5月11日に国交省が発表した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」。一戸あたりの具体的な費用負担額等が記載されているとあって、早くも各方面からさまざまな声が上がっています。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、「あまりこの数字に拘り過ぎるのも好ましくない」とした上で、大規模修繕の「基本」について記してくださっています。
大規模修繕工事「戸当たり75万円~100万円」?
こんにちは! 廣田信子です。
5月12日の朝日新聞朝刊に 、「マンション修繕、割高に注意」「75万円~100万円最多31%」という記事が掲載されました。前日の国交省発表を受けての記事です。
● マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施~工事を発注しようとする管理組合等が適正な見積りかどうか検討する際の指標となります~(国交省発表)
その内容は下記のようになっています。
国土交通省は、管理組合等によるマンション大規模修繕工事の発注等の適正な実施の参考となるよう、大規模修繕工事の金額、工事内訳及びその設計コンサルタント業務の実施内容に関する実態調査を初めて実施し、その内容を公表しました。
1.経緯・目的
マンション大規模修繕工事の発注等において、施工会社の選定に際して、発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されています。
国土交通省においては、平成29年1月に通知を発出し、注意喚起を図るとともに相談窓口を周知していますが、それに引き続き、管理組合等の大規模修繕工事の発注等の適正な実施の参考となるよう、本調査を実施し、提供するものです。
※ 利益相反の事例
設計コンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、割安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態
2.調査のポイント
本調査は、直近3年間に行われた大規模修繕工事944事例について、初めて調査を行い、大規模修繕工事の「工事内訳」「工事金額」、設計コンサルタント業務の「業務内訳」「業務量」の分布を統計的に整理したものです。
大規模修繕工事を実施しようとする管理組合等が、設計コンサルタントや施工会社から提出される見積り内容と本調査結果とを比較して事前に検討することにより、適正な工事発注等に活用されることが期待されます。
(事前に検討した方がよい主なポイント)
- 工事内訳に過剰な工事項目・仕様の設定等がないか。
- 戸あたり、床面積あたりの工事金額が割高となっていないか。
- 設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく低く抑えられていないか。特に業務量のウェートの多くを占める工事監理の業務量が低すぎないか。
本調査では、マンションの戸数規模別のデータも整理していますので、管理組合等は、自らと同規模のマンション群のデータに基づき、これらのポイントを比較することが有効です。
3.相談窓口の活用等
管理組合等において適正な工事発注のために本調査の結果を有効活用していただくとともに、必要に応じて大規模修繕工事に関する公的な相談窓口を活用していただくことが可能です。
で、詳細な調査結果も発表しています。朝日新聞の記事は、それまでの取材と、この国交省発表、調査結果によるものでした。
記事の中では、コンサルタントが、安い料金を示して管理組合と契約。コンサルは工事受注者を事前に決め、管理組合から聞き出した積立金の額に近い額で高い見積もりを提出させる。数社で見積りをとっても本命以外はすべてダミーの協力会社。そして、コンサルは受注業者からリベートを受け取る…という悪質コンサルの手口が紹介され、これが、特別な事例でない裏付けとして、工事業者の声を掲載しています。
20数年で100件近い修繕工事のほぼすべてでリベートを払った。払わないと、そのコンサルから仕事をもらえなくなるから。
また、問題は設計コンサルだけでなく、管理会社でも知り合いの工事業者を使って高く見積もるケースがあるという専門家の指摘もあります。
さらに、国交省の報告書の中から拾った数字として、大規模修繕工事にかかった一戸当たりの費用として、「75万円~100万円」が31%で最も多く、「100万円~125万円」が25%、「50万円~75万円」が14%。第1回目大規模修繕工事が、平均100万円、第2回目が平均97万9,000円第3回目以降が、平均80万9,000円と記載しています。
この具体的な金額について、直後より、いろいろご意見が寄せられてます。
- 1回「75万円~100万円」が一人歩きして、工事内容やマンションの特質による違いを無視して、工事代が高過ぎる、長期修繕計画の推定工事費が高過ぎるという人が現れ、かえって合意形成が難しくなる。
- 回が進むにつれ、工事内容も多くなるはずなのに、だんだん工事費用が少なくなるというのは納得いかない。
- アンケートの回答の金額自体に、コンサルや管理会社へのリベートが含まれているのか。
等々です。私もまだ報告書を分析し切れていませんが、朝日新聞の記事に対する反応が大きいので、記事の内容と、国交省発表の紹介を急ぎ書くことにしました。
不適切コンサル問題が取り上げられるようになってから、具体的な適正金額を知りたいという管理組合からの要望に応える形で、今回、国交省が調査結果を公表したのだと思います。
これまで、そういう質問をよく受けましたが、工事内容や建物の形状や状態を知らないで、数字を挙げることは、一人歩きが怖いので、皆が慎重にならざるを得ない面がありました。今回示された数字は一つの参考資料として意味があると思いますが、あまり、この数字に拘り過ぎるのも好ましくありません。
よりよいマンションにしていくためお金を掛けてバリューアップしていこうという意欲をそぐものであってもならないと思います。まずは、ぜひ、報告書本体を当たってください。そして、基本は、信頼できる専門家と一体になって、自分のマンションにとって適切な内容、金額の工事を実施することだということを忘れないようにしてください。そして、おかしいと思ったら、早めにセカンドオピニオンを。
- 無駄な工事が入っていないか
- 積算の数字が水増しされていないか
- 目立たないところで単価が大幅に高くなっていないか
を見てもらって下さい。
そして、国交省も言っているように、公的な相談機関を活用してください。前にも書いていますが、公益財団法人「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」では、無料で積算内容のチェックもしてくれます。
それにしても、よくも悪くも、新聞記事とテレビ報道の影響力にはびっくりします。また、この問題については、様々なご意見を踏まえ、書きたいと思います。
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