先日イギリスで起きた「元ロシア・スパイ殺人未遂事件」。英国当局は即座にロシアの仕業だと断定、それに追随する欧米25カ国が「ロシア人外交官追放」を決定しました。この動きに対して、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんは、「外交官追放の真の理由は、先日プーチンがアメリカを核攻撃するシミュレーション映像を流したことにあるのでは?」と推測しています。
「欧米25カ国が、ロシア外交官を追放!」の裏側
日本では、「米中貿易戦争」とか、「金正恩が訪中して習近平に会った」ことなどが話題になっているでしょう。一方、西部戦線では、「欧米25か国がロシア人外交官追放」を決め大騒ぎになっています。なぜ追放するの???
【元ロシア・スパイ】20カ国が露外交官を追放 史上最大規模
BBC NEWS 3/27(火)12:20配信
米国や欧州連合(EU)加盟国が26日、相次いでロシア外交官の国外追放を発表した。今月4日に英南西部ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)にロシア製の神経剤が使われたとされる殺人未遂事件に関して、英国が駐英ロシア外交官23人を追放したことに追随するもの。これまでに20カ国以上が国外追放を表明し、対象者は100人超に上っている。ロシアの情報部員を対象とした国外追放としては過去最大となる。
最近の事件なので、皆さん覚えておられることでしょう。3月4日、イギリスで、スクリパリさんと、娘さんが重体で見つかった。スクリパリさんは、ロシアの元スパイ。しかし、ロシアを裏切り、イギリス諜報機関に情報を提供していた。要は、「ダブルスパイ」だった。ロシアでは、「裏切り者」「売国奴」として有名。そんな人物の殺人未遂。イギリスは、即座に「ロシアの仕業だ!!!」と断定しました。それが、今回の「外交官追放」につながっていく。
しかし、なぜイギリスだけでなく他の国も外交官を追放するのでしょうか? 問題は、殺人未遂に使われた道具。ロシア製の神経剤「ノビチョク」が使われたと発表されている。「神経剤」といってもよくわかりませんが、「化学兵器」です。スクリパリと娘だけでなく、周辺500人が影響を受けたとされる。それで、「ロシアは、NATO加盟国イギリスを、化学兵器で攻撃した!!!」という論理なわけです。
BBCの記事には、「どの国が何人外交官を追放するか」リストが出ています。
- 米国:60人
- EU加盟国
フランス、ドイツ、ポーランド(各4人)、
チェコ、リトアニア(各3人)、
デンマーク、オランダ、イタリア、スペイン(各2人)、
エストニア、クロアチア、フィンランド、ハンガリー、ラトビア、ルーマニア、スウェーデン(各1人)- ウクライナ:13人
- カナダ:4人を追放したほか、3人の新規受け入れを拒否
- アルバニア、オーストラリア:各2人
- ノルウェー、マケドニア:各1人
この記事が出た時点では、20か国となっていた。しかし、さらに5か国増え、結局25か国がロシア外交官を追放するそうです。
アメリカは、60人追放。これは、ロシアにとって痛かったことでしょう。トランプは先日、プーチンに電話して、「大統領選勝利おめでとう!」といった。彼の顧問、補佐官は皆、「祝うな!」と助言したにも関わらず、独断で決めた。それでロシアは、「やはりトランプは、親ロシア、親プーチンだ!!!」と喜んでいたのです。ところが、今回は、なんと60人の外交官を追放…。
スクリパリは、外交官追放「真の動機」ではない
しかし、この話、よく考えると「変」なのです。皆さん、スクリパリさんを殺そうとしたのは、「ロシアで確定だ!」と思っているでしょう??? 実は、まだ確定していないのですね。たとえば、日本は、この「外交官追放運動」に参加してません(「安倍はアメリカ追随論者」の人たちに教えてあげてください。全然追随してません)。なぜ追随しないのでしょうか? その理由は、こちら。
ロ外交官追放、同調せず=日本政府
時事 3/27(火)11:59配信
英国で起きた元ロシア情報員暗殺未遂事件への対抗措置として米国や欧州連合(EU)各国がロシア外交官の追放を決めたことに関し、河野太郎外相らは27日、「事実関係の解明が先だ」と強調し、日本政府としては当面、同調しない方針を示した。
どうですか、これ???? 河野さんは、「事実関係の解明が先だ!」と言った。別の言葉で、「まだ事実関係は解明されていない!」ということでしょう? ということは、欧米25カ国は、「犯人はロシアかどうかわからないが、とりあえずロシアということにして、外交官を追放しよう!」と決めたことになります。なぜ????
プーチン、教書演説の「脅迫」が原因?
「犯人は、まだロシアと断定できない」
「しかし、ロシアということにして、外交官を追放する」
ここまでは、はっきりした「事実」です。では、「25か国が外交官を追放する」「真の動機」は何なのでしょうか? 残念ながら、ここからは「推測の領域」に入っていきます。
まず、2014年3月の「クリミア併合」が動機ではありません。確かにこの事件の後、ロシア制裁が科され、徐々に強化されている。しかし、併合から4年間で、今回ほど大々的で目立つ制裁はありませんでした。ですから、「プラスアルファ」の要因があるはずです。
私が思う理由は、こちらです。プーチンは3月1日、年次教書演説をした。その際、アメリカを【核攻撃】するシミュレーション映像を流した。
「フロリダ州を核攻撃」のビデオ、プーチン大統領が演説に使用
CNN.co.jp 3/2(金)10:40配信
(CNN) ロシアのプーチン大統領は1日に行った演説の中で、無限射程の核弾頭が、米フロリダ州と思われる場所を狙う様子をアニメーションで描写したコンセプトビデオを披露した。フロリダ州には米国のトランプ大統領の別荘がある。
もう少し、詳しく見てみましょう。
プーチン大統領は演説の中で、極超音速で飛行でき、対空システムも突破できる「無敵」ミサイルを誇示。「ロシアやロシア同盟国に対する核兵器の使用は、どんな攻撃であれ、ロシアに対する核攻撃とみなし、対抗措置として、どのような結果を招こうとも即座に行動に出る」と強調した。プーチン大統領が披露したビデオでは、何発もの核弾頭が、フロリダ州と思われる場所に向けて降下している。
(同上)
BBCには映像の一部がありました。
● プーチン氏「無敵」新型ミサイル発表、CGでフロリダ攻撃?
これ、欧米は、「プーチンが、俺たちを【核】で恫喝している!」と受け取りました。いってみれば、「プーチンは、金正恩と同じことをしている」と認識された。それで、「プーチンを罰する必要がある」との「共通認識」が生まれた。そんな折、「スクリパリ暗殺未遂事件」が起こった。イギリスは即座に「ロシアの仕業だ!」と断定し、プーチン演説に怒っていた欧米諸国が捜査の結果を待たずに同調した?
これが私の推測です。皆さんは、どう思われますか?
欧米は、プーチン政権打倒を決意している?
トランプさんが「親ロシア」「親プーチン」であるにも関わらず、欧米とロシアの関係は、ますます悪化している。欧米のエリート(支配層)は、「プーチン打倒」を決意したように見えます。欧米の対ロシア制裁は、ますます強化され、ロシア経済は、ますますボロボロになっている。
3月18日に大統領選挙があり、プーチンは圧勝した。しかし、プーチンにとってもロシア国民にとっても、「苦しい6年」が始まりました。欧米 対 ロシアの戦いが、大きな戦争に転化しないことを願っています。
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