日本の国会で現在、盛んに議論されているのが「カジノ法案(統合型リゾート(IR)整備推進法案)」です。ギャンブル依存症が増えるだの、カジノに訪日外国人の観光客が奪われるだの、さまざまな懸念の声が挙がっていますが、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で米在住のジャーナリスト・冷泉彰彦さんは、こうした議論について「的ハズレにもほどがある」とバッサリ。現在、自民党が進めている「IR」の何がダメなのかについて示すとともに、「都市型IR」を目指すべき理由について持論を展開しています。
IRのビジネスモデルがダメな件について
ここへ来て日本経済にプラスとなるようにと、多くの政策が実施されようとしています。ですが、どの政策も「先進国を目指す」性格ではないし、このままでは「先進国型の経済」は衰退が加速するだけという危機感を感じます。
その中でも、IR(統合型リゾート)というものが話題になっており、国会でも議論になっているわけですが、ギャンブル依存症がどうとか、来日した観光客が「カジノで金をスってしまったら観光地に金が落ちない」などという奇怪な議論がされているようです。
的ハズレにもほどがある、とはこのことです。現在、自民党政権が進めているIRが何故ダメなのかというと、リゾート型と都市型の2種類あるうちのリゾート型を目指しているからです。
リゾート型のIRというのは、カリブ海などが典型で、観光地に建設して休暇をそこで過ごすタイプのものです。なぜダメなのかというと、このIRを狙っているのは外資であり、カジノの収益などは全部外資が持っていくでしょうから、日本のGDPへの貢献は雇用と、宿泊、飲食に限定されるからです。それ以前の問題として、リゾート型のIRは日本には向かないと思います。
日本というディスティネーション(目的地)については、すでに世界で人気化しており、新旧のカルチャーが興味深いとか、富士山が美しいとか、京都奈良などの古都が珍しいという初心者コースに始まって、現在はアルプスに登ろうとか、四万十川の清流がどうのとかというリピーター向けの企画にもインバウンドの旅行客が増加して凄いことになっているわけです。
日本に来る観光客は、1箇所に落ち着くことはありません。まして、空港からカジノに直行して、少し遊んだ後で日光へ行ったり、軽井沢へというような動きはしないと思います。日本には見るところも、やることも沢山あるからです。
ですから、とにかく都市型をやるべきです。日本の政治家の多くがシンガポールのMBS(マリーナベイ・サンズ)を見学して「あのようなIRがやりたい」と「IR推進派」になっているわけですが、あのMBSが典型であるように、都市型IRの収益の柱というのは国際会議です。そのノウハウを磨いて、その時々の旬の話題で世界中からビジネスの基幹人材を集め、人脈作りに利用してもらう、それが都市型IRです。
会議はもちろん有料で、1人4千ドルとか6千ドルという参加料を取り、しかも豪華な宿泊や料飲部門にお金を落としてもらえば、セットで1人が1回の滞在で1万ドル落とす、そういうビジネスです。では、カジノはどうしてそこにあるのかというと、一つは会議の「おまけ」としてリラックスしてもらうとか、家族帯同(日本の財界人には分からないカルチャーかもしれませんが)で楽しむためです。
ですから、ギャンブルにのめり込むのではなく、カジノはあくまで「ちょっとしたお遊び」という範囲です。ただし、カネを持っている人がメインなので、それでも相当なカネが落ちるというビジネスモデルです。
そっちを研究しないで、とにかく「日本経済にプラス」だからとリゾート型IRに走るのでは、結局はGDPはそんなにプラスにはならないと思うのです。
image by: tsxmax / Shutterstock.com