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複数の年金を貰える権利があっても一つの年金しか受給できない?

遺族年金や障害年金などを受給している人は、自分自身の年金を貰う年齢になった場合、たった1種類の年金しか受給できなくなることを知っていますか? 今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者のhirokiさんがとてもややこしい「年金の併給」について詳しく解説しています。

過剰な社会保障になるから複数の年金を貰える権利があっても原則として一種類の年金しか受給できない

60歳代が近づくと大抵の人はなんだかんだ言って年金はとても重要な関心事になってくると思いますが、だいぶ前から遺族年金や障害年金などを受給してる人ももちろん何百万人単位でいます。そういう人が今度は自分自身の老齢の年金を貰うようになる場合は、ダブルもしくはトリプルで貰えるのでしょうか

昭和60年の年金大改正により、そういう事は明確にダメとなって一人一年金というのが原則です。つまり複数の年金の受給権があっても一つの種類の年金を選んで受給してくれって事です。過剰な社会保障になってしまうから。老齢基礎年金と老齢厚生年金遺族基礎年金と遺族厚生年金障害基礎年金と障害厚生年金みたいな同じ種類の場合は同時に貰える。

よって、60代になり、そろそろ自分の老齢の年金を貰おうかなーという時期が近付いてくると今貰ってる障害年金や遺族年金と合計したらこのくらいの金額になるね! とか考えてしまう人もいますが、それは「一人一年金の原則」というのがあるから不可であります(笑)。じゃあずーっとそうなのかというと、65歳以上になればそうでないものもある。というわけで年金の併給について復習してみましょう。

じゃあ事例。

1.昭和23年7月5日生まれの男性(今生きてるとすれば69歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!
話し始め早々ですがこの男性は平成8年5月31日に死亡したものとします(6月1日に厚生年金資格喪失のため、5月までが年金期間)。

この男性の年金記録。20歳になる昭和43年7月から専門学校に通い昭和45年5月までの23ヶ月は国民年金に強制加入。この23ヶ月は納付した(平成3年3月までの学生は国民年金には強制加入ではないがそれは昼間学生に限る。なお、専門学校や専修学校は昭和61年4月以降は任意加入になった。保険料納めないならカラ期間)。

昭和45年6月から平成6年1月までの284ヶ月は国民年金保険料を全額免除した(この部分は将来の老齢基礎年金の3分の1に反映)。平成6年2月から死亡する平成8年5月までの28ヶ月は民間企業にて厚生年金加入。この間の平均標準報酬月額(簡単に言うと給料の合計額を平均したもの)は40万円とします。なお、今の妻とは昭和58年6月に婚姻

じゃあ今回の本題である妻。

2.昭和33年5月1日生まれの妻(今は60歳)

日本国籍だが国民年金強制加入となる20歳に到達する昭和53年4月(5月1日生まれだから5月ではなく4月が年齢到達月)から昭和57年10月までの55ヶ月は海外に在住していた。この期間は国民年金には加入不可で、また、国民年金に任意で加入も不可でしたがカラ期間にはなる(昭和61年4月からは海外在住者でも任意加入可能にはなった)。

昭和57年11月から平成8年5月までの163ヶ月は国民年金保険料を納めた。平成8年6月から平成15年3月までの82ヶ月は未納。平成15年4月から平成28年10月までの163ヶ月は厚生年金加入。この期間の平均標準報酬額(簡単に言うと給与と賞与の合計額の平均)は30万円とします。平成28年11月から60歳前月である平成30年3月までの17ヶ月の国民年金強制加入期間は未納とします。

ちょっと先にこの妻が老齢の年金の支給開始年齢である61歳からの老齢厚生年金を計算する。

さて次に、この妻は平成8年5月に厚生年金加入中の夫が死亡した事により随分前から遺族厚生年金が支給されていた。平成8年5月時点の妻の年齢は38歳ですね。

まず遺族厚生年金額→40万円÷1,000×7.125×300ヶ月÷4×3=641,250円(便宜上金額は全て平成30年度価額にしてます)。夫の厚生年金期間は28ヶ月しかないですが、厚生年金加入中の死亡は300ヶ月で計算だから300ヶ月。

