくなってきました。
戦争と言えるほど受験が激化していないのでしょうか。
たしかに我々の頃(昭和50年代)はまさに受験戦争と言われていた真っ最中で、浪人生も多かったです。
ところが今の時代は浪人生が極端に減りました。
私が出講している最大手の駿台予備学校でも浪人生が少なくなって、現役高校生向けの授業が増加しています。
ですが、依然として大学進学熱は冷めるどころか予備校はどんどん儲かっているのです。
あまり指摘されていない事実ですが、浪人生の年間授業料がこの数年急騰しているのです。
たとえば駿台のスーパー東大理系EXコースの授業料を見てみると、2013年は705,000円ですが,2017年は765,000円になっています。
なんと4年で6万円も上がっています。
毎年15,000円ちゃっかり値上がり。
それでも受験生(実はその親)はお金を払うのです。
お金がかかろうが、何としてでも東大あるいは医学部に合格したいという熱は依然として冷めてはいないようです。
日本で「受験戦争」を口にしなくなったのはあの「ゆとり」からでしょう。
表向きは過熱した「知識偏重」「詰め込み」などの教育がなくなる方向になったのです。
ところが、学歴信仰は衰えるどころか不安定な世の中において逆に魅力的にさえ見えます。
ちょうど大きな国家間の戦争がなくなってもゲリラ戦やテロというように形を変えて見えにくくなっただけのような話。
水面下ではしっかりと合格に向けてのバトルが繰り広げられています。
2020年の改革によって、それが激化すると考える人もいます。
たしかに共通一次テストが導入された時は受験戦争の象徴として見られていました。
記述式でないマーク式にして、そうまでして大量の受験生を序列化したいのかという論調?
マーク形式と論述の両方の対策をすることで、さらに受験生の負担が増えたようにも見えました。
また、共通一次テストの細かい配点が非公表だった点も受験産業を活気づけました。
大手の予備校が配点を決めてくれて、自己採点することによって、国立大学の合格判定を出してくれるのです。
どの受験生もその情報に飛びつきます。
これは今の大学入試センター試験に引き継がれて、巨大なシステムと化しているのです。
今回、センター試験が廃止され、共通テストという名前でリニューアルということになりました。
国語と数学の一部に記述式問題を入れるというのです。
結局、その採点を誰がやるのかという話になって、どうしようもなくなっているのが現状です。
そのへんのおばちゃんにバイトで採点させるわけにいきません。
利害関係のある学校の教師にさせるわけにはいきません。
予備校の先生がするわけにもいきません。
大学の先生は手がまわりません。
人工知能はまだまだ無理。
結局は人員とノウハウを持つベネッセさんにやってもらうしかないではありませんか。
最初からベネッセありきだったのでは?と勘繰りたくもなります。
もしもそうなれば、ベネッセさんにとっては大チャンスです。
日本最大の試験の採点業務を請け負うわけですから、億単位のお金も入ってくるでしょう。
それだけではありません。
もっと美味しい話です。
採点業務をするわけですから、採点基準はもちろん手に入ります。
さらに、実際にどのような事例が多いのかを具体的に独占的に知ることができるのです。
おのずとその研究をして、対策教材も作成できます。
そりゃ、売れるでしょうねー。
他の予備校なども黙ってはいません。
そのあたりの情報を入手して、各予備校も対策授業などを売りに出します。
すでに今の中学3年生に向けた記述講座を開設した予備校もあります。
受験産業は必死でこの機会を利用して儲けようとしますよ。
すると、空気に流されやすい受験生が煽られて受験が激化するというシナリオは考えられます。
すわ、「受験戦争」の再来か?
落ち着いてよく考えてください。
そうは言っても、一方で政府はどんなことをやっているか。
「少子化対策」
これどういう意味かわかりますか。
子供が少ないって意味です!
それくらいわかっとる?
失礼しました。
でも、そうなんです。
子供は減っています。
大学に入りたい受験生数を大学の入学定員で割った値は1.0を割ってきています。
いわゆる「大学全入時代」ですね。
すると、当然ながら定員割れする大学が出てきて、大学の数が減るのかと思いきや。
大学は増えていたりします。
なぜでしょう?
