【書評】脳梗塞になったらどうなる?ルポライター渾身の闘病記

shibata20180124
 

脳卒中の大半を占め、冬場に多いとされる脳梗塞。男女を問わずケアすべき疾患ですが、その前兆や発症時にはどのような感覚に襲われ、そしてどのようなリハビリで回復を目指すのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、脳梗塞に倒れたルポライターが綴った渾身の闘病記。「読む予防薬」としても機能してくれそうな一冊です。

shibata20180124-s脳が壊れた
高鈴木大介・著 新潮社

鈴木大介『脳が壊れた』を読んだ。41歳で脳梗塞に襲われたルポライターによる、いわば「セルフ取材の闘病記」である。脳にダメージを受けた人は世界が具体的どう見えているのか、今まで聞いたことも読んだこともない。なぜなら、当事者はそれを表現できないからだ。

ところが著者は、障害が軽度であったため、自分が発症直後から今日までの経過を客観的に観察できた。さらに、それを文章化することもできた。さすがはワーカホリックのルポライター魂である。

前兆はあった。妙な胸の動悸時折訪れる偏頭痛寝苦しさ日中の睡魔だ。「俺もそろそろ過労死する」と妻に宣言していた矢先。突然、しゃべれない、指も動かない、視界はグニャグニャになった。歩行はできたが、確実に脳のトラブルだと自己診断し、眠っていた妻を起こし以前から知っていた地域の脳外科急性期病院に連れていってもらう。

MRI検査の結果、右側頭葉のアテローム血栓性脳梗塞と判明した。動脈硬化でできた血栓が太い脳血管に詰まったものだ。損傷した脳細胞は不可逆(死滅してもう二度と復活しない)だが、まずは入院して再発を防ぐ処置をしつつ、可能な限り早くリハビリを始めることになった。発症から数日間は、記憶も飛び飛びで、ただただ非現実感と違和感の中にあり、異常な認識に恐怖する感覚も麻痺していたという。

著者がこうなって初めて実感したのは、自分が挙動不審に見えると分かっていてもその行動をやめられないつらさ、苦しさで、非常にフラストレーションがたまることだった。それまでの取材活動の中で、多くの発達障害者に出会ってきたが、初めて我が身をもってリアルな彼らの当事者意識を理解できるようになったのかもしれないと思う。

ならばこの経験は、そうして面倒くさくて語る言葉を持たない社会的弱者の代弁者になりたいと思い続けてきた僕にとって、僥倖にほかならないではないか。(略)この当事者感覚を得つつ、感じ、考え、書く能力を喪失せずに済むなどという経験は、望んで得られるものではない。

ならば、書くのが自分の責任だ。それが使命だ。というのはカッコいいが、本音は自分自身のために必要な言語化だ。脳梗塞を患っても中身の本質は変わらないし、性格が変わったのでもない。「まずは周囲に対して僕自身をわかってもらうため、自己弁護のために、言語化のトライアルは始まった」が難航する。

print
いま読まれてます

  • 【書評】脳梗塞になったらどうなる?ルポライター渾身の闘病記
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け