ネット通販が主流になりつつある現在、商品を差別化するのが難しい小売業界では「価格競争」が激しくなり、結果として売り上げが伸びないという負のスパイラルが生じています。そこから脱するにはどうすればいいのでしょうか。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者で元アマゾンジャパン社員という経歴を持つMBAホルダーの理央さんが、売れ行き好調の「ロハコ」にスポットをあてて、そのヒントを探ります。
売れ行き好調アスクル「ロハコ」はなぜメーカーから引っ張りだこなのか?
アスクルロハコの顧客視点
アスクルがYahoo!と組んで運営している個人向けネット通販のブランド、「ロハコ」が元気だ。
ロハコは、サイトの名称だが、食品や、日用消費財のメーカーが、そのナショナルブランドを、「ロハコ」オリジナルのデザインでのOEMで出す商品の販売数が伸びているため、各メーカーも、次々に商品を投入しているとのこと。
メーカーがロハコに群がる理由
なぜ、メーカーはロハコに商品を投入したがるのか?
まずは、前述の通り「売れる」から。
競争が激しい、日用消費財の、さらに競争が激しいEコマースの世界で、なぜ売れ続けているのだろうか?
2018年3月2日の日経MJの記事にある、花王の消臭剤「リセッシュ除菌EX」の事例で、考えてみる。
以下、記事より抜粋。
1. 製品自体は、どこのスーパーにもある定番商品
2. 価格も20円ほど高い
3. 菌・ニオイを元から撃退 という謳い文句がない
4. リセッシュという商品名も小さい
5. 全体はグレーを基調とする落ち着いた色使い
もう一例、花王の「ビオレu 泡ハンドソープ」も、同様のデザインだが、通常より70円高い価格で、販売されているとのこと。
Eコマースではどうしても価格勝負になるところを、ロハコではデザインの質を中心に、高めの設定でも支持を得ている、ということが言える。
ネット販売をする者にとって、価格競争は悩みの種なのだが、ロハコでは逆に高めに売っているのだ。
価格ではないデザイン性で勝負できている理由として、記事に書かれているのが実際のユーザーの声。
「お気に入りのものなら20円高くても気にならない」ということだ。
ロハコはターゲットを、「同じ商品なら1円でも安い方がいい」という価格コンシャスな人ではなく、「気に入ったものなら少しくらい高くてもいいから欲しい」という価値観を持った人に設定しているのだろう。功を奏していると言える。
メーカーの立場から考えると、ナショナルブランドとしてリアル店舗やネットで販売すると価格競争になりがちなところ、販売数も稼いでくれ、さらに若干高く売る(値崩れをしない)ロハコに魅力を感じるのであろう。
もう1点、新商品のテストマーケティングができる、という点がメーカーにとっては魅力的だとのこと。
記事には、ミツカンの「ゆず風味ポン酢」の事例が紹介されているが、私も経験したことがあるのだが、画期的な商品だとその分上司の抵抗が予想される。
特に、全国展開に踏み切ることは難しい。
Eコマースであれば効果測定もできる上、ロハコのように自社ブランドが前面に出ないケースでは想定されるリスクも低いため、リアル店舗と比較するとテストマーケティングに向いていると言える。
このようにロハコは、ユーザーも、ロハコも、製品を供給するメーカーにとっても有益な売りの場、すなわち三方よしと言える。
私たちはロハコから何を学ぶべきか
アマゾンの台頭や新しいサイトが続々登場する中で、小売業を取り巻く環境は一層厳しくなっている。
中でも、価格競争は避けて通れないという状況になりがちだ。
しかし、このロハコにおいては現段階では上々の滑り出しを見せている。
私たちはロハコに何を学ぶべきなのだろうか。
まず、ターゲット層を明確にすること。
その際に、年齢や性別といった旧来の考え方にとらわれず、ターゲット層が何を欲しがっているのか、という彼ら・彼女らの「価値観」を軸に想定をしていくべきだろう。
次に重要なことは、顧客が欲しいものは何か?を、今一度考え直してみることだろう。
先述のリセッシュのケースで考えてみると、ターゲット層は20〜40歳代の女性の中でも、価格ではなく心地よさを大事にする人となる。
また、欲しいのは「匂いを取る」という機能的な側面だけでなく、さらに「部屋に置いておいてもいい気持ちになれる」「タンスの中でも自己主張しない」といったデザイン性が合わさり、ブランドマネジメントでいうところの、顧客が感じる「自分との関連性=アソシエーション」が強まり、数多くある消臭剤の中から、選ばれるブランドになるのだ。
では、このような発想が出てくるにはどうすれば良いのだろうか?
ターゲット層を考える際に、年齢や性別、職業といった属性的なところで分けることは、過去のデータなどで規定していくことができる。
しかし、顧客が欲しい付加価値は何か?ということは目に見えないし、顧客も自分では分かっていない、顕在化していない欲求になるため、リサーチなどで聞いてみても、出てくるものではない。
このような潜在的なニーズを発見するには、顧客観察をして、仮説を立て、検証してみる、というステップを踏む方法がある。
あなたがカフェのオーナーで、アラサーOL向けのスイーツを開発したいとする。
彼女たちに「どんなメニューが欲しいですか?」と聞くのではなく、まずは、「いちごには飽きているはずなので、色鮮やかで、これまでにあまり使われていないオレンジが受けそう」と仮説を立ててみる。
次に、「試食会」など催して実際に食べてみてもらい、その様子を観察することで検証する。
観察している中で、自分の仮説が正しかったかどうかということに加えて、想定外のこと、例えば、「酸っぱいのが生クリームにぴったりで、意外と美味しいよね」などという、「自然に」会話の中に出てくる、ちょっとしたコメントをヒントにする。
これこそが、ユーザーの本音なのだ。
中には、顧客観察ができない業態の場合もある。
私もEコマースのマーケティングマネージャー時代に、深夜に若年層が購入する際の行動を知りたかったのだが、「ちょっと買っている様子を見せてください」と言って、深夜にお邪魔することもできない。
このような場合は、顧客の疑似体験をすることで、顧客観察の代替とすれば良い。
上記の例で言えば、3人くらいで手分けして、顧客になったつもりで同じ日時に同じ商品を、自社と競合他社のサイトで購入してみる。
そして翌日、その顧客体験を共有する。
「私はアマゾンで買ってみたけど、さすがアマゾン、買いやすさが抜群だね」
「楽天市場のこの店では、見つけにくいけど、そのあとのポイントがなかなかいいですよね」
などといった具合だ。
これで、顧客観察と似通った効果を得ることができる。
いずれにしても、顧客が何を考えているのか、本当に欲しいものは何か、あなたが売りたいものとの「ギャップ」は何か?を常に自問自答することで、答えが見えてくる。
image by: LOHACO アプリ公式(Google Play)