理由はカンタンで、大学っていうのは定員を満たさなくても儲かるからです。
大学と名がつけば、結構な補助金が入ってきます。
地方の都市に私立大学をつくるとなれば、その地方が誘致のためにいろいろと優遇してくれたりもします。
地方都市にとっては、大学があるとイメージアップし、雇用も生まれるわけです。
学生が来ると活気づくし、お金も落としてくれますね。
地方都市の大学であっても、大学で働きたい人はたくさんいます。
それなりに社会的地位も悪くないのですから。
教員免許も必要ない大学の教員スタッフを集めるのにも苦労しないのです。
そのような大学には、もちろん受験戦争というような勉強をしなくても入れます。
学力が中位から下位の受験層は、ほとんど勉強しないでも大学に入れる時代なのです。
一方、東大や京大をはじめとする旧帝大などの超難関大は全く別です。
依然として超一流の企業はそのあたりの大学出身者を採用します。
学歴信仰と言えばそれまでですが、実際にはトップの大学卒の学生はそれなりに優秀だということでしょう。
そうとなれば、やはりそのあたりの大学に行かないことには超一流の企業に就職できないと考えるのは自然なことです。
もう一つの信仰は医学部です。
多くの開業医はそれなりに年収もあり、世の中に貢献しているというやりがいもあるでしょう。
医者になって多くの人の役に立ちたいという受験生が多くてもおかしくありません。
ですが、実際は医学部が超難関なので、誰でもが目指せる仕事ではないということになっています。
本気で合格したいと思ったら、それこそこの「受験戦争」を勝ち抜かないといけないのです。
このように、今の日本で「受験戦争」と言えるほど厳しい状態なのは難関国公立大や医学部くらいに限定されてきていると見てよいでしょう。
次に、「戦争」とまではいかなくともかなり難しいのはやはり医療系の学部です。
話題の「獣医学部」などもそうです。
これには理由があります。
医療系なのだから、やはり国家資格。
国家資格があれば食いっぱぐれないし、医者と同様にやりがいもある。
たしかに、魅力的です。
受験生も集まって、競争するから難関になる。
それはそうでしょう。
ですが、もっと根本的な問題が隠されていることに、ほとんどの人は気づいていないのです。
今日は、禁断のその事実を書いちゃいましょうか。
奇しくも加計学園の問題でそれがわかりやすくなっています。
あの問題で、朝日新聞とかTBSとか週刊誌の報道は見ない方がいいですよ。
本質からはずれた虚構ばかりです。
それはどうでもよくって、重要なのはどうして長年にわたって獣医学部が新設されてこなかったかという点。
理由は明白で、あの玉木議員のような獣医師会の息がかかった人がいるからです。
ご存知ない人もいるかもしれないので書いておくと、玉木議員は親や親戚縁者が獣医師で、既得権益を守りたいのです。
獣医が増えると、すでに独占的に儲かっていた獣医さんが困るのです。
新たな獣医学部をつぶすためにでっち上げた話が加計学園の認可の話。
現状、獣医学部のある大学はごく限られています。
獣医になる人数もコントロールされているのです。
すでに獣医学部を持っている大学は、他にライバルが増えないように守られています。
学部の設置認可の権利は文科省にあります。
あの、元次官の前川氏のいた文科省です。
文科省は、天下りが禁止されてからも延々と、ノウノウと天下りを続けていた役所です。
そのトップだったのが前川氏。
獣医学部のある大学は文科省の役人の天下り先になっているのでしょうね。
新たな獣医学部の設置認可をしない見返りに天下りを受け入れるというのは典型的な構図です。
おのずと、定員の少ない獣医学部の偏差値は上がって、その大学の評判もよくなるでしょう。
話はそこで終わりません。
全く同じ構図は、他の薬学部や歯学部、そしてもちろん医学部にも成立します。
どの学部も偏差値が高いです。
だって、設置認可がされないので、なりたい人は限られた既設の大学を受けるしかないのですから。
文科省はもちろん、医療系だと厚労省の役人も天下りできるわけです。
獣医学部だと農水省も天下りできます。
官僚たちはこんなに旨みのある状態を変えたくないわけですよ。
つまり、なんと日本の受験戦争の根本的な原因は「役所の天下り」だったというわけです。
そのような状況で獣医学部が50年ぶりにつくられることになりました。
また、千葉県には38年ぶりの医学部がつくられました。
これってすごいことなのですよ。
今まで文科省は設置認可権をパックに、多くの大学や医療業界の既得権益を守ってきたのです。
その見返りにお役所の天下り先を確保するというのが鉄板の構図。
かしこい官僚がやることですから、従来はめったなことではその岩盤はくずせなかったのです。
ところが、第一次安倍政権がつくった天下りの監視委員会はそこまで踏み込んでいるのですよ。
ちゃんと市場が開放されていて、まっとうな競争原理がはたらくように変わろうとしているのです。
2020年の共通テストに話をもどすと、英語の4技能を測るのは難しいことから、民間の検定などを活用するらしいです。
この2020年の改革を思いついた段階では、文科省は天下りしまくっていたわけです。
すると、民間活用案も民間の団体に恩を売ることで天下り先を確保できるというスケベ心からの案だと思えてきますね。
ところが、監視委員会がこの調子で頑張ると、本当に天下りがなくなっていくかもしれません。
すると、おかしな構図で難化していた医療系の入試難易度が下がってくるはずです。
受験の難易度などというのは、実は教育現場とは全然関係ないところで決まっていたりするのですよ。
文科省の省益をベースにしたのが2020年の入試改革です。
その目論見がはずれることで、逆に2020年が正常な入試制度に変わる元年となるかもしれません。