次のライバルはコンビニ。マツキヨを倒した「ウエルシア」の野望

 

「ライバルはセブン-イレブン」~ウエルシアの差別化戦略

最大の差別化が店内にある調剤コーナーだ。ウエルシア全国1745店舗の3分の2、およそ1100店で処方せんを受け付けている。これはドラッグストアでは圧倒的ナンバー1。薬剤師の人数4400人も業界最多だ。店にはいつも同じ薬剤師がいるから、ホームドクター的な役割も果たしている。

24時間営業の店が140あるのも業界最多。ある店には子連れの客が、夜になっても子供のせきが止まらないと、24時間開いているウエルシアを頼ってきた。「急に熱を出す場合もあるので、24時間開いていると、すぐ来れるのがいい」と言う。この店は処方せんも24時間受け付けている。

一方、昼間のウエルシアでは試食会が行われていた。客が試食していたのはウエルシアのオリジナルハンバーグ。淡路島産のタマネギをふんだんに使っている。1個410円と、大手メーカーの量販品よりちょっと高めだが、売れているという。

他にもショウガたっぷりの餃子や低糖質のクロワッサン、カキテン入りの抹茶アイスクリームといった人気商品がある。ウエルシアのPB商品は健康にこだわったものばかり。これこそ、いま力を入れている差別化戦略だ。

PB商品の開発もドラッグストアらしいアプローチをしている。担当の商品統括部・桐澤英明がやってきたのは横浜薬科大学。ウエルシアのPBの多くは専門家と共同開発しているのだ。

パートナーの渡邉泰雄特任教授は食品の健康成分を研究している。いま開発中なのは、めかぶやなめこ、オクラなど、ぬるネバ食品を使ったもの。これらの健康成分をマウスの実験で調べたところ、「ぬるネバがたくさん入っていれば入っているほど体重の増加を抑える」というデータが得られたと言う。

「ぬるぬるネバネバした食材が体にいいことは、昔から話としては伝えられているが、実際はどうなんだということで、渡邉先生にお願いして研究していただいた結果、いいデータが出ました」(桐澤)

数日後、ウエルシア本社で新商品の試食会が開かれた。桐澤が紹介したのは、ぬるネバ食品を細かくして、お湯を注ぐだけでスープになるという試作品。池野も参加した試食会で高評価を得て、商品化を進めることになった。

今後も、健康にこだわったPB商品を増やし、他社との差別化を徹底するという。

「『ライバルはどこですか?』と聞かれるんですね。私のライバルはセブン-イレブン。どっちが便利かっていったら、ウエルシアの方が便利ですよ。地域にとって便利なことはなんでもやろうと思っているんです」(池野)

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マツキヨを抜いた~話題のドラッグストアが生まれるまで

埼玉県坂戸市のウエルシア坂戸鶴舞厚川店では、ちょっと変わった取り組みをしている。

朝9時、駐車場に軽トラックが続々とやってきた。シートを外すと野菜がドッサリ。お客さんも続々と来店する。

これは軽トラックによる朝市。この辺りは高齢者が多いが、買い物できる店が少ない。そこでウエルシアが近所の農家に声をかけ始めた。そこには池野の姿もあった。

「ここに店を作った時に引っ越した。今でもこの町に住んでいるんです」(池野)

池野がかつてこの町で始めた小さなドラッグストアがウエルシアのルーツだった。

池野はもともと製薬メーカーの「全薬工業」で営業を担当するサラリーマンだった。その後独立し、1971年、埼玉県内でドラッグストア「トップ」を開業。薬のほか、ちょっとした食料品を売るドラッグストアはアメリカ生まれ。池野の店は目新しさと便利さで人気を集め、20店舗まで拡大した。

だが、90年代後半になるとマツモトキヨシなどの大手ドラッグストアが台頭。池野は「うちのような中小の店はいずれ飲み込まれてしまうのでは…」と、脅威を感じていた。

もう一人、似たような思いを抱えていたのが、同じ埼玉県内のドラッグストア経営者・鈴木孝之だ。

「すぐ近くに競合店があって、向こうが特売すればうちのお客さんが減る。こっちが特売すれば向こうの客が減る、ということを毎日やっていた」(池野)

2人は互いにしのぎを削っていたが、薬剤師の鈴木の店には、池野の店にはない強い武器があった。それは店で処方せんの受付ができること。当時、調剤併設型のドラッグストアはまだ少なく、池野は羨望の眼差しで見ていた。

「行けば薬剤師がきちんと対応して薬を渡してくれるということで、非常に喜ばれていた。うらやましかったですね、こちらにはできないから。『すごいな』という気がしました」(池野)

そんなある日、池野は鈴木から、思いもよらない提案を受ける。鈴木は「池野さん、このままじゃ大手に負ける。2人で手を組まないか」と言うのだ。

「どうしてそういうことを言うのか、というのが率直な感想。至近距離で競争している店が3、4店舗あった。でも『一緒になれば競争しなくていいんだよ、一緒になればどっちかを閉めてどっちか生きればいいじゃないか』と。『マーケットを広く取っていこうよ』という話をしたのが印象的でした」(池野)

最初は面食らった池野だが、2002年、鈴木の店との合併を決断。店名をウエルシアに統一することになった。健康を意味するウエル」とラテン語で国を意味するシア」を合わせたもの。地域の健康の拠点にしたいという2人の思いが込められている。

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