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失望の米朝共同声明。アメリカ本国でも真っ二つのトランプ評価

全世界の注目の下、12日に行われた米朝首脳会談。署名した「米朝共同声明」ですが、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」にも触れず朝鮮戦争終結への言及もなく、期待外れなものに落ち着いたようです。「CVIDが盛り込まれなかったことは、北が米の追求から逃げおおせたことを意味する」とする専門家の声も聞こえますが、トランプ氏は北朝鮮問題をどのように解決しようと考えているのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者でアメリカ在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、トランプ氏が目指す「5つの決着」を上げ、それぞれについて検証を試みています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

評価は真っ二つ。トランプと金正恩の米朝首脳会談に対する米国民の反応

トランプ大統領と金正恩との対談が注目を集めていますが、米国内での反応は日本のそれとは若干違います。

まず第一に、米国内の世論は「反トランプ派トランプ信者とでほぼ真っ二つに別れています。西海岸の、教育レベルが高く、かつ、移民が活躍しているリベラルな地域の人々はトランプを心の底から馬鹿にしており、逆に中西部から南部にかけての保守的な地域の人々にはトランプは大人気なのです。特に、製造業の仕事が大きく海外に奪われていく中で、街ごと廃れてしまったような地域の人々にとっては、トランプこそが救世主なのです。

リベラルな人々にとっては、今回の会談は中間選挙に勝つため人気取りだし、ナルシストであるトランプの自己満足でしかありませんが、トランプファンから見れば、これはノーベル平和賞に匹敵するほどの快挙なのです。

私自身はリベラルな地域の代表であるシアトルに住んでいるので、トランプ大統領自身はあまり評価していませんが、今回の件に限って言えば、多いに評価しているし期待もしています

今回の動きで、何と言っても重要なことは、韓国・北朝鮮の両国が共に平和を望んでいるし、(何らかの形での)南北統一を望んでいる点です。トランプ大統領は、それを巧みに利用して自分の功績にしてしまう可能性が大きいとは思いますが、それも悪くないと私は見ています。

金正恩の一番の望みは、現在の独裁体制を守ったまま韓国からの経済的な支援を受けることなので、独裁体制を維持できることさえ確認できれば、核兵器の破棄にも応じると思います。要は、金正恩が安心して核を放棄できる環境を整えることが、今回の交渉の鍵なのです。

中国は「朝鮮半島の非核化」という言葉を使って米国を牽制していますが、これは韓国に駐留している米国軍の核兵器の撤去をも含む話で、私は米国はこれに(段階的ではあるものの)応じると思います。中東と違って、朝鮮半島には石油利権もないし、極東には(米国で多大なロビー活動をしている)イスラエルのような存在もないので、朝鮮半島の緊張さえ解消することが出来れば、極東の軍縮は米国政府にとっても理にかなった話です。

さらに、トランプ大統領は、北朝鮮の復興に必要な資金は韓国と日本に出させる、と明言しているので、これにも注意が必要です。交渉が下手な日本政府が、「朝鮮半島の平和のため」という名目で、(大した見返りもなく)何兆円ものお金を約束させられてしまう可能性が大きいと私は見ています。

つまり、簡単にまとめると、トランプ大統領が目指している決着は以下のようなものになります。

  1. 朝鮮戦争の正式な終結
  2. 北朝鮮による核兵器の破棄
  3. 韓国に在留している米軍の縮小
  4. 韓国と日本による北朝鮮の経済支援
  5. トランプ大統領によるノーベル平和賞の受賞

1.はすぐにでもできる話ですが、2.と3.は方向性だけを決めて、時間をかけて交渉・実施していくことになると思います。特に2.は、上に書いたように「金正恩が安心して核を放棄できる環境」を整えることが必須です。

4.は当然、韓国は本気なので、日本だけが出さないというのは国際世論的に許されない状況に(上手に)追い込まれる可能性が高いと思います。

本来ならば、そこで拉致問題の解決、日本企業による北朝鮮内でのレアメタルの採掘権の取得などを条件にした上での支援にしたいところですが、そんな難しい交渉が、米国を交えた4国協議の場で日本政府に出来るとは思えないのが、とても懸念です。

特に韓国と北朝鮮は、2つの独立した国のままで(つまり金正恩の独占体制を維持したままで)、EUのような自由貿易経済圏を作ろうとするでしょうから、そこに日本がどこまで絡めるか(もしくは絡みたいか)がとても重要な話になると思います。

韓国と北朝鮮が自由貿易経済圏を作り、人や物の行き来が自由に出来るようになれば、北朝鮮が(独裁体制の維持のために)行なっている情報統制や言論統制が効かなくなるので、長い目で見れば、良い方向に(民主的な方向に向かうと私は期待しています。

しかし、こんな動きを見ていると、辺野古のサンゴ礁の埋め立てが時代遅れでとても馬鹿げていることのように私には思えます。平和交渉と経済連携を通じて、国と国との緊張を解消し、韓国と同様に日本の在留米軍も縮小する方向に持って行く(その結果、辺野古の飛行場は不要になる)のが、今の日本政府が取るべき戦略なのではないでしょうか。

 

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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