元ブラック企業の社長が懺悔の気持ちで築いた「介護の理想郷」

 

従業員も客も幸せに~笑顔あふれる介護施設

そんな筒井の転機となったのが、「利用者12名の小さなデイサービスから始まりました」という介護事業だった。知人に頼まれて2000年、たんぽぽデイサービスの社長を引き受けたのだ。

とはいえ介護はまったくの素人。筒井は経験の豊富なスタッフを雇ったが、これが問題となる。例えば食事。介護に慣れ切ったスタッフは笑顔一つ見せない。利用者を客と思わないから、ぞんざいに扱う。だから利用者に笑顔など浮かぶはずもなかった。

さらに病院などから依頼があった利用者の受け入れも、止まったままだった。面倒な利用者はいやだと、勝手に選り好みをしていたのだ。

「そういうプロといわれる方の仕事の進め方に納得がいかなかった。技術的ノウハウやスキルはなくてもいい。まずは利用するお客様に親切丁寧に対応していこうと思った」(筒井)

筒井は素人ばかりの集団で再出発することにした。そして「従業員も客も幸せにすると誓ったのだ。

それから18年。たんぽぽ介護センターは日本最大級のデイサービスへと成長した。たんぽぽグループのスタッフはおよそ600人。その9割がパートで、しかもほとんどが介護の仕事は未経験だったという。

2ヵ月前からスタッフに加わった内海実香も、やはり介護は全くの素人。指導するのはパート歴8年の藤村真理。新人には先輩がマンツーマンで1から10まで教えていく。この日は機械を使った入浴方法を指導。器具の操作はもちろんだが、大事なのはお客を安心させる接し方だ。

「とても細かく教えていただけるので、わからなくなることを怖がらずに仕事に挑めていると思います」(内海)

別の日、「たんぽぽ」にやってきたのは出産で休職していた北野まい。1年ぶりの出社になる。「子どもを預けられるから、働きやすい」と、復職を決めたのだという。

「たんぽぽ」には託児所が用意されている。利用料は1日500円で、出勤から退社まで預けることができる。社内に託児所を設けたこともあり、最近の復職率は100%だという。

働く主婦を応援する「たんぽぽ」は、子連れ出勤も認めている。この日来ていたのは、青木赳道君(小学4年生)。赳道君は、学校が休みの日にはここでお手伝いを買って出ている。高齢者と接することで、ちょっぴり成長しているようだ。

「嬉しいですね、家とは違う表情をするので。自分の子どもの新しい一面を発見できました」(母親の寿江さん)

働きやすい環境があるからこそ、スタッフとその家族、そして高齢者も笑顔になれるのだ。

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生涯現役を目指そう~介護予防プログラムも

たんぽぽ温泉デイサービスで、フラダンス教室が行なわれていた。これはまだ介護は必要ではないシニアに向けた介護予防のプログラム。地域の人たちに、少しでも長く健康で自立した生活をおくってもらうという取り組みだ。

フラダンス以外にも体操や空手といったアクティブなもの、さらに手先を使うクラフト教室など、様々な介護予防プログラムを行なっているのだ。

たんぽぽグループの別の施設、「たんぽぽデイサービス森本」では、地域住民を招待して15周年の感謝祭が行なわれていた。遊びにひかれて子どもたちが集まると、その後ろには付き添いの親たちが。親の介護が身近となった世代に施設を知ってもらうのが狙いだ。

そして施設の見学会では、普段は縁遠い介護の現場を実際に見てもらう。そこには生き生きとした高齢者の姿があった。

伊藤ひろみさん(69歳)は、たんぽぽ温泉デイサービスのボランティアスタッフ。今ではすっかり元気になったが、かつては持病のリウマチが悪化して、車椅子生活に。だがここで3年間、懸命にリハビリを行い、みごと回復。その恩返しにと、週1回無償でお手伝いに来ている。

「友達もできたし、楽しいです。いろいろな人と話しができて。まだ頑張っている人が励んで、『お互いに頑張ろうね』と言えるじゃないですか。それでちょっとでもお役に立てばと思って」

伊藤さんの宝物は、介護が必要でなくなったときに筒井から贈られた卒業証書。「伊藤さんのような人を一人でも多く」というのが筒井の願いだ。

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