今やショッピングの主流にすらなりつつあるネットショップ。中小のスポーツショップでも、リアル店舗よりもネット上での売上が店を支えているというケースも少なくありません。しかし、そんな好調の波にも少しずつ翳りが見えてきたと、無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者・梅本泰則さんは記しています。その原因はどこにあるのでしょうか。
戦略の違う2つのネットショップ
どうも、ネットショップビジネスの潮目が変わってきているように感じます。特に、スポーツ用品のネット販売の伸びが止まっているようです。
いえ、メーカーさんによるネット販売や、アマゾンのスポーツ用品売上はまだまだ伸びていくことでしょう。問題は、中小のスポーツショップによるネット販売です。今まで好調だったというお店も、売上が伸び悩んでいると聞きます。どうしてなのでしょう。
スポーツショップがネット販売に進出してから、10年は経ちます。多くのお店が、ヤフーや楽天といったモールに出店しました。自店で集客をしなくても良いので、楽です。
勇気を出して出店したお店は、その後快調に売上を伸ばしていきます。年間で数億円の売上をあげるお店も増え、10億円を超えるお店だって現れてきました。リアル店舗では売上が芳しくないのに、ネットの売上で何とか経営を維持しているお店もあります。
ところが、10年も経つと、良いことばかりではありません。ネットショップが増えることで、価格競争が激しくなります。自然と利益率が下がって、儲けが出ません。しかも、在庫がたまっていきますから、資金繰りが苦しくなる一方です。
売上を回復しようと、ネット広告に費用をかけます。SEO対策にも一生懸命です。それでも、たいして事態は良くなりません。そんな状態に陥っているスポーツショップも多いのではないでしょうか。
そこで、2つのネットショップについてご紹介します。何かのヒントがあるかもしれません。
2つのネットショップ
その2つのネットショップは、10年前に同じように出店しました。リアル店舗はなく、ネットショップだけでの出店です。仮にA社、B社としておきます。
2つのお店が狙った市場は、どちらもそんなに大きくはありませんでした。せいぜい200億円ほどといったところ。そこは大手が真剣にねらってはきませんから、戦略としては正解です。
どちらのお店も、順調に売上を伸ばしていきます。A社は毎年二桁の伸びを示し、50人ほどの社員を抱えるまでになりました。一方のB社も10年で売上を数億円に伸ばし、従業員も20名を数えます。WEBサイトのデザインも商品の見せ方も一流です。いわゆるWEBマーケティングを駆使してお客様の数を増やしていきます。決して悪くはありません。
ところが、B社の売上はここ数年伸び悩んでいます。どうしてでしょう。実は、B社は多くのお店が取った戦略と同じように楽天などのモールを利用しました。
ここが問題です。
楽天は、お店の顧客リストを自由に使わせてくれません。勝手にお客様にDMやメールを送ってはいけないきまりなのです。顧客リストを活用できなければ、何のための販売努力でしょう。楽天を通じてメールマガジンを送ることは出来ますが、それも費用がかかります。
活用できない顧客リストには、何の価値もありません。すると、つまるところ商品と価格で他店との違いを出すしかありません。その違いを出すことができなくて、B社は売上に苦しんでいます。一方、A社はどうでしょう。
成功するネットショップの戦略
A社は、最初から楽天などのモールに出店する戦略をとりませんでした。自社のサイトで、地道にお客様のデータを収集していきます。その結果、今やA社のサイトへの登録会員は10万人です。
もちろん、その顧客リストはA社が自由に使えます。このことで、B社との違いが生じているのです。顧客リストを「財産」として考えられたかどうかが、大きな分かれ道になったと言えます。
顧客データについては、ヤフーもアマゾンも同じことです。今は規制が緩いかもしれませんが、重要な顧客情報を自由に使わせるとは思えません。ですから、B社は今からでも遅くはないので、自店で顧客リストを集めていくべきです。
そして、さらにいえば、A社とB社との違いはもう2つあります。その一つは「経営者の思い」です。B社の経営者も、しっかりとした「思い」は持っています。違うのは、その「思い」の社員への伝え方です。
A社の経営者は、その「思い」を頻繁に社員の皆さんに語り続けています。そのことで、全社員が同じ方向を向くことができます。このことができるかどうかで、事業の成長に差が出ます。
そして、もう一つは「周り」を巻き込む力です。「周り」の一つはお客様です。A社はお客様との接触を頻繁に行います。ネットショップでありながら、お客様と触れ合うイベントを次から次へと企画しているのです。A社の根強いファンが生まれます。
そして、もう一つの「周り」は、取引をしているメーカーさんです。A社の会員の何割かの方にアンケートを行い、市場レポート、ユーザーレポートとしてメーカさんに届けます。この情報はメーカーさんにとってはありがたいです。
さらにもう一つの「周り」があります。それは、銀行です。A社の事業計画書はもともと優れものですが、それとは別に毎年決算内容と事業戦略書を作って説明しています。これは、銀行と仲良くなる秘訣です。多くの銀行がA社の経営に巻き込まれていきます。
これのA社の行動は、出来そうでなかなかできることはありません。それでも、B社もA社の方法を参考にしてみればどうかと思います。ネットショップも戦略を変えるときのようです。
■今日のツボ■
- スポーツのネットショップは、曲がり角にさしかかっている。
- 自由に使えない顧客リストには、何の価値もない。
- 経営者の「思い」は、社員に伝え続ける必要がある。
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