進化が止まらない~薬局から街のインフラに
「地域のため」をキーワードに、池野はウエルシアをどんどん進化させている。
朝9時、お客が続々とウエルシア坂戸薬師町店にやってきた。しかし、レジの横を通り過ぎて店の2階へ。始まったのは地元自治会による体操教室だった。
これは池野発案の「ウエルカフェ」という取り組み。店の一角を地域の人たちに開放し、公民館のように自由に使ってもらっているのだ。
「ウエルカフェ」に店長の奥冨政美がやってきた。集まっていた人々に「何かお店に対する要望ありましたら」と聞いている。「野菜が少ない」「家庭菜園の肥料があるといい」と、お客から貴重な声が寄せられた。奥冨が「園芸商品の充実」とメモした。
1週間後、肥料が欲しいと言っていた客がやってきた、さっそく売り場へ案内する。奥冨は客の要望に応えて園芸商品を20種類増やし、2列だったコーナーも3列に広げた。
一方、再開発が進む東京・日本橋。オフィス人口も増え続けている。その一角に女性が集まる店があった。ウエルシアの新しい試み、働く女性向けのドラッグストア「ビビオン」日本橋店だ。
商品も女性を意識している。「美人茶」に糖質を半分に抑えたようかん。話題の口臭対策のコーナーや、悩んでいる女性が多い「足のむくみ」専用コーナーも。ファッション雑貨まで扱っている。さらに毎月、薬剤師による無料の健康相談会も開いている。
女性客の要望で店はどんどん進化していると池野は言う。
「気軽に来ていただいて、あんな売り場が欲しいとか、こんな売り場が欲しいと言われて、それを実現していく」
要望に応えて作った秘密の部屋をのぞくと、そこはフェイシャルエステ。「美肌再生コース」(60分)5400円と、専門のエステより割安だ。さらに歯に光を当てて汚れを取るホワイトニングも1回3240円。
そんな女性のオアシスだが、けっこう男性も利用している。「品揃えが多い、ヘルシーなものが揃っている、男性にとってもいいと思う」と言うのだ
進化し続けるウエルシア。池野のアイデアはまだまだ尽きない。
東京・浅草にこの春オープンしたウエルシア浅草まるごとにっぽん店は、さらに先を行っている。店内にはキッチンが。イートイン・スペースがあり、ウエルシアのオリジナル健康カレーを食べることができるのだ。
これには池野の深い狙いがあった。これから一人住まいが増えていく時代。食事までできる店があればお年寄りに喜ばれるのではないかと考えたのだ
「こういう店がこれからはもしかしたら大切なのではないかと思っていて、何店舗か作りながら、新しいドラッグストアの形が生まれてくる気がしています」(池野)
~村上龍の編集後記~
ドラッグストア業界は、まさに戦国時代を迎えている。かつて家電量販店がそうだったが、陣取り合戦のようにシェアを競う業界は、パワーとダイナミズムを持つ。
ただ、池野さんに「非情な武将」のイメージはなかった。「1店舗から、今は1800店舗に迫ってるんですよね」と聞いて、目が覚めるような答えが返ってきた。
「1店舗も1800店舗も、同じなんです」
地域の特性を考慮し、初心を忘れないということだろう。
「M&Aでは、相手に、小さい方に合わせます」
ウエルシアの躍進を支えるのは、野心を越えたフェアネスだ。
<出演者略歴>
池野隆光(いけの・たかみつ)1943年、広島県生まれ。大阪経済大学経済学部卒業後、1965年、全薬工業入社。1971年、池野ドラッグ開業。2002年、鈴木孝之の会社に吸収合併、ウエルシアに。2013年、ウエルシアホールディングス会長就任。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」