次に、この妻が40歳に到達したら、その到達月の翌月から中高齢寡婦加算584,500円が加算される。

※注意

今の中高齢寡婦加算は夫死亡時点で妻は40歳以上である必要がありますが、平成19年3月31日以前の死亡は妻が35歳以上の時の夫死亡であれば40歳から支給となっていた。だから、40歳からは妻の遺族年金は遺族厚生年金641,250円+中高齢寡婦加算584,500円=1,225,750円(月額102,146円)、これをずっと受給していたわけです。

また、この死亡した夫には25年以上(平成29年8月以降は10年以上で可)の国民年金第1号被保険者として国民年金保険料納付期間(申請免除期間でもいい)があり婚姻期間が10年以上あります。だから、遺族年金の受給権が発生した時に同時に寡婦年金の受給権も発生した。この寡婦年金は妻が60歳から65歳になるまでの有期年金。

※注意

このすでに亡くなってる夫の国民年金保険料納付期間が36ヶ月以上あれば寡婦年金ではなく死亡一時金という一時金を貰う選択」ができましたが、この夫には23ヶ月の納付期間しかないから一時金は無し。全額免除期間や、厚生年金期間とか第三号被保険者期間などは死亡一時金の36ヶ月以上の期間の中に算入しない。

ここでそれぞれの年金を整理すると、この妻は遺族厚生年金と寡婦年金と妻自身の老齢厚生年金が貰えることになりますよね。60歳からは遺族年金と寡婦年金の支給がダブりますが、もちろん一つの年金を選択して受給する事になる。明らかに、遺族厚生年金貰ったほうが得だからこちらを引き続き貰う。

じゃあ妻自身の老齢厚生年金が支給される61歳になるとどうなるか。ここももちろん選択で、遺族厚生年金が明らかに金額が有利。そのまま遺族厚生年金を貰い続ける。

問題は65歳から。そういやこの妻は結局寡婦年金を貰う事はできませんでしたね…^^;。65歳になると遺族厚生年金と自分の老齢の年金が貰えるようになる。しかしまず、中高齢寡婦加算584,500円が妻の65歳到達を機に消滅し、遺族厚生年金641,250円のみとなる。また、妻自身の老齢厚生年金268,021円も貰えるが、その金額分が遺族厚生年金から引かれる。だから、遺族厚生年金額は641,250円-268,021円=373,229円として支給。

最後に計算するのは妻自身の老齢基礎年金額。

つまり、65歳からの妻の年金総額は遺族厚生年金373,229円+老齢厚生年金268,021円+老齢基礎年金529,274円=1,170,524円(月額97,543円)。

65歳前より年金総額が低くなってしまいましたね…。人によってはこのように65歳以降は年金総額が減ってしまう場合があります。

※追記

この妻は65歳以降の年金総額が減らないようにすることはできないのか?

今の老齢基礎年金は326ヶ月で計算されてますよね。中高齢寡婦加算の額は584,500円でしたが、これは老齢基礎年金の4分の3の額を表します。つまり国民年金保険料納付済期間が360ヶ月以上になればいい。

だから、360ヶ月までには34ヶ月足りない。

まず平成30年5月時点で、国民年金保険料の時効になる過去2年1ヶ月以内(この妻なら平成28年11月から平成30年3月までの17ヶ月の滞納期間)を納める。そして、60歳に到達する月分から65歳到達月の前月の60ヶ月分は最高で国民年金保険料が任意で納められるから、市役所や年金事務所で任意加入を申し込む(この任意加入時に合わせて月額付加保険料400円を払う事で付加年金も市役所で申し込める)。

付加年金(日本年金機構)

過去の直近の未納分17ヶ月と最高60ヶ月任意加入で納めれば77ヶ月分の老齢基礎年金が増えるから、まあそうなれば326ヶ月+77ヶ月=403ヶ月の期間となる。

最大403ヶ月という事になれば、老齢基礎年金は779,300円÷480ヶ月×403ヶ月=654,287円となり65歳前の年金額をかなり超える。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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