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北朝鮮へ「過去最大の制裁」。米国が仕掛けた、五輪直後の駆け引き

平昌五輪が閉幕し、世界中がまた日常に戻りつつありますが、この時期に合わせたように米国が再び北朝鮮への圧力を強め始めました。これを受け、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で世界情勢に詳しい北野幸伯さんは、「3月に入るとパラリンピックが始まるので再び対話ムードになりそうだが、3月18日以降からはまた荒れそうだ」と推測し、その理由について米政府要人の発言などを引きながら詳述しています。

平昌オリンピック閉会で、米国は再び対北圧力を強める

感動が多かった平昌オリンピックも終わりましたね。そのせいか、アメリカが再び北朝鮮への圧力を強め始めました

思い出してみましょう。1月1日、金正恩は、二つの重要な声明を出しました。一つは、「アメリカ本土を核攻撃できるICBMを実戦配備した」。もう一つは、「韓国と対話したい。平昌五輪に代表を送る用意がある」

それまでの構図は、以下でした。

北朝鮮は、「もはやアメリカ本土を核攻撃できる」ということで、「対話派に転じた。つまり、「アメリカは、もはや北朝鮮を攻撃できない。北の核保有を認め、体制を保証し、制裁を解除しなさい!」と(米国防総省は、「北は、まだアメリカ本土を攻撃できない。しかし、年内には可能になる」としています)。

韓国は、日米と共に「圧力派」でしたが、金正恩の声明を受けて寝返りました。そして、実際対話は再開され、北の代表団が平昌五輪に参加した。

ちなみにトランプさんも、「対話に賛成だ」といいました。「平和の祭典オリンピックをぶち壊した男」といわれたくなかったのでしょう。しかし、オリンピックは終わりました。それで、アメリカは再び圧力を強化し始めました。今日は、二つの事実をご紹介します。

イバンカ、韓国を訪問

トランプの美人娘で大統領補佐官のイバンカさんが、韓国を訪れました。毎日新聞2月24日。

【ソウル大貫智子】平昌冬季五輪閉会式(25日)出席のため、米国のトランプ大統領の長女、イバンカ大統領補佐官をトップとする代表団が23日、訪韓した。仁川国際空港到着後、ソウルに向かい、青瓦台(大統領府)で文在寅大統領と約40分間会談し、夕食会に臨んだ。イバンカ氏は26日まで韓国に滞在。24、25両日は平昌で米選手団を激励したうえで、閉会式に出席する。

早速、文さんと会談したのですね。何を話したのでしょうか???

韓国側の発表によると、会談で文氏は「北朝鮮の核を認められないという意思が最も強いのは韓国だが、過去25年間の韓米両政府の努力は成功しなかった」と述べ、五輪を機に新たに醸成された南北対話を非核化のための米朝対話につなげたいとの考えを表明。イバンカ氏は「北朝鮮に対する最大限の圧迫のため、両政府が共に努力している効果が出ている」と圧力の重要性を強調した。
(同上)

文さんは、何を言っているのでしょうか?

と。「過去25年間の努力」とは、「25年の圧力」という意味でしょう。「圧力で成功しなかったから今度は対話で試そう」という論理です。

皆さんご存知のように、現実は逆ですね。アメリカは新世紀に入って、アフガン、イラク、リビア、シリアなどを攻撃しました。しかし、北朝鮮に対しては、クリントン、ブッシュ(子)、オバマと「甘甘」で、今の悲惨な状態に至ってしまった。文さんのいうように「圧力」で失敗したのではなく、どう考えても「対話で失敗したと言えるでしょう。これに対してイバンカさんは?

「北朝鮮に対する最大限の圧迫のため、両政府が共に努力している効果が出ている」。つまり「圧力の効果が出ている」と。こちらも微妙ですが。少なくとも(対話派の中ロも含む)国際社会を巻き込んで制裁が強化されているのはいいことです。

アメリカ、対北朝鮮制裁を強化

一方、アメリカ政府は同日(23日)、「対北朝鮮制裁強化」を発表しました。毎日新聞2月24日から。

【ワシントン高本耕太】米政府は23日、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する、新たな追加独自制裁を発表した。北朝鮮への石油や石炭の海上密輸に関与した計56の海運・貿易会社、船舶、個人が対象。トランプ米大統領は東部メリーランド州で演説し「一国に対する過去最大の制裁を科した。前向きな効果を望んでいる」と述べた。

一国に対する過去最大の制裁を科した」そうです。日本に対する「ABCD包囲網」の方が厳しかった気もしますが。

制裁対象となったのは、北朝鮮のほか中国、香港、シンガポールなどに拠点を置く海運・貿易27社▽パナマやタンザニア船籍などの船舶28隻▽1個人。今回の制裁で米国内資産を凍結され、米国人とのいかなる取引も禁じられる。ムニューシン財務長官はホワイトハウスでの記者会見で、制裁は「世界各国、企業への警告だ」と指摘。「北朝鮮と取引する者は代償を覚悟すべきだ」と述べた。
(同上)

ポイントは、ムニューシンさんの言葉。

「世界各国、企業への警告だ」
「北朝鮮と取引する者は代償を覚悟すべきだ」

ですね。つまり、北朝鮮と取引する人企業は罰せられると。他の国々と取引できなくなったり、資産を没収されたり、銀行口座が閉鎖されたり、などなど。こういう脅しはかなり効果があると思います。衰えたとはいえ、アメリカのパワーは、強いです。アメリカが日本、欧州を巻き込むことに成功すれば、北朝鮮を支援する企業は、「世界GDPの50%以上から制裁される」ことになります。

それでも、北朝鮮が核兵器を放棄することはないでしょう。「放棄すれば、フセイン、カダフィと同じ運命が待っている」と、金正恩が信じているからです。

平昌パラリンピックが「対話派」の追い風

このまま、北への圧力は強まっていくのでしょうか? どうも、長くは続きそうにありません

3月9日から18日まで、今度はパラリンピックが開催される。また「平和ムード」「対話ムード」が強まりそうです。この期間、金正恩は、せっせと「アメリカ本土を核攻撃できるICBM」の開発に励んでいいることでしょう。しかし、3月18日以降はまた荒れそうです。